2章 16話 一人の時間(他視点)
「護衛を変更ですか!?」
ラーズの執務室で、ファルネを呼び出しリーゼの提案を説明すれば思った通りファルネが絶望的な表情になる。
ラーズとカイルはその姿を見てため息をついた。
「わ、私はまた何かリーゼを怒らせる事をしてしまったのでしょうか?」
慌てて身を乗り出してくるファルネにラーズはため息をついて。
「豊穣祭、女性同士、相手はお菓子作りが上手い。
これだけ条件が揃っていればいくらお前でも何故外されたのかわかるだろう?」
ラーズが目を細めて聞けばファルネの動きが止まる。
そしてしばしの間。
しばらく見つめ合い――そしてファルネが目を上に泳がせる。
――わかってないのかこいつ――
心の中で同時にラーズとカイルが突っ込むのだった。
■□■
「豊穣祭の最後に渡されるお菓子はそのような意味があったのですか!?」
ラーズに説明されてファルネが驚きの声をあげた。
元々ファルネはこの大陸には神官になるために移住してきた。
幼少期を過ごしたのは別の大陸だ。
神官になってからはカルディアナの種を芽吹かせる事と神官の業務のみに神経を注いでいたため、まったく知らなかったのである。
「そ、それでは……いままでお祭りの帰りにかってきてくれたと渡されたお菓子は……」
ファルネが顔を青くする。
よく豊穣祭でお菓子をくれる女性が多いなとは思っていた。
だがそのような意味がある事はまったく知らなかったのだ。
もしそういう意味があったのならもっと誠実に返事をするべきだったのに、ファルネは気づかずに何の返事もしないまま終わりにしてしまっていた。
お菓子のお礼にと同等くらいのお菓子を買って返していただけなのだ。
おそるおそるカイルに聞けば
「そういう意味があったに決まってるだろ」
「そ、それでは頂いた女性に謝罪してこないと」
「安心しろよ。相手も諦めてたから。
単なる年中行事になりさがってたから胸をはれ」
「そ、それはなんと言っていいのかわからないのですが……」
「神殿内の件はもういい。
相手もお前の事はわかっていただろう。
それよりも、午後はリーゼ様の付き添いはカイルに変更する。
それと、今回の事でよくわかったと思うが――。
リーゼ様は長い監禁生活で、基準が人とずれている。
こちらの話した意図を間違って受け取っている可能性を考慮するべきだろう。
リーゼ様と話すときは丁寧に一から説明し、意図を間違って受け取っていないか、確認する事が大事だ。
……それと、ファルネ、カイルが護衛に出ている間は自分の時間をもちなさい」
「自分の時間……ですか?
私はリーゼの側にいるだけです。
特に疲労はありません。
業務もこなせます」
「肉体的疲労はないとしても、精神的にはそうでないだろう?」
「………え?」
「お前はリーゼ様の意見を尊重しようとするあまり、自分を見失いつつある。
確かにリーゼ様の意見を尊重することは大事だが、人間の世界で暮らしていく以上、お前が導いてやらねばいけない部分もでてくるだろう。
子供の意見に引きずられるな。
子供の意見とわかって一歩引いて願いを叶えてやるのと、心酔してしまって願いを叶えてやるのでは同じようでもまったく意味合いが違う。
引きずられるな。自分を持ちなさい。そのための時間だ」
「私は、別に自分を見失ってなどっ!」
「なら何故ムキになる?
失っていないのなら胸をはればいい。
とにかく、二人でずっと居たのでは二人の世界になってしまって視野が狭くなる。
お前は感情移入しやすい傾向がある。
リーゼ様のためではなく、自分のために時間を使いなさい。
少し離れて自分の状況を把握することも時には必要だ。
リーゼ様に出会ってから自分の時間をもったことがないのだろう?」
そう言われてファルネは考えた。
確かに――リーゼと森でであってから、家事とリーゼの世話に仕事に追われ自分の時間などなかった事に気付く。
以前なら自分の時間はカルディアナの種を芽吹かせる事に心血を注いでいたが――今はどうだろう?
自分のために時間を割いた記憶がないのである。
リーゼが聖女になってからも、勉強に世話にとずっとリーゼの側にいた。
ラーズの言う通り視野が狭くなっている可能性も捨てきれない。
「自分の時間……ですか」
ファルネはぽつりと呟くのだった。
誤字脱字報告&ポイント&ブクマいつもありがとうございますっ!!多謝(>人<)











