2章 39話 機転
やってやった。
グラシルの元部下だった男ボルテは微笑んだ。
ファルネが刺されたのを確認したあと、部屋から逃げ出したのだ。
今頃、ラーズもファルネもグール化しているだろう。
あのアルベルトとかいう男からもらった薬で新人神官がグール化していまごろ儀式中の神官連中を襲っているはずだ。
グラシル様の仇だ死ねばいい。
そしてグラシル様を笑いものにした聖樹もろとも人類全体滅びればいいのだ。
ボルテがほくそ笑んだその瞬間。
カイルとイヴァンが男の前に立ち塞がる。
「お前が毒をもった犯人か」
「ははっ!!今更遅い!!
ラーズも今頃グール化しているころだ!!
聖女がいようが、グール化した人間は助からない!!
お前らも滅び……」
「誰がグールになったか説明してもらおうか?」
言って現れたのはラーズで、その後ろには銀の狼と、グールに貫かれたはずのファルネ、そして巨大な熊とその後ろに少女が立っている。
『さぁ、誰の指示でこんなことをしたのか、脳を引きずりだして教えてもらおうじゃないか』
銀の狼が牙をむいて邪悪な笑みを浮かべるのだった。
■□■
『まさか魂を抜いてグール化の組織のみ破壊してまたエルディアの加護で身体を復元するとはね』
ボルテを縛り上げて、記憶を覗いたあと、別室で落ち着いた状態でシリルがため息をつきながらいえば
「魂が定着していないおかげで助かったともいえますね」
と、ファルネがくっついて離れないリーゼの頭を撫でたまま苦笑いを浮かべる。
「ファルネ様」
「心配させて申し訳ありません。リーゼ」
「ファルネ様ファルネ様ファルネ様!!」
ぎゅっと抱き着くリーゼをファルネは強く抱きしめた。
魂を侵食されるまえに、シリルにもらったエルディアの指輪を外し、魂と肉体を隔離する。そして、一度ファルネの身体をずたずたにして殺し、禁呪の力が消えたところで聖女の力で復元し、元の身体に戻る方法を提案したのはファルネだった。
『まさか、禁呪の復元力と聖樹の加護の復元力の違いを利用するとは……』
シリルが大きなため息をつく。
一度肉体と魂が離れた事がこんなところで功を奏すとは夢にも思わなかった。
魂と肉体が完璧に合致していなかったことが、魂のグール化を防いだ。
以前エルディアの森で死んだ時に完璧に肉体と魂が戻らなかったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。いい子いい子とリーゼの頭を撫でるファルネを見て、シリルは思う。
ファルネの評価を少し改めないといけない。
単なる優男だけというわけではないようだ。
『それにしてもまだ終わってないらしい。
さっきより街全体に漂う禁呪の臭いが濃くなっている。
倒しにいくよ。リーゼ。リベル。
絶対油断して体の結界を解くんじゃないよ?
ダメージを食らえば聖女でもグール化する。
神官が助かったのは過去に魂と体が離れて定着していなかったからだ。
私達ではそううまくいくとは限らない。
結界だけは何があっても解かないこと』
『倒す!倒す!!グール倒す!!』
『リベルとリーゼは一緒に行動!!』
と、シリルが言えばリーゼがぎゅっとファルネに抱きつくので
『あと、神官もついてきな。
いいかい?私が神官に結界をはるからあんたは自分の結界に注力しなよ』
と、付け加えればコクコク嬉しそうにリーゼが頷く。
『禁呪の臭いの濃い場所がある!そこにいくよ!』
「わかった!!!」『倒す倒す倒す!!ママの仇!!』
「神殿は守ってね!ダイ!レム!コロン!」
聖樹の種をまいてリーゼが叫べば、神殿の外に巨大な樹の精霊ダイ・レム・コロンの3人が出現する。
「ここはお願いねみんな!」
リーゼの言葉にダイ・レム・コロンはキュキュと答えるのだった。











