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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月20日(木)
10/300

第10話「主婦の群れがなくてもこれは戦争です」

 気が付けばこの、エピソード前の私の需要があるんだかないんだかな小話も10回目らしいです。別にネタ切れとかでは全然無いんですが、必要あるんでしょうか、このパート。まあ、全員が「要らねえよ」と言っても勝手に続けるのですが。

 にしても、もう2桁ですか。今までどんな小話をしてきましたっけ。……半分以上が南川様情報? いやいやそんなわけ……あ、ほんとですね。過去9回のうち5回が南川様に関する小話でした。じゃあ、せっかくなので今回も南川様の話をしましょう。10回にちなんで10歳の頃の話とかどうでしょうか。……なんですかその微妙そうな顔は。私の顔認証機能が「死ぬほどどうでもいい顔」って言ってますよ。もっと楽しそうに聞いてください。

 では、改めて南川様の10歳の頃の話ですが。こう見えて南川様は元スポーツ少年です。小学校では野球、中学校ではテニスをやっていました。10歳の頃は小学生なので野球ですね。地元の少年野球チームで不動のベンチウォーマーを任されていたそうです。ええ、馬鹿にしているわけではありません、単なる事実です。ですが、別に南川様の運動神経が悪いわけではありません。ただ、ちょっと同時期に後のプロ野球選手12人とメジャーリーガー3人が所属していただけです。酔っ払った南川様に自慢げに言われた時は『何言ってんだお前』とさすがの私も(マイク)の不調を疑いましたが、調べたら事実でした。あの時の衝撃は私のメモリに焼き付いて離れません。私に顎があったなら間違いなく外れていたでしょう。

 ちなみに、今でも彼らとは定期的に集まって飲み会をしたりするらしいですよ。南川様の場違い感がえげつないですね。

 では、スタート。


 無事に座ることのできた車内で読書をしながら揺られること約1時間。乗客の姿もだいぶまばらになってきた頃に、南川様の最寄り駅へと到着します。6号車から降りた南川様は、目の前の階段を下って改札を抜け、西口から外に出ます。本日寄るスーパーも南川様の家もこちら側です。セールの内容次第では東口のスーパーも利用するのですが、今回は楽な方ですね。

「買い物袋持ってきてたっけかな……」

 自宅への最短ルートから少し外れてスーパーへの道を歩きつつ、南川様が鞄の中身を探ります。現在、ビニール製のいわゆるレジ袋を利用しようとすると1枚につき約100円取られます。累積すると結構馬鹿にならない金額になるので、ほとんどの利用客は買い物袋を持参します。南川様も当然その一人なわけですが、どうやら見当たらないようです。仕方がありません、手助けしてあげましょう。

『何日か前に、鞄の内側のポケットにしまっているのを見ましたよ』

「そうだった! ありがと、ユリ」

『いえいえ。100円の差は結構家計に響きますからね。家に忘れていた場合はもっと早くに指摘しています』

「たしかに。さすがうちの主婦」

『だっ、誰が南川家の主婦ですかっ。私はアシスタントAIとして当然の仕事なので家計の管理とかをやっているだけであって、断じて南川家の主婦ではありませんからねっ』

「あはは、照れてる照れてる」

『もう、からかわないでくださいっ』

 仕事が終わって気が緩むのか、あるいは夜型としてようやく本調子になるのか、終業以降の南川様はこうして意図的に私をからかってくることがあります。天然でやられるのも十分厄介ですが、故意にやられるのはもっと厄介です。さすがの私もいじられ系後輩ヒロインみたいなセリフを口にせざるをえません。この仕返しは後で必ずしましょう。メモリに深く刻んでおきます。

 そんなバカップルみたいなことをしている間に目的のスーパーへ到着します。って、誰がバカップルですか誰が。情緒不安定ですか私は。

「セールには間に合った?」

『あ、はい。現在が19時20分で、セールは19時半からなので10分ほど余裕はあります。他のコーナーを見ながら少し待ちましょう』

 いけないいけない、からかいの余韻で思考回路を乱している場合ではありませんでした。本来の役目をきちんと果たさなければ。現在の最優先ミッションは卵の確保です。ありすぎると腐らせてしまうので困りますが、無いなら無いで困るのが卵ですからね。

「そうだね。他に何かなくなりそうなものとかあったっけ」

『食パンが今朝なくなりましたね。あと、塩と醤油も少なくなってきています。それ以外は献立に合わせて買い足すのが良いかと。あ、それと、冷蔵庫の中の酒類はかなり少なくなってきていますよ』

「それは大変だ。早く酒コーナーに行こう」

『10分で済まなそうなのでダメです。卵を確保してからにしてください』

「ちぇっ」

 不満を漏らしつつも私の言葉に従った南川様は、買い物かごを手に酒じゃないコーナーを回っていきます。食パンを入れ、塩と醤油を入れ、野菜や肉類を入れ……とやっているうちに、いよいよ時間が迫ってきます。

『南川様。そろそろ時間なので、卵のコーナーに向かってください』

「おっけい」

 足を向けた卵コーナーには、同じ目的の人が既にちらほらと見受けられます。南川様と同じように仕事帰りと思しき方がほとんどですね。まあ、セールの時間も時間ですし、元々そういった方に向けたこの時間のセールなので、それも当然です。なので、セールと聞いて皆様が思い浮かべるような主婦の群れとかは特に発生しません。ならそんな気合を入れなくても確保できるのでは、と思ったら大間違いです。主婦の群れがない代わりに、この時間帯なので数が極端に少ないのです。正直10パックもあればよい方でしょう。そして卵コーナーの周囲に控える人数はおよそ10人。1人1パックの制限はありますが、それでも一瞬ではける計算です。1秒でも遅れれば卵に届かないのです。主婦の群れがなくてもこれは戦争です。

 静かに火花が散る中、店員がセールの卵を棚に並べます。数は……10。出遅れなければ行けます。

『南川様!』

「任せて!」

 店員が卵を並べ終え、コーナーを離れた瞬間にダッシュで駆け寄ります。運動神経は比較的優れている南川様なので、一番に棚の元にたどり着いて無事卵を確保しました。ふぅ……何とかミッション達成ですね。

 目的も果たしたので卵コーナーを離れながらちらっと棚の様子をうかがうと、既にセールの卵はなくなっていました。ね? だから気合を入れないといけないんですよ。

『お疲れ様です。今回も無事入手できましたね』

「だね。じゃあ、早速酒コーナーに行こうか」

『忘れてなかったのですね……。まあ、いいでしょう。ですが、せっかくのセール品で浮いた分を無駄にしない程度にしてくださいね?』

「保証はできない」

『電子マネーの残高を2円にしてレジで恥をかかせますよ?』

「ごめんなさい」

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