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2章 20話 危惧(他視点)

「……んっ」


 ファルネは重みを感じて目を覚ました。

 部屋の中は少し薄暗くなっており、いつの間にか自分は眠ってしまっていたらしい。

 気づけば、リーゼが隣に椅子を置いた状態でファルネの肩に頭をあずけ眠っていた。


(ああ、寝過ごしてしまいましたか)


 ファルネは思いながら、リーゼを起こさないように膝の上に移動させた。

 リーゼを出迎えるつもりがいつの間にか自分は寝てしまっていたらしい。


 スヤスヤと寝るリーゼを見つめファルネは微笑んだ。

 そのまま自分を起こすことなく隣で寝ているのがリーゼらしくもあり愛おしく思う。


「おかえりなさいリーゼ」


 言ってファルネは微笑むのだった。


 ■□■


「……では、リーゼ様が舞踏会に行きたいと?」


「はい。どうしましょう?」


 カイルの報告にラーズは頭を抱えた。


 豊穣祭の36日目。

 裕福な家の出の10歳から18歳までの子供が舞踏会に参加する行事は確かにある。

 成人の儀のように、強制参加の儀式ではないのだが……。

 貴族や商家の子供達が我先にと煌びやかな衣装を身に付け、財力や流行を誇示する儀式でもある。

 若者達は出会いを求めて楽しみにしている行事でもあった。

 リーゼが行きたいと自分から言ったのならば、参加させないわけにはいかないだろう。

 でなければ、また聖樹カルディアナが夢枕に立ち、ナタをもってこないとも限らない。

 聖女の加護があるリーゼに危機が迫るとは思っていない。

 いくらダルシャ教の残党がいたとしても、禁呪の知識は聖樹ファラリナによって葬られ、残ってはいないとカルディアナがいっていたからだ。

 危惧していることは……リーゼが暴走して人を殺めてしまう事だ。

 自分の姪ということにして、ラーズがつきっきりで付き添う以外に道はないだろう。

 大神官の姪に無礼を働く者がいるとも思えない。

 もし――大神官の姪と知ってなおリーゼが赤く見えるほど敵意を向けてくるのであれば、それは敵に他ならない。

 殺しても問題はないだろう。


「わかった。警備を万全にするように手配しよう。

 なるべく隠密に、人と接触しなくてすむ方向で手配する」


 言ってラーズは大きくため息をつくのだった。

 


 ■□■


「おい、聞いたか。神官ヴァルノアが遠い僻地に飛ばされたらしいぞ」


 神殿内部の食堂で、神官達の会話が聞こえてくる。


「そりゃ、グラシルがあんな事をしたんだから仕方ないだろ。

 ヴァルノア派の神官は皆閑職に追いやられて監視付きの扱いになるらしいぞ」


「あいつらのした事を考えれば当然だ」


 と、食事を食べながら二人の神官がヴァルノア派について語っていた。

 その話を聴きながら神官ボルテは内心舌打ちした。

 ボルテは元々ヴァルノア派の神官でグラシルの腹心だった。

 あのまま順調にいけば、神殿で高い地位を約束されていたはずだったのに。

 聖樹の極秘情報を漏らし、偽聖女を崇めたという罰でグラシルは裁かれてしまった。


 本来ならヴァルノア派のボルテも閑職に追いやられ大神殿で務める事などできないのだが、ヴァルノア派から密偵としてラーズ派に忍び込んでいたため、ボルテがヴァルノア派であることを知る者がいないのが幸いした。



 こうしてそのままラーズ派に居座っていられるのだから。


 けれど、グラシルに心酔していたボルテにとってはこの状況は苦痛でしかなかった。

 確かにグラシルは金に汚く、怒鳴り散らす事が多かった。

だが、家族をそれなりに厚遇してくれてて手当は手厚かったのだ。

病気の母に貴重な薬をわけてくれた心優しい一面もあった。

 グラシルを不当に裁いた神殿と聖樹になんとか復讐することはできないだろうか?


 そんな事を考えながら神官の業務が終わり、ボルテが帰路につく道すがら、彼の前に男が立ちふさがった。

 ローブを被っていて顔はよく見えないが、身のこなしからそれなりに剣の扱えるものだろう。


「貴方がボルテさんですね?」


 男が聞いてくる。


「だとしたら何だ」


 ボルテがいかにも優男風の男に聞き返せば


「あなたの望みをかなえにきました」


 と、男は微笑むのだった。


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