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2章 40話 ダルシャ教徒


 昔々。

 新聖樹教(ダルシャ教)と呼ばれた宗派がありました。

 彼らは聖樹がなければ暮らせない世界に疑問を持ちました。

 聖樹により緑地があるにもかかわらず、聖樹によっては人間を受け入れない地がある事に疑問を呈したのです。


 彼らは聖樹の力を自らに還元し、聖樹を自らに取り込もうと試みました。

 禁呪という名の秘術を使い聖樹をも支配下におこうとしたのです。

 そこで目を付けたのが、当時ランバウディア大陸一の緑地面積を有したファラリナでした。彼らは、他の地で迫害を受けた神官一族をたぶらかし、ファラリナに近づけさせ--ファラリナにだまし討ちに近い形で戦いを挑みました。


 ファラリナの寵愛する聖獣たちを禁呪でグール化してしまったのです。

 そしてダルシャ教は聖女クラウを殺し聖樹ファラリナの力を取り込みに成功し―― 一時は上手くいくかに思われました。


 けれど聖樹の力は強大すぎたのです。


 聖樹は力をとりこんだものたちの力を吸い取る術を逆に利用しました。

 多大な力を無理矢理送り込み、耐え切れなくなった人間の術者達の精神を崩壊させ、自らの管理下におき、聖樹の奴隷としたのです。


 そして死んだクラウの代わりに当時赤子だったリベルを聖女とし、聖女リベルに乗り移って邪教徒撲滅に動き始めます。


 奴隷化したダルシャ教徒達の記憶を貪り食い、人間を逆にグール化させグール化した成獣と戦わせお互いを滅ぼした。


そして禁呪の記憶があるものたちを容赦なく殺しつくし、施設は燃やしすべての痕跡を消しました。もちろん殺害に女子供関係なく。禁呪に関わったもの全てを。


 ダルシャ教であり術の開発に関わった術師は恐怖しました。

 聖樹はやはり人間を滅ぼす気ならいつでも滅ぼせるのだ。

 この術を絶やしてはならないと。

 そこで、死ぬ間際無関係だった者の血に禁呪を封じたのです。

 その血を引き継いだ者はやはり禁呪をも引き継ぐように。

 ファラリナにバレないように。巧妙に記憶には残らぬように。その血に禁呪の記憶を封じ込めました。そうしてーー自らは記憶を抜き取られる前に命を絶ったのです。


 そしてその術が発動するのは……。


 その血に禁呪を封じられた者の大いなる「絶望」と。

 側に禁呪の秘術の魔方陣を刻んだ者がいること。

 聖樹に人々が滅ぼされ絶望が訪れた時。その術が復活するようにと。

 そして――その力がいま。発動しました。

 クレアの絶望とともに。



 ■□■


「な、何よこれ……」


 色白くなり目は真っ赤に充血し、牙をはやしたその異形と化した男とサーシャの姿を見てロテーシャや護衛、ヴィオラはたじろいだ。


「ああ、前もって術をかけておいたからね。彼らは選ばれた使徒になれたのさ。

人間を地上から滅ぼすための使徒に」


 アルベルトが恍惚とした笑を浮かべる。


「ア、アルベルト様!!これはどういう事ですか!?クレアを殺して私と結ばれるはずじゃ!?」


 ロテーシャが言えば、ロテーシャの頭が何かで貫かれ――そのまま血を流し倒れこむ。


「ああ、言ったね。死後の世界で勝手に二人で結ばれればいい」


 アルベルトがにっこり微笑みながら、こと切れたロテーシャを冷たい目で見下ろした。


「アルベルト様……?」


 ヴィオラが名を呼ぶが、アルベルトは笑ってその姿を見つめた。


「アルベルト……ああ、この体の本来の持ち主かい? この身体の持ち主なら魂を喰らってやった」


「喰らった?」クレアがアルベルトに聞けば


「うん。そう。君が恋人の前で断罪されて、蠍に襲われて絶望で力を発揮する予定だったのに、邪魔が入って上手くいかなかったからね。趣をかえてみたのさ」


 言って悪質な笑みを浮かべる。


「な、何を言って……」


「君の血にはね。禁呪の記憶と力が封じられていたのさ。

 その血の力を開放させるには二つの条件があった。

 禁呪の記憶の血をもつ者の絶望と、禁呪の術者が側にいること。

 これだけ言えば意味がわかるだろう?」


 アルベルトの顔の何かがにっこりと微笑むが……。

 クレアには意味がわからなかった。

 確かに過去、血塗られた一族の末裔と馬鹿にされたいた事はあった。


 けれどーー本当だとは思っていなかった。


 つまりこの男は、クレアを絶望させるためだけに、ロテーシャ達にあんなことをさせ、それが失敗したためアルベルトの命を奪い身体を乗っ取ったというのだろうか?


クレアのせいで、アルベルトは殺された?


現実を受け入れられず、クレアが固まっていれば、アルベルトの身体の何かは嬉しそうにグール化したサーシャたちを見つめた。


「さぁ、復讐の始まりだ。ダルシャ教を迫害し、聖樹達に寝返った人間達に」


 アルベルトの身体に入った何かの笑いがあたりに響くのだった。


 ■□■


 自分は気が付けば、いつの間にか封じられていた。

 長い長い年月。何故封じられたのかすら覚えていない。

 けれど、憶えている事がある。


 それは人間達の裏切り。


 聖樹を支配下におけると、喜び勇んでダルシャ教を祀っていた人間達が、ダルシャ教がファラリナの前に敗れた途端、手のひらを返したように自分達を迫害してきたのだ。


 ファラリナが各地に放ったグールよりも早く、ダルシャ教徒を私刑に処したのは人間達だった。親も兄弟も見せしめにと無残に殺され、残ったのは深い人間達への恨み。


 その恨みを抱えたまま、ダルシャ教徒はその憎しみを忘れぬようにとファラリナに滅ぼされる前に自分達を封じた。

 そして目覚めたのは遺跡調査隊が自分たちの封じられた石碑を触ったからだ。

 

 なぜかはわからない。けれど意識を取り戻した時は邪教徒達は遺跡調査隊の身体に魂だけ入り込んでいた。 その遺跡調査隊の一人がトルネリア大陸に留学中のアルベルトだったのである。本人たちに気づかれぬように徐々に魂を侵食し、意識のない時は身体を乗っ取った。


 すべては人間達に復讐するため。


 アルベルトの恋人がかつて自分たちの仲間の一人が血に記憶を刻んだ一族の末裔だった時、どれ程歓喜しただろう。


 これは運命だったのだと。


 クレアをロテーシャに断罪させて惨たらしくギロチンにして絶望させる予定だったのが狂ってしまった。

 蠍に襲わせて腹を切り裂かれ体内から食われる恐怖で絶望に陥れようとしたがこれもまた失敗した。

 仕方なくロテーシャとヴィオラを逃がしこのようなくだらない寸劇をしなければいけなかったのは予定外だったが、上手くいったのだからよしとしなければならない。


 今頃邪魔な聖女のいる神殿も自分がそそのかした男のせいでグールの対応に追われ、こちらの動きを制止する暇などないだろう。カルディアナが瞑想している間に、人間どもを滅ぼしてしまえばいい。

 アルベルトの中に入り込んだ邪教徒は邪悪な笑みを浮かべるのだった。





誤字脱字報告&ポイント&ブクマ本当にありがとうございました!

本当は37話予定だった話を投稿し忘れていました(´・ω・`)

2章完結後こっそり話の順番が入れ替わってるかもしれません……orz

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