2章 13話 距離(他視点)
「最近、リーゼに距離をおかれています」
リーゼの住む別館からカイルの執務室に直行してきたファルネがカイルに告げたのがそれだった。
珍しく定期報告の時間外に来たと思ったらこれである。
「……何かあったのか?」
仕事をしていた手をとめカイルが怪訝な声をあげた。
最近カイルもラーズの側近となり、仕事量がかなり増えている。
不慣れなため、常に仕事に追われる状況で、本来なら仕事に集中したいのだが……。
その手をとめて、カイルはファルネに視線を向けた。
リーゼはカルディアナの寵愛を一心にうけた少女だ。
彼女の機嫌を損ねるということはそのまま人間の存亡にも関わってくる。
多少の変化でも報告をするようにとはラーズに言われているのだが。
あれだけ大好き大好きと毎日イチャイチャしているファルネとリーゼが距離を置いたというのは一大事といっていいだろう。
身を乗り出してカイルが聞けば
「最近大好きと言ってくれなくなりました」
ファルネが物凄く真面目な顔で答えた。
一瞬の沈黙。
「……お前何だ。ノロケか?喧嘩売ってるのか?」
臆面もなく言ってくるファルネにカイルが答えれば、ファルネは自分の言った意味をやっと理解したようで
「ま、真面目な相談ですが!???」
と、手を振って慌てて否定した。
「えーい、五月蝿い!!毎日あれだけいちゃついてて大好きと言わないとか、ノロケだろ!
俺に喧嘩うってんのか!!!」
「ち、ち、ちちち違います!!好きとも言ってくれなくなったのですよ!?
「それがノロケだって言ってるんだろうがっ!?」
「ノ、ノロケではありません!!毎日言ってくれていたリーゼが言ってくれないというのは一大事です!!!」
と、二人がもめていれば。
「……ふむ。それは確かに気にかかるな」
「ラーズ様」
カイルがファルネの襟元をつかんだ状態で、二人が硬直してドアの方に視線を向ければ、
「外にまで声が聞こえていたぞ。もう少し声を抑えなさい」
と、大神官ラーズが扉によりかかりながら苦笑いを浮かべるのだった。
■□■
「どう?うまく行きそうかしら」
王城の一室で、金髪のふわふわした髪にまるで人形のように愛らしい容姿の女性ロテーシャが、私室に入ってきたクレアの妹ヴィオラに話しかけた。
今護衛であるアルベルトはこの場にいない。
「はい。準備はすべて整いました」
ヴィオラが仰々しく頭を下げれば
「--そう。」
と、ロテーシャはため息をつく。
ロテーシャは昔からアルベルトに好意を持っていた。
彼がロテーシャの護衛についたその時から。
だが彼にはすでに想い人がいた。
それがクレアという下級貴族の娘だと知った時の絶望はいかほどのものだったろう。
アルベルトは伯爵家の人間だ。
あのような下級貴族の小娘など相手にしては彼の経歴に傷がつく。
金髪で美しく優しい青年アルベルト。
彼を手に入れるためなら……私はどんなことでもしてみましょう。
ロテーシャは窓の外を見つめほほ笑んだ。
可愛らしい容姿に似合わぬ醜悪な笑みを浮かべて。
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