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2章 31話 聖女ソニア

「わー」「きゃー」とあたりに悲鳴が響く。


 私がシリルに乗って闘技場に到着すれば、ものすごく闘技場の前は混乱してた。

 人々が逃げ惑ってる。


『おかしいね。荒野サソリはあんなでかくないはずだけど』


 シリルが高い建物の屋根にのった状態で呟いた。

 近くで見ると本当大きい。

 普通のお家なんてぺしゃんこにしちゃうくらいの大きさ。


 なんでだろう。なんでだろう。


 私は頭がよくないからよくわからない。でも一つわかる事がある。

 はやく倒さないと被害が広がっちゃう。


 聖樹の種を地面に置いて魔法を唱えれば聖樹の種は私の声に応えてくれる。

 ぶわっって大きくなって蔦がうにょうにょになるの。

 私が敵の方を見てみれば荒野サソリのお尻の方から何か小さいサソリがまたわらわらでてきてた。


 はやく倒さなきゃ!!!


 お願い殺して!!!


 私が心で叫べば。聖樹の蔦が一度天高く空まで伸び……急降下して容赦なくサソリたちを貫くのだった。



 ■□■


 どうしてこんなことになったのだろう。

 リーゼ達と別れた後、クレアは馬車で大神殿に向かい、闘技場の横の通りを通過していた時だった。

 

 けたたましい爆音とともに、闘技場から大きな荒野サソリが姿を現したのだ。

 逃げ惑う人々で馬車は進むことができず、「クレア様こちらへ」と、武装した神官達にクレアは手を引かれる。


 闘技場では荒野サソリを戦わせて賭け事をする習慣があった。

 だからクレアも荒野サソリの存在は知っていた。

 闘技場の壁を突き破って現れたそれは、あきらかにクレアの知っているサソリと大きさが違う。平民の家などつぶしてしまうほどの巨体なのだ。

 メキメキと闘技場の壁を壊している。


 ギギギギ


 振り向いた瞬間。遠くにいるはずの荒野サソリと……なぜか目があった気がした。


 巨大な荒野サソリから、わらわらと、小さなサソリが無数に放たれる。

 まるで餌を求めるかのように人間たちを追うそれと逃げ惑う人々達。


 悲鳴をあげながら人々が逃げていく中を武装した神官に囲まれながら走り逃げるクレアは思う。


 助けて――アルベルト。


 願っても。想っても。アルベルトは現れる事はない。

 そしてギチギチギチギチと小さな荒野サソリの大群がクレアの方に向かってくる。


 逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ。


 神官に手を引かれて逃げるけれど。後ろでは悲鳴が轟いている。

 迫ってくるサソリの大群に、クレアはなぜかゾクリと黒い何かが身体を駆け巡るのを感じた。

 サソリの群れが人々に到達しようとしたその瞬間。


 それは現れた。


 ザシュ!!!!

 ザシュ!!!!ザシュ!!!!!


 小さなサソリ達が木の蔦に次々と貫かれ、ピギィっと悲鳴をあげて緑色の液体を吐きながら空を舞う。


 恐る恐る振り返れば――そこには木のツタ。

 ツタの根幹を見上げれば、天高く伸びた木の幹に、白いローブを身にまとい、白いベールで顔を隠した金髪の少女と、銀色の毛並みをもつオオカミと巨大な熊が立っているのだった。


 そう――かつて、偽聖女たちを裁いた聖女達の姿がそこにあったのである。


「聖女様!!!」

 

 誰かが叫んだ瞬間、悲鳴は歓声へと変化した。

 その歓声とともに、聖女達は駆けだした。

 サソリを倒すべく。


 ■□■


 幻想的な光景だった。


 聖女達とサソリ達が闘うさまをみて、クレアが思ったのがそれだった。

 すぐ逃げなきゃいけないはずなのに。

 金色の髪をなびかせ闘う少女や銀の狼、熊、聖獣の姿にクレアは目を離せなかったのだ。


 蔦を伸ばし足場をつくり、サソリの緑の毒液を避けひょいひょいと空中を舞う銀の狼に乗った聖女と。

 小さなサソリたちを容赦なく張り倒していく熊。


 サソリを相手にしていく聖女達の戦いはまるで御伽話にでてくる戦闘シーンのようでクレアは息を飲んだ。


 蔦をも緑の唾液で防ぐ大型のサソリに聖女は、光を放ちサソリの殻と殻の割れ目から容赦なく打ち込んでいく。

 もがき苦しみ落下しそうになるサソリを木の蔦で空中に舞い上がらせると、サソリのハサミがある両腕を付け根から容赦なく切り落とし木の枝に乗り微笑んだ。

 目は見えない。でも聖女の口元は常に微笑んでいて。

 その姿はまるで闘う戦乙女のようだった。


 そして聖女が手をあげたその瞬間。


 サソリは木々の蔦に絡まれ容赦なく握りつぶされるのだった。



 ■□■


「クレアっ!!大丈夫かっ!!!」


 聖女達がサソリを倒し終わったあと、広場には大量の神官と国の騎士達がバタバタと駆けつけていた。

 聖女達はすぐ姿を消し、けが人を聖樹教の神官達が治療し、騎士達がけが人を集めている。


 アルベルトは人ごみをかき分けクレアの元にかけよったのだ。


「ごめん、まさかこんな事になるなんて。

 君の馬車が襲われたと聞いて向かったのだけれど間に合わなかった」


 アルベルトがクレアに謝るけれど、クレアは微笑んで首を横に振る。


 未だ聖女達の戦闘に見惚れていた者たちも同じようで。

 その場に腰を抜かしたまま誰一人動けない。


 聖女カルディアナの誓いを破り、聖女様は意地の悪い商家の人間に監禁されて暴行をうけていて人間を嫌っていると噂されていた聖女様。

 けれど、それでも人間を見捨てる事なく戦って守ってくれる。


「ありがとうございます。聖女様」


 クレアは居なくなった聖女達のいた方に祈るの。


 そのクレアの姿を険しい表情で眺めているアルベルトの視線に気づかぬままに。


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