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現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない  作者: HATENA 
第1章「最難関ダンジョンの孤独な開拓者」

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プロローグ「世界震動」

 その日、世界は少しだけ狂った。


 震度三。

 数字だけ見れば、大した揺れじゃない。

 けれど、あとでその揺れが世界中で同時に起きたと知った時点で、もう普通の現象じゃなかった。

 俺はその時、買ったばかりの家で寝ていた。

 大学進学を機に、一人で暮らすために手に入れた山際の家だ。周りに人はいない。駅からも遠い。大学へ通うには不便でしかない場所だったが、静かなのがよかった。

 誰かに合わせて暮らすのは、昔から苦手だった。


 「……揺れてるのか」


 眠気の残るまま起き上がる。

 段ボールはまだ開けきれていない。家具も最低限だ。

 そのせいか、揺れが収まったあとの部屋は拍子抜けするほど静かだった。落ちたものも、割れたものもない。

 枕元のスマホだけが、通知で何度も光っている。

 けれど、まず気になったのは家のほうだった。

 窓を開ける。

 冷たい空気が流れ込んでくる。山の匂いがした。


 「家は平気か」


 外へ出る。


 土も木も、見たところ変わっていない。鳥の鳴き声も聞こえる。遠くの道路から、かすかに車の音も混じっていた。

 だからこそ、すぐには気づかなかった。

 いつもの景色の中に、昨日までなかったものがあることに。


 「……あれ?」


 裏手の斜面。その奥。

 木々の切れ目に、暗い穴が見えた。


 洞窟。


 いや、洞窟みたいなもの、と言ったほうが近いかもしれない。

 この家を買う前にも何度か山を歩いた。購入後も、自分の土地の範囲くらいは確かめている。あんな穴があるなら、見落とすはずがなかった。


 「こんな場所、なかったよな」


 嫌な感じはしなかった。

 怖いというより、妙に引っ張られる感覚があった。

 地震の直後で頭がぼんやりしていたのもある。人がいない場所だという気安さもあった。

 気づけば俺は、斜面を踏みしめてその穴へ向かっていた。

 入口は自然物に見えて、近づくと妙に輪郭が整っている。奥から薄く光が漏れていた。


 「……なんだこれ」


 足を踏み入れる。


 ひやりとした空気が肌にまとわりつく。外の山の空気とは、濃さが違った。

 少し進むだけで、広い空間に出た。

 そこで、さすがに足が止まる。


 「は?」


 門があった。


 石造りというには綺麗すぎる、場違いなくらい大きな門。洞窟の奥に置かれるにはあまりに異質で、妙に静かだった。

 洞窟の湿った匂いだけが、やけに現実っぽい。

 そのせいで、余計に門のほうが浮いて見えた。


 「……誰かの趣味にしてはデカすぎるな」


 冗談みたいに呟いても、返事はない。


 試しに近づく。


 門の表面には見たことのない紋様が刻まれていた。触れるとひんやりしているのに、その奥が微かに脈打っているようにも感じた。


 「開くのか、これ」


 押してみる。


 ——ギィ。


 重そうな見た目に反して、門はあっさり開いた。

 その向こうへ視線を向けた瞬間、目の前に半透明の画面が浮かぶ。


 【名前】大月 在真

 【年齢】19

 【性別】男

 【職業】無職 Lv0


 HP:10

 魔力:2

 攻撃力:6

 防御力:4

 総合戦闘力:12


 【スキル】なし

 【固有スキル】幸運

 【称号】固有ダンジョン初/固有マスター級ダンジョン初/ダンジョン初/マスター級ダンジョン初

 【DP】3億100万


 「……いや、まんまじゃねぇか」


 ゲームの画面みたいなものが、そのまま目の前にある。

 しかも妙なのは、知らない単語に意識を向けると意味が流れ込んでくることだった。

 HPに目を止めると、生命力だと分かる。魔力、職業レベル、DPも同じだった。

 読んでいるというより、頭の奥に勝手に置かれる。

 理解できてしまう。

 それが一番気味悪かった。


 「……固有ダンジョン、マスター級」


 称号を見直す。


 初めて入った、で済む感じじゃない。

 しかも、DPの桁が気持ち悪かった。


 「三億って」


 思わず笑う。


 笑ったあとで、逆に少し冷えた。


 画面を辿る。


 称号へ意識を向けると、また意味が流れ込む。

 初めて入ったこと。

 ここがマスター級だったこと。

 その重なりで、固有スキル〈幸運〉と馬鹿みたいな量のDPが出ているらしい。


 「……いきなり大当たりってことか」


 うますぎる。

 そのぶん、どこかで嫌なものが返ってきそうだった。

 門の向こうは暗い。今すぐ奥へ進もうと思えば進める。

 けれど、さすがに何も知らないまま突っ込むほど馬鹿でもない。


 「今日はここまでだな」


 このまま入りたい感じもあった。

 でも、これ以上は頭が追いつかない。

 門から離れ、もう一度だけ振り返る。

 洞窟の中に、ありえないはずの門がある。

 夢なら、醒めたあとには消えていてほしい。

 そう思いながらも、消えてほしくない気持ちがどこかにあった。


 「……明日、また来るか」


 誰にも聞かれない場所で、小さく呟く。

 外へ出ると、山の風はいつも通りだった。

 その普通さが、逆に少しだけ薄っぺらく見えた。

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