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2章 37話 嘘だ

 黒い何かがカルディア中に広がった。

 私でもわかったの。

 この世に居てはいけない何かが。

 いま国中に広まったって。


『シリル!!!』


『ああ、不味いっ!!いくよっ!!!』


 私のお部屋でおやつ中だったけど同じく黒い何かを感じたのかシリルとリベルが立ち上がった。

 何か変なものがばーーーっと広がってその黒いのが何かに侵食していく感じ。

 そしてその何かが神殿の中にもいるの!


 そして……そこにたぶんファルネ様も!!


 急がなきゃ急がなきゃ!!


『リーゼ乗って!!神官のところいく!!』


 リベルが大きくなって私を背中にのせると走り出した。


 お願いお願い。

 どうか無事でいてファルネ様。



 ■□■


「聖樹様の大いなる恵みに――」


 大聖堂にラーズのよく通る低い声が響く。

 陽光の儀式で、聖樹がみえる神殿のホールで厳粛な儀式が執り行われる。

 神殿総出で儀式を執り行い、そのあとに大神官が無事聖樹の瞑想が終わるようにと祈るのだ。

 今回は、闘技場の蠍の件で神官達も出払ってもあり、例年よりも小規模な式となってはいるがそれでも、儀式だけは執り行わねばならない。

 これもまたカルディアナと交わした誓約の一つだからだ。

 厳格な雰囲気の中、淡々と儀式が進みラーズが口上を述べた、その時だった。

 

「ぐああぁああ」


 礼拝中の神官の一人が奇声をあげる。

 儀式の前にボルテに薬を飲まされた神官だ。

 白目をむいてグガガガと泡を吹いてのたうち回っている。


「何事だ!!」


 周りの神官の達がその男性神官を介抱しようとして集まり、彼を外につれだそうとした。

 ラーズも気にはなったが儀式は神聖なものであり、具合が悪いものが出たからといって儀式を途中でとりやめるわけにもいかず、そのまま聖書を朗読し、カイルとファルネもラーズの両側で控えていたが――。


「ご ろ ずっ!!!!」


 新米神官は介抱しようとした神官達を人間とは思えぬ力で振り払った。


「!?」


 男の手が物凄い勢いで伸び、ラーズを貫こうとする。


「なっ!???」


 あまりの速さのため誰も対応できず



 ひゅんっ!!!



 その神官から伸ばされた手が、ラーズを貫こうとしたその瞬間。


「!?」


 聖書を持って背を向けていたためラーズの反応が遅れ


「ラーズ様っ!!!!!」


 声とともに、間にはいって貫かれたのは――ファルネだった。



 ■□■


 部屋につくと。

 ファルネ様が宙を舞っていた。

 モンスターの触手みたいのに貫かれて、お空を飛んでいたの。


 一瞬のはずなのにとてもとてもとても長く感じた時間。


 空を舞っているファルネ様と目があって。


 心無しか微笑んだ気がしたの。

 そしてごめんねって言った気がしたの。


 慌ててファルネ様を受け止めようとしたらシリルに止められる。


『行くな!!リーゼ!!もう神官は禁呪にやられた!!触れればあんたもグール化する!! 私でも殺すしかなくなるんだっ!!』


『大変!大変!リベルもわかる!あれママ殺した禁呪!グール!

 神官禁呪にやられた!!』


 リベルが叫ぶ。


 禁呪?


 カルディアナ様の加護でもなおせないあの禁呪?


 私がシリルを見れば、シリルが目をそらした。


 嘘。嘘。嘘。


 グール化したリベルのお母さんは聖樹様でも戻せなくて死んじゃったって聞いた。

 ファルネ様も死んじゃうの?ファルネ様ももう会えないの?


 ――リーゼ――


 ファルネ様の声が聞こえた気がした。


 嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。



 嘘だっ!!!!!!!



 気がついた時には私はファルネ様を貫いたグールを消滅させていた。




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