1章 6話 幸せな日々
あれからいっぱい日にちが経過した。
私は部屋の中の家具につかまりながらなら歩けるようになった。
ファルネ様も「これくらい回復すればお留守番もできますね?」とお出かけすることが多くなってしまったけれど、絵本や食べ物を置いていってくれるので特に困らない。
お水を飲みたい時に飲めて、ご飯も食べたい時に食べられて、好きなときに起きて好きな時間に寝れる。
お姫様みたいな生活。
夜にはファルネ様がお勉強を教えてくれて、本当に夢みたい。
今がとても幸せすぎて、時々不安になる。
寂しくて押しつぶされそうになると、いつもファルネ様が絵本を読んでくれたり、抱っこしてくれる。
ファルネ様は私のパパかママの生まれ変わりなんじゃないかと思う。
そうじゃなければ私にここまで優しくしてくれるはずないもの。
家にはしっかりと鍵がかけられてて、一人で外に出てはいけませんよと言われてる。
もちろんファルネ様との約束は守るんだ。
昔おうちからでてパパとママと一緒にいなかったからパパとママは死んじゃった。
だから私はここから絶対出ない。いい子にしないとファルネ様も死んじゃう。
もう嫌。お外は怖い。ご飯をもらえないのも。ぶたれるのも。痛いのも全部嫌。
思い出してしまうと、また怖くなるから。
私は考えないようにする。
辛いときは楽しいことだけを考えるの。
夢の中の私はいつも幸せで。
温かい寝床と食べ物が一杯で。
でもいま私は想像していたよりもずっとずっと幸せな世界にいる。
いつも虐められていたときはこんな幸せな生活があるなんて知らなかったから。
ファルネ様帰ってこないかなぁ。
今日は何のお話をしてくれるのかな。
昨日の女の子がドラゴンに会うお話みたいなのがいいな。
ファルネ様は絵本を読むのがとっても上手。
怖い時は怖い声。楽しい時は楽しい声で読んでくれるの。
お願いお願い。
はやく帰ってきて。
一人だとまた怖い人がきて、私をいじめるんじゃないかと不安になる。
お願いお願いファルネ様。帰ってきて。会いたい会いたい。会いたい。
お布団の中でずっとファルネ様の帰りを待っていれば
「戻りました。リーゼ。いい子にしてましたか」
カチャリとドアが開かれる。
リーゼは今の私の名前。
前のお名前は悪い人に見つかるといけないから使わないってファルネ様がいってたの。
ファルネ様がつけてくれたとってもとってもいい名前。
「あ、あー!」
いつものファルネ様の声に嬉しくなって私はベッドから飛び起きた。
よかった。よかった。帰ってきてくれた。
一生懸命ベッドから起き上がって、ファルネ様の前に行けば、いい子いい子と頭を撫でてくれる。
「今日は新しい絵本をもらってきました。
勉強が終わったら読んであげますよ」
と、沢山抱えた本を大事そうに棚に置いた。
すごいすごい。一杯本がある!
表紙は見えないけれど、一杯ある本に嬉しくなる。
今度はどんなお話だろう。
私の視線が本に注がれている事に気づいたのか
「食事と勉強が終わってからですよ?
文字をかけるようにならないと、伝えたい事も伝えられませんから」
と、めっと指で制止されてしまう。
うううー。読みたいけれど文字を書けるようにもなりたい。
「とりあえず、食事を作ります。
いい子に座っていてくださいね。
今日は貴方の好きなシチューとパンにしましょう」
そう言って微笑むファルネ様の笑顔は優しくて、私はウンウン頷くのだった。
■□■
コトコトコト。
スープを煮込むいい匂い。
甘くてトローリとしたシチューの香りに、私はまだかなまだかなと、ファルネ様の背後からのぞき込めば、
「もう少しですよ。座って待っていないと。
あまり長時間立っていては、身体に毒ですよ」
と、ぽんと抱きかかえられ、そのまま運ばれて食堂の椅子に戻されてしまう。
食堂はご飯を作る場所と離れているからファルネ様の背中が見えないから嫌い。
ずっとファルネ様を見ていたいのに。
でもわがままを言うと怒られるかもしれないからいい子に待ってるの。
ここからファルネ様が見えればいいのに。
食堂の食卓からファルネ様の背中を見ようとするけれど壁が丁度あって見えない。
ファルネ様が来るのをまっていれば、シチューとパンをもって机に置いてくれる。
「さぁ、できましたよ」
言って運んできてくれたスープをふーふーしてくれた。
ファルネ様がふーふーしてくれる横顔が好き。
ニコニコ見ていれば
「リーゼは本当にシチューが好きですね。
待っててくださいね」
と、頭を撫で撫でしてくれる。
「あー」
シチューも好きだけどファルネ様も好き。
口を動かして言おうとするけれど、ファルネ様は私がシチューを待ってると思っているみたいでパンをちぎってパンにシチューをつけてくれていて見ていない。
お口を動かしてもファルネ様は気づかない。
声がだせればいいのになぁ。
「はい。食べてください」
言ってちぎったパンにシチューをつけたのをお皿に置いてくれて、私はそれをパクパク食べる。
いつも私が飲んでたスープはもっと泥の味がしてこんなに美味しくなかったのに。
ファルネ様の作るシチューは甘くてとろりとしててとっても美味しいの。
きっと天使様だからお料理が上手なんだと思う。
パンもふわふわ柔らかくて。
カチカチだったパンとは全然違う。
「リーゼは本当に幸せそうに食べますね」
私の食べてる姿をみてファルネ様が微笑んだ。
私はウンウン頷いた。
だってとっても幸せだもの。
毎日ご飯が食べられて。
あったかーいお風呂に毎日入れて。
夜になるとお布団で寝れる。
ふかふかのほわほわのベッド。
ファルネ様のご本を読む声はとっても優しくて。
毎日怒鳴られてなじられた甲高い声とは全然違う。
どうかお願い。
この幸せがいつまでも続きますように。