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2章 26話 ソニアの5歳の誕生日

「それじゃあ行ってくるね!」


 もうすぐみんなでダンスの時間。

 広場に続々とドレスを着た女の子や男の子が集ってる。

 クレアが好きな人と踊るみたいで嬉しそうに私に手を振った。


「頑張って!頑張って!」


 私もクレアに一生懸命手を振るの。

 うまく踊れるといいな。


『本当によかったのかい?あんたは踊らなくて』


 クレアを見送ってからシリルが私のスカートから出てくるの。

 クレアがいるから一応隠れてたんだ。


「うん!ファルネ様は年齢で踊っちゃダメなんだって。

 リーゼファルネ様以外とは踊らないよ」


 私が一緒に踊りたいのはファルネ様。

 他の男の人とじゃないもの。


『やっとでれるー!やっとおかしー!』


 リベルも、嬉しそうにファルネ様のローブからでてきて、ぽりぽりお菓子を食べだすの。

 そして

 

『リーゼ!リーゼ!リベル今度はリーゼのスカートの中がいい!』


 リベルがもそもそと私のスカートの中にはいってくる。


「うん?いいよ!でもどうして?」


『神官うるさい!あれしちゃダメこれしちゃダメ言う!』


『あんたがフラフラしすぎなんだよ!いるのがバレるじゃないか』


 とリベルの言葉にシリルが怒って、リベルを私のスカートの中からひっぱりだした。


『だってお菓子いっぱい食べたい!』


『ここにいっぱいあるじゃないか』


『机の上の食べたい!』


「リベル様、神殿で同じものを一通り用意させますので。

 今は我慢していただけると」


 ラーズ様が紅茶をいれながらいえば、リベルが満足気にうんうんうなずいた。


 よかったねリベル。


 シャーンシャーン。


 不思議な鐘の音が辺に響いた。

 その途端、広場にいた人たちが一斉に広場の中央に向かっていく。


「リーゼ。そろそろダンスがはじまりますよ」


 言ってファルネ様が私を抱っこしてくれて、広場がよく見えるようにしてくれる。

 楽しみ楽しみ楽しみ。

 色とりどりの綺麗なドレスを着た人たちが一斉に踊るってきっと上からみたら綺麗だよ。

 絵本でよく見たもの。それが現実で見れるって素敵な事だよね。



 ■□■



 盛大なオーケストラの演奏とともにダンスがはじまった。

 みんなペコリと挨拶したり、お花を渡したりして、しばらく経つと音楽が変わる。


 そして―― 一斉にみんな踊りだすの。


 凄い凄い凄い!!!!

 綺麗なドレスを着た人たちみんな綺麗にクルクル踊ってる!


 綺麗なドレスやスーツを着た人たちが音楽にあわせて踊るんだよ。


 それが揃っててすごく綺麗で。


「ファルネ様凄いね!」


 私が言えばファルネ様がそうですねって微笑んでくれる。


「いつかファルネ様とも踊れるかな?」


「そうですね。今度神殿で舞踏会を開きましょう。

 その時一緒に踊ってもらえますか?お姫様?」


 ファルネ様がちょっといたずらっぽく言うので私も嬉しくなって微笑んだ。


 その時。

 不意にパパの声が聞こえたの。


「ソニアの5歳の誕生日は盛大にやって踊りも踊ろう」


 舞踏会をレストランのバルコニーからみてて、どうしても踊りたいって泣いてたらパパが約束してくれた。

 ソニアの五歳の誕生日は盛大にやってくれて。

 皆で踊ろうって。


 それを急に思い出して。


 私は泣きたくなった。

 ずっとずっと思い出せなかったパパの声。


 そうだ――ソニアにも幸せな時代はあったんだ。

 ソニアは一度この舞踏会を会場の外から見てた。

 ソニアもいつかこれに参加するんだなってパパが言ったら、ママがまだはやいでしょ。何しんみりしてるの?と笑ってたのを思い出す。


 ソニアも――パパとママが死ななかったら毎年ダンスも踊れたのかな。

 ああやってみんなの輪の中にはいれて。

 皆と楽しく踊ってたのかもしれない。


 どうして?どうして死んじゃったのパパとママ。

 ソニアはずっとずっとパパとママの帰りを待っていたんだよ。

 なのに帰ってきてくれなかった。

 ソニアはずーっとずーーと叔母さんにいじめられてて。

 寂しかった。痛かった。ママとパパに会いたかった。

 毎日毎日助けて助けてってパパとママに祈ったの。

 痛くてつらくて寂しくて。

 でもね、いつからかパパとママのお顔も声も思い出せなくなっちゃった。


 だってソニアの事好きだったらパパとママはソニアの事置いていかないもの。

 助けてくれるはずだもの。


 だからパパとママはソニアの事嫌いなんだ。


 毎日シャーラにそう言われて、ソニアはパパとママも嫌いになっちゃった時期があったんだ。


 ごめんね、ごめんねパパとママ。


 顔も声もはっきりと思い出せないのはソニアが悪い子だったから。

 どうしてこんな大事な事を忘れちゃってたんだろう。


「リーゼ?」


 気がついたら涙がこぼれそうになって、ファルネ様が心配そうに顔をのぞき込んできた。

 私はぶんぶんっ顔をふった。

 嫌な気持ちは蓋をするの。そしてにっこり笑顔にならないと。

 ファルネ様に心配させちゃだめ。


「嬉しくて!ちょっと泣きそうになっちゃった!」


 私がにっこり微笑めば、ファルネ様も微笑んでくれて。


「一緒に踊りましょうね」


 と、ぎゅっと抱きしめてくれる。

 何でだろう。凄く凄く幸せなはずなのに。

 嫌な事ばかりを思い出して今の幸せと比べちゃう。

 なんで私は不幸だったんだろうと思っちゃうの。

 違うよ、違うよ。今が幸せなら幸せなはずだよ?

 悲しい思い出には蓋をしないといけないのに。勝手に蓋をあけてでてくるの。

 私はぎゅっとファルネ様にしがみつく。


 嫌な事は全部ちゃんと蓋をしておかなきゃ。出ないようにきっちりと。

 今の幸せをちゃんとかみしめなきゃ。


 どうか辛い事を思い出しませんように。


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