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2章 35話 悪夢のはじまり

「これからどこに行くの?サーシャ?」


 森の中を馬車で走りながら、クレアがサーシャに尋ねる。

 家に帰るのは危ないからと、サーシャとクレアはアルベルトが用意してくれたホテルに泊まり、ホテルから移動しようとサーシャが王都の広場を抜けた森の中をクレア達は馬車を走らせていたのだ。


「アルベルト様所有の別荘です。

 ロテーシャ様がもし謹慎を解かれてもクレア様に手出しできないように、アルベルト様と一緒に暮らすことにするそうです。店にいればどんな嫌がらせをうけるかわかりませんから。

 よかったですね。クレア様」


 そう言ってほほ笑んでくれるサーシャ。


「はいっ!!」


 サーシャの答えにクレアは胸を躍らせた。

 アルベルトと一緒の生活。

 どれほど夢見た事だろう。


 母が死んでからいびられる日々だったのを、救い出してくれたのはアルベルトだった。

 好きなお菓子作りをさせてもらってお店をつくってもらって。

 毎日挨拶にきてくれて。

 優しい言葉をかけてくれた心を癒してくれる大事な人。


 彼と暮らせるなんて夢みたい。


 到着したのはこぢんまりとはしているが作りの立派な屋敷だった。

 森の中だというのに手入れもちゃんとされていて庭園も綺麗に整備されている。


「ここですよ。アルベルト様は仕事が終わったらくるそうですから。

 先に入って待っていましょう」


 サーシャがカギを片手に言ってくれる。

 ここでアルベルト様との生活がはじまる。

 到着した館にサーシャと入り、クレアがこれからの生活に心躍らせホールのドアを開け……絶句した。


「そんな、嘘……」


 クレアがドアを開けたその先にいたのは


「あら、主役の登場ね?」


 ロテーシャと義妹のヴィオラだった。



 □■□


 ファルネ様早く帰ってこないかなぁ。

 私専用の中庭で椅子に座って私は足をパタパタさせていた。

 少し離れたところでシリルとリベルが聖女の修行中。

 私の練習はすぐ合格したんだけど、リベルは聖女の修行はさぼり気味なんだって。

 食べる事と料理に対する集中力を聖女の修行に向けられないものかとシリルに怒られてた。


 私はその様子を見ながらファルネ様に渡す予定だったクッキーをみるの。

 ファルネ様のお顔の形につくったクッキー。

 クレアが乾燥剤と一緒に包んでくれたから大丈夫なはずだけれど。

 私はいまだ渡せないでいた。

 いろいろありすぎて、渡す機会がなかなかなくて渡しそびれちゃった。


 私がじーっと見つめていれば。


「リーゼ様。どうかなさいましたか?」


 ファルネ様の代わりに私のお世話をしてくれるフローラさんが聞いてきた。


「豊穣祭のお菓子、まだファルネ様に渡せてないの」


 私がしょぼんとして言えば、豊穣祭のクッキーは次の日でも大丈夫ですよ。

 今日渡してあげたらいかがですか?と、フローラさんがにっこり笑顔で言ってくれる。


「そうなの!?そうなの!?」


「はい。豊穣祭に参加できない年齢の者は今日渡すのが普通ですから。

 渡してあげれば喜ぶとおもいますよ」


 うんうん。そうするよ!ファルネ様はやく終わらないかな。


 私がニコニコしていれば


『フローラそろそろおやつの時間!』


 リベルが嬉しそうに手を挙げた。


『まだに決まってるだろう!

 さっき朝食を食べたばかりじゃないか!?

 修行が先だ!!』


 と、リベルがシリルに尻尾でぺちって叩かれる。


「シリル!私ももっと修行したい!」


 私が手をあげれば、シリルが、「ずいぶん張り切ってるね」って言うの。

 うんうん。禁呪の件もあるし、ファルネ様を守るために修行して強くならなきゃ。

 ファルネ様は優しいから。私が守ってあげなきゃいけないの。


 何があっても守れるのは結局は力。

 私は知ってる。


 世の中は綺麗な事もあるけれど、それと同時に残酷だって。

 それを一番知っているのは、他の子よりひどい目にあった私だからこそなんだと思う。


 言葉は何の武器にもならない。

 悪い人には優しさなんて通用しない。

 話し合いなんて無駄なんだ。だって悪い人の中で答えはでているんだから。

 弱い人を虐めたり殺したりするだけ。虐めてくる人は反省しない。

 私の叔父さんや叔母さんやシャーラやクレアを虐めていたお姫様や妹さんみたいに。

 虐めると決めて弱い人を虐めて楽しんでる。

 だから倒すの。悪いやつを。


 ファルネ様の手は私と違ってとっても綺麗。だから私が守らなきゃ。


 そのために修行しないと!


 痛い記憶も、つらい記憶も、全部ぎゅぎゅと蓋をして。

 私は前を向いて歩くって決めたから。


 私はそのために強くならなきゃいけないんだ。 


 私は――ファルネ様を守る聖女様なんだから。


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