1章 5話 お手伝い
あれから何日かすぎて、それでも変わらずファルネ様は優しかった。
私に食事をくれたり身体を拭いてくれたりママみたいにしてくれる。
具合が悪かったらベルを鳴らしてくださいねと言い残し、部屋から去っていく。
夕方くらいになると、絵本を持ってきてくれて本を読んでくれた。
夢のような生活に自分でもとまどった。
つい、じっとファルネ様の顔を見つめれば、それに気づいたのかファルネ様が微笑んでくれた。
「ずっと家の中では退屈でしょう?
大分体調もよくなってきたようですし。
今日は少し庭にでも行ってみましょうか」
と、読む手をとめ、微笑んでくれる。
「……あ、あ、あー」
大丈夫ですと、言いたいけれど声もでない。
せめて文字がわかれば伝えられるのに。
私は文字を読むことも書く事もできない。
小さい頃は少し書けたり読めたりしたような気がしたけれど忘れちゃったの。
「あまり室内ばかりだと身体によくありませんからね。
少し外を歩きましょう」
ファルネ様は私をそのまま抱っこしてくれて、外に連れ出してくれた。
「あー……」
外は綺麗なお花畑だった。
お花や木がいっぱいあって。
木やお花の周りには綺麗な綺麗な光がふよふよ飛んでいる。
きっとこのお花さんたちは愛されて育っているんだなと、一目でわかった。
だって光の色がとっても優しいもの。
そんな中。
一箇所、光がふよふよ集まっている場所がある。
何だろう、とっても不思議な光。
今まで見たことがない。
でもちょっと懐かしい光。
柵で囲って綺麗に雑草を刈って手入れをしてある場所だけれど、お花は咲いていないのに光ってる。
「あ、あー」
ファルネ様にあそこは何があるの?と聞こうとしてしまい、私は口をつぐんだ。
そうだ、光が見えると言うと気味が悪いとぶたれるのを忘れていた。
ママに絶対言っちゃダメだよと言われたの。
それでも視線でファルネ様は察したようで
「ああ、あそこですか。
あそこは聖樹の実を植えてはみたのですけれど。
どうしても発芽しなくて」
「あー?」
聖樹って確かこの街の中央にあってこの街を守っている守り神様だったかな。
ママに昔習った気がする。
「私はこの実を発芽させる研究をしているのですよ。
もしあなたが元気になれたら、あなたにもこの研究を手伝ってもらいたいと思っています」
言って、花壇の横に腰掛けた。
私がお手伝い?
ファルネ様のお役にたてるのかな。
それに――私はここに居ていいのかな。
ファルネ様の言葉に私は嬉しくなった。
ずっといつまでこの生活は続くのだろう。
またあの地獄のようなお屋敷にいつ戻されるんだろうとビクビクしていたのに。
私はここに居ていいってことだよね。
はやくはやく元気になって聖樹さんの芽を出させるんだ。
「さて、そろそろ戻りましょう。
あまり外に長居するのはよくありませんから」
言ってファルネ様が微笑んでくれるのだった。