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1章 7話 ファルネ視点

「お前、本当にあの子を引き取ったのか?」


 神殿のファルネの自室でファルネにカイルが聞いてきた。

 森の中でファルネと一緒にリーゼを拾った神官の同僚。

 金髪の活発そうな青年だ。


「はい。放ってはおけませんから」


 ファルネが答えた。


「だが奴隷だったらどうするつもりだ?

 例え捨ててあったとしても所有権は奴隷主にある。

 お前が匿ってると知れたら、お前が罰せられるかもしれないんだぞ?」


「構いませんよ。

 あれほど酷い状態で放置していったという事は邪魔で捨てて行ったのでしょう。

 私が介抱しなければあそこで死んでいたはずです。

 所持していた貴族が探しているとは思えませんから」


「だがな。お前を引きずり落としたい神官連中は山ほどいる。

 特にヴァルノア派の神官達はお前の事を目障りに思っているだろう。

 大神官様に次の大神官にしたいと直接名指しされてるんだ。

 お前をたたき落としたくて仕方がないはずだ」


 そう。最近になって聖女が発見されたと神殿では大騒ぎになっている。

 それまでは大神官派のラーズ派が神殿の実権を握っていたが聖女を見つけたことにより神殿勢力は一気にヴァルノア派に傾いた。


 毎朝神殿の廊下をまるで見せつけるように聖女がヴァルノア派の神官達を引き連れ神殿の中を歩きまわっている。


 まるで自分の権力を見せつけるかのように。


 彼らはラーズ派の派閥の神官のスキャンダルを嬉々として責めてくるだろう。


「……そうですね。気を付けます」


「……捨てる気はないのか?」


「はい。もちろん。

 一度拾った命です。

 一度希望を与えて、突き放すくらいならば最初からするべきではない。

 あの子を拾ったからには最後までやりとげます。

 あのような幼い子を裏切るようなことはできません」


「……わかった。

 やるならうまくやれよ」


「……はい」


 本来なら、彼女をきちんとした施設に入院させて回復させてやるのが一番なのだろう。

 けれどそれが出来ない理由がそこにあった。


 彼女が奴隷の可能性がある。

 

 もし医者になど見せて届けがでていれば持ち主に戻されてしまうだろう。

 外観からはわからないが、奴隷の身体には認識できる魔法のコードが刻まれている。

 鑑定されてしまえば一発でわかってしまうのだ。

 あのような惨い状態にして捨てた持ち主に戻されれば今度こそ殺される。


 自分が治療のため触れようとするだけで、ぶたれるのではないかと身体を緊張させる彼女を思い出しファルネはため息をついた。


 拾った時はガリガリで触れるだけで折れてしまうのではと心配したほどだったが、最近は少しふっくらしてきて顔色もよくなってきた。

 やっと自分でベッドから起き上がるほどの体力を回復してきたが、それでもあれで奴隷の身に落とされたとしたら、役たたずと殺される未来しかない。


 いくら奴隷といえども本来なら人権が認められ、あそこまで酷い状態にされるなどと聞いた事がないのだが……。


 彼女からは聖気が感じられる。


 全てを包む慈愛の力。

 本来なら全てに愛される力のはずなのだが……。


 人を傷つけるのを好む性癖の持ち主と会ってしまうと、何をしても許されると勘違いさせてしまう力がある。


 だからこそあのような酷い状態にまでされたのだろう。

 二人は会話かわしつつ、部屋から出れば、


「噂をすれば聖女様だ」


 かなり先の方から聖女がヴァルノア派の神官達を引き連れて歩いてきた。

 カイルがやれやれと廊下の端にたち、神官特有の祈りのポーズをし、ファルネもそれに倣う。


 本来なら聖女と言えばもっと敬わねばならぬ存在だ。

 神に選ばれし聖なる力をもつ少女。

 世界に実りをもたらし魔物を払いのける世界の救世主。


 だがシャーラは田舎の商家の子だったせいか素行があまりよくないため人望がない。

 神官達に威張り散らし、贅沢の限りをつくしている。

 中には本当に聖女なのかと陰口を叩くほどのものがいる。

 特にカイルやファルネは聖女を保護した神官達とは派閥が違うため聖女に話かけることもできない。


 いつもなら何も言わずに通り過ぎる……はずだった。


 が、今回は違った。


 ファルネの姿が目にとまったのだろう。


「貴方お名前は?」


 ファルネは尋ねられ顔をあげた。


■□■


「ファルネ・シルバードです」


 言って男は仰々しく頭を下げた。

 青髪の端正な顔立ちの青年。

 年齢は18歳のシャーラより少し上くらいだろうか。

 今まで見てきた神殿の神官達の中でも端正な顔立ちにシャーラは息を呑む。

 まるで物語に出てくる王子様のようでシャーラは頬を染めた。

 この気持ちが恋というのなら間違いなく恋だ。


 聖女の相手としては一神官というのは身分が低いけれど。

 私は聖女。

 この人を大神官にすればいいだけ。


 シャーラは微笑む。


「よろしかったら一緒にお茶でもいかがかしら?」


 聖女の申し出にファルネは戸惑った。

 聖女が神官と親密になるなどありえないことだったからだ。

 

「……聖女様。

 今はそのような暇は」


 聖女が引き連れていた神官の一人が制止すればシャーラはいかにも不機嫌な顔になり、


「わかりました。それではまた後日会いましょう」


 言ってにっこり微笑み去っていった。


■□■


「……おい。ファルネ」


 去っていった聖女を見つめカイルが声をかければ


「……荷物を纏めないといけませんね……」


 と、顔を青くして下を向いた。

 神官と聖女の恋愛は禁止されている。

 過去に聖女と神官の恋愛のいざこざで聖女が殺されてしまったという伝承があったからだ。

 その為そういった関係になりつつある神官は聖女と関わりのない僻地へ飛ばされる。


 対立派閥の取り巻きの前であれだけ堂々と言い寄られれば、逃げようがないだろう。


 ファルネの家はもともと他大陸の貴族だったため、閑職に廻されても金に困ることはない。

 けれども小さいときから聖樹を芽吹かせる事を夢見ていたファルネにとっては聖樹から離れなければいけない事実は苦痛でしかなかった。

 聖樹の側にいなければ聖樹の実が手に入らないからだ。

 聖樹の中でも実を落とすのはカルディアナしかない。


 そして何より――まだ歩くのもやっとの少女を。

 僻地へとどうやって移動させよう。


 山積みの問題にファルネは肩を大きく落とした。


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