2章 38話 葛藤
「シリル様……」
倒れているファルネにシリルが近づけば、ファルネが視線を向ける。
身体が変形していてるのが、シリルの目にも明らかで。
ファルネがグール化しているのはすぐにわかった。
部屋の中にはリーゼとシリル、リベルとラーズとカイルだけにないっている。
駆け寄ろうとするリーゼをリベルが取り押さえていた。
「申し訳ございません。加護をいただいたにも関わらずこの有様です」
ファルネがせき込み口から血を流す。
だがその血はもう赤くない。どす黒い緑。
「ファルネ様っ!!!」
「近寄らないでください!!!!」
ファルネが叫び、リーゼがその動きを止める。
『もう助からない。
グール化したものは聖樹でも救えない。
殺すしかないんだよ。ファラリナがリベルの母聖女クラウを救えなかったように。この禁呪は聖樹でも救えない』
そう言うシリルの言葉に。
その場にいたものすべてが固まるのだった。
■□■
「すみません。リーゼ」
言って微笑むファルネ様の笑顔は相変わらず優しくて。
それなのにお手手がまるで魚さんみたいにウロコができはじめている。
ファルネ様はシリルの魔法で束縛のつたが絡まってて動けないけど。
目の前にいるのはファルネ様。
グールなんかじゃないよ?
『もう時間がない。
魂まで喰われる前に悪いが殺るよ。
エルディアの加護を解く』
シリルが言えばファルネ様が目を細めた。
「嫌だ!!嫌だ!!!嫌だ!!!嫌だっ!!!!!!!」
私はリベルを振り払ってシリルとファルネ様の間に入る。
『リーゼっ!!!!』「リーゼ様っ!?」
シリルやラーズ様達が私を怒った目でみるけれど。
「ダメ、ダメ、ダメ。ファルネ様は殺させない。
グールになったって戻す方法があるかもしれないものっ!!!
ヤダ、ヤダ、ヤダ!!リーゼのファルネ様を殺さないでっ!!」
『リーゼ!どきなっ!
このままじゃ魂まで闇に食われて神官が苦しむ事になるんだよ!?
永遠に苦痛を味わう事になる!!
あんたの我侭で、神官を苦しめたいのかい!??』
「いやっいやっいやっ。
ファルネ様がずっと苦しい想いをするのも嫌。
でもね嫌なの。
ファルネ様がいなくなるのも嫌なのっ。
だってファルネ様は私の天使様なんだよ?
私を拾ってくれて。
素敵な名前をつけてくれて。
毎日毎日ご飯をくれて。
寂しいときは抱っこしてくれて。
寝る前には絵本を読んでくれて。
あーあーあー!って話しかけると意味がわからないのに、一生懸命聞いてくれようとしてくれて。
今のリーゼがあるのはみんな、みんなファルネ様のおかげなの。
ファルネ様は大事な大事な大事な人なの。
お願い奪わないで。
私から大好きなファルネ様を奪わないでっ!!」
「リーゼ……」
「それにっ!まだファルネ様に作ったクッキーだって渡してないんだよ。
大好きって言って渡す予定だったの!!!!
儀式が終わったら渡すはずだったクッキー。
一生懸命作ったの。
なんでなんでなんで。おかしいよ。
こんなの絶対おかしいの」
私が言いながら泣けば、シリルが怖い顔をして私を睨む。
『それなら仕方ないね』
言ってシリルが私に何か攻撃しようとしたとき。
ばしんっ!!
それを振り払ったのはリベルだった。
『リベルっ!???』
今まで何もしゃべらなかったリベルが私とファルネ様を守るように立ちふさがったの。
どうして?シリル大好きなリベルが?
私がぽろぽろ泣いていれば
『リベル、リーゼの気持ちわかる!リベルもママ助けられなかった!
ダメなのわかってる!きっとシリルの行動正しい!!!
シリルは頭がよくて、優しくて、いつもリベルやリーゼの事思って行動してくれる!でもっ!!正しいと気持ちは別!!
リーゼの記憶なくす話の時、リベル胸がぎゅっとなった。
ぎゅーっとぎゅーっとなった!
でもシリルの言うこと、いつも正しい。リーゼが幸せになるから我慢した!』
リベルが隣でぎゅっとお手手を握る。
リベルも身体が震えていて、きっと泣きたいのを我慢してる。
『でもっ!!間違ってた!!!リーゼ幸せになれなかった!
シリルでも間違う事ある!!だから今回もダメ!!
こんな事誰も幸せになれない!!
きっと神官殺したらリーゼもシリルももうお話しなくなる!
シリルもその事ずっと気にして生きていく!!
シリル優しい!一人できっと罪を背負う!!!
リーゼも大好きな神官いなくなって悲しい!
リベル知ってる!!いっつも側にいたからよく知ってる!!
リーゼはエルディアの森でずっとずっと毎日神官起きるの待ってた!
リーゼにとって本当に本当に大事な人!!!!
だからダメ!!これはリベルの考え!
ここで神官殺したら誰も幸せになれない!!!
神官守る!助ける方法探す!!!』
言ってグルルと牙をラーズ様とカイルに向けた。
いつの間にか視界の外からラーズ様が魔法を唱えていたみたい。
ラーズ様もカイルさんも今は敵。ファルネ様をグール化する前に殺すつもり。
だめ、だめ、だめ!!戻す方法はあるかもしれないもの!!!
ファルネ様は守る。
『リベル……』
シリルがどうしようかと迷っているようでしっぽが垂れる。
そうだ。助ける方法はあるはず。
私がシリルを。リベルがラーズ様とカイルさんを見張りながら構えればしばらく沈黙が続き
「……シリル様。私に考えがあります」
沈黙を破ったのはファルネ様だった。
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