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2章 41話 自分の決めた事


「ハァハァ」


 クレアは館から逃げて森の中を走っていた。


 あれからどうなったかよく覚えていない。

 アルベルトはクレアを残しどこかへ行ってしまった。


 ヴィオラはサーシャ達に襲われ、同じく青白く変貌してしまっている。

 あの容姿は見たことがある。聖書ででてくるグールだ。


 ロテーシャの護衛の一人がグール化したアルベルトの連れてきた騎士達を一度切り捨てたが、復元してしまい逆にロテーシャの護衛が噛み千切られ、ロテーシャの護衛の一人も青白くなってしまったのだ。

 その様子に無事だった他の護衛は我先にと逃げてしまったのである。


 サーシャ達は「うーあー」言いながら逃げた護衛兵を追いかけている。

 それなのにクレアはなぜか襲われない。禁呪が封じられていたのが関係しているのだろうか?


(とにかくこのままじゃ街の人達が、グールに襲われ化け物になっちゃう。

 サーシャ達から逃げている人達より先に街に行って、攻撃をうけたらグール化することを伝えないと!!)

 アルベルトの事が気にならないといえばウソになる。でもこの事態を放っておけるわけがない。クレアは、懸命に走るが、男の兵士の足に追いつけるわけがなく、このままだとグールのほうが街中にいってしまう。


 事情を知らぬ街中の人々が襲われればグールが増殖し町中に雪だるま式に増えていくだろう。


(グールが出たって街の騎士たちに知らせなきゃ!!)


 懸命に走るが間に合わず、町明かりが見えてきてしまった。

 そして―― そこには数人の警備兵と近くに通りかかった街の人。


「逃げてっっ!!!噛まれたらグールになるの!!!」


 クレアが叫んだその瞬間。

 グールを見た街の人の悲鳴が響き、警備兵が戦いを挑む。

 が、切りつけても切りつけても復活してくるグールに警備兵の一人が噛まれそうになったその瞬間。


 ずどんっ!!!!


 伸びてきた太い枝がグールを潰した。


(えっ……)


 唖然としてクレアが空を見上げれば、そこに現れたのは……金色の髪をたなびかせた少女。ベールをかぶってはいたが、はらりと風に吹かれ少しだけ顔が見える。

 そしてクレアはその顔に見覚えがあった。髪の色は違うがそこにいたのは間違いなく……


「リーゼっ!!!」


 クレアが叫ぶのだった。


 ■■■


 助けなきゃ!!助けなきゃ!!!


 このままじゃグールが街の人に攻撃してみんなグールになっちゃう!!!

 私達がグールの場所に到着した時には、もうグールは街の一歩手前まできていた。


 なぜかわからないけれど、グールと一緒にクレアもいるの。


 はやくグールを倒さなきゃ、クレアが襲われちゃう!!!!


 街に到着してしまったグールを私は蔦を伸ばしてぐっちょぐっちょになるまで叩き続ける。でないとまた復元しちゃうから。


 ファルネ様とシリルが言ってた。

 グールにはエルディア様の加護と違って復元力に限界があるって。

 だから復元しないところまでぐちゃぐちゃにしないとって!

 だから全部ぐちゃぐちゃにしなきゃ。


 ざしゅざしゅざしゅ!!!


 お願いお願いお願い。

 死んで!倒れて!

 いなくなって!


 街の人達を攻撃したらだめ!

 クレアも攻撃したらだめ!


 ファルネ様はエルディア様の加護があって魂が分離していたから助けられたけど、クレア達はエルディア様の加護がないから助けられない。


 街の門を突破したグールを何匹かぐちゃぐちゃにしていれば。


「ば、ばけもの……」


 その場にいた誰かの声で私は振り返る。

 そこには……真っ黒のオーラをまとって私を怯えた目で見る人たち。

 みんな凄い怯えてて、私を怖がった目で見るの。


 ……なんで?なんで?なんで?


 私頑張ったよ。みんながグールにならないように頑張った。

 なのになんでそんな目で見るの?

 何で身体のオーラが真っ黒になって怖がるの?私怖いの?嫌われちゃう?


「リーゼ……?」


 声が聞こえてそちら見れば……クレアも少し黒くなってる。

 私の事が怖いんだ。シリルの言葉を思い出す。


『あんたはちょっとずれている。人間の世界に戻るのは大変だよ?それでも戻るのかい?』


 ああ、そうだ。私は人と考え方が違う。

 私のいい事はみんなにとっていい事じゃない。

 だからファルネ様が本を読んでいっぱい教えてくれようとして、そして――今みたいに悲しい思いをするから記憶を消そうとしたんだ。

 真っ黒になって私を見る人たちの視線にとってもとっても悲しくなる。


 みんなを助けようとしたのに。

 みんなは私を怖がるだけ。


 どうしよう。私は考え方がおかしいから。

 だからいけないんだ。みんなは悪くない。


 頭では覚悟しているつもりだったのに。


 でも。悲しい。嫌だ。やめて。皆そんな目で見ないで。私、悪い子じゃないよ。

 私はみんなの味方だよ?なんで黒くなってるの?

 サソリを倒した時はみんな青くなったのに、何で今は真っ黒なの?


 わからない。わからない。わからない。


 あの時と今。一体何が違うの?やっぱり人間はわからない。わからないから怖い。


「あっ……」


 思わず手を伸ばせば、街の人たちが一斉に逃げる態勢にはいった。

 その視線の先にいるのはグールじゃなくて私なの。みんなが私を怖がってる。


「リーゼッ!!!」


 動きを止めてしまったから、復元したグールに襲われそうになったところを、リベルにのったファルネ様に抱きかかえられた。


「ファルネ様!」


『何ぼさっとしてんだい!!

 まだ殺り損ねたのが二匹残ってるじゃないか!!

 戦闘中手をとめるんじゃないよ!!!』


 他のグールを相手にしていたシリルが叫ぶ。

 そうだ。手をとめちゃだめ。

 悲しくても辛くても。だって聖女だもん。ファルネ様を守る聖女。

 もうさっきみたいにファルネ様を失いたくなんてない。 


『リーゼ大丈夫?大丈夫?』 


 私とファルネ様を背中に乗せたままリベルが声をかけてくれる。


「大丈夫ですか?どこか怪我でも?」


 ファルネ様も私をぎゅっとしてくれた。


「怪我してないよ。でもね、胸がぎゅっとするの。クレアに嫌われたの」


 そう言って私の言葉にファルネ様とリベルがクレアを見れば、クレアが身をすくませる。

 その顔はリーゼを怖がってて。その姿にまた私は悲しくなる。

 ポロポロと涙が流れてきて止まらない。

 ダメだよダメだよ泣いたらだめ。だってママがいってたの。

 泣いたら幸せが逃げていくから。ニコニコ笑ってるといいことがあるって。

 だから私は涙をこらえてぐっと笑うんだ。

 リベルがちょっと離れた森の中まで移動してくれて、クレアの姿が見えなくなる。


 泣いちゃだめ。泣いちゃだめ。泣いちゃだめ。


 悪い子だって怒られちゃう。

 蓋をしなきゃ。嫌な気持ちは全部蓋をして。ぎゅぎゅぎゅっとしてみんな忘れるの。


「……泣いてもいいんですよ。リーゼ。辛いときにまで無理に笑わなくていいんです」


 笑ったらファルネ様に抱きしめられた。あったかいあったかいファルネ様のぬくもり。


 いいの?いいの?泣いていいの?


 ファルネ様を見上げれば、優しく微笑んでくれて。

 ぶわっと涙が溢れてとまらなくなる。


「ファルネ様ファルネ様ファルネ様っ!!!」


 いっぱいいっぱいファルネ様を呼んで私はぎゅーっと抱きついた。

 悲しくて辛くて、胸のあたりがぎゅーーっと締め付けられて。

 どうしたらいいのか自分でもわからなくて。

 わけがわからなくなってただファルネ様にしがみつく。


「リーゼは頑張りましたよ。

 他の人たちを助けようとしたのでしょう?

 何も悪くありません」


 優しく心地よい言葉をくれて撫で撫でしてくれる。

 そうだ。ファルネ様がいるから私は平気。皆に嫌われても平気。

 ファルネ様達が記憶を消そうとしたとき、この道を選んだのは私だもの。

 ファルネ様は頭がいいから、きっとこうなる事がわかってた。

 私の考えはおかしくて。

 だから人間の世界に戻ると悲しい思いをするから記憶を消そうとした。


 でもそれを拒んだのは私自身。


 だから悲しくてもとっても悲しくても。受け入れなくちゃダメ。

 世界中にはいろいろな考えの人がいて、好きな事も嫌いな事も違うって。

 私は知ってる。世界はキラキラ綺麗に優しい世界に見えるけれど、本当は残酷だって。

 遠くで見ているだけなら綺麗で楽しくて。みんな優しく見えるけれど。

 本質的には残酷なんだ。

 優しい顔をして平気で騙す。

 騙されちゃ駄目。守るためにはそれ以上に残酷にならなくちゃ。

 私が守りたいのはファルネ様。

 大切なものを守るためなら嫌われても私は平気。

 ファルネ様がいれば平気。


 抱きしめられて安心する。


 そうだ。ファルネ様を襲ってくる人たちを殺した時誓ったんだ。

 ファルネ様は人を殺せない。でも私は大丈夫。

 だから殺すよ。守るためには殺さなきゃいけない時がある。


 もうグールになった人達は助からない、ぐちゃぐちゃにしなきゃダメ。


 怖がられたって誰かがやらなきゃいけないんだ。

 他の人に嫌われたって、怖がられたって。

 リーゼにはファルネ様がいるんだもの。

 シリルも。リベルも。ダイもレムもコロンも。


 神殿の皆もいる。私は大好きな人達に好きでいてもらえばいいんだ!


 さっきみたいにファルネ様を失いたくないから。


 私は迷わない。ママの言いつけ通り、いつも笑って、自分の信念を貫くの。


 私は懸命に戦ってくれているシリルとグールに視線を向ける。

 はやくシリルの応援しなきゃ。

 シリルはファルネ様にも神殿にも結界を張ってるからいつもより力がでない。

 その分私が頑張るの。

 迷わない。前をむこう。みんなが出来ないことを。

 みんなに嫌われる事を。

 恐れない。覚悟を決めて。

 きっと私は人と違う。人より変だ。


 だけどーー変だから出来る事があるのだと思う。


 『聖女』としての使命をこなさなきゃ。

 それが私のお仕事だもの。

 なぜか体がぽわぁっとして体中に力が溢れてくる。

 カルディアナ様の力が全身に流れてくる不思議な感じ。

 ああ、そうだカルディアナ様が体に降りてきたときと似た感じ。

 でも少し違う。この力はきっと私のもの。今なら何でもできそうな気がするんだ。

 私が指をくいっとすればグールが一瞬で霧散した。



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