2章 12話 クレアとアルベルト
「おい。また夜勤なのか?」
第五騎士団に所属するアルベルトはカルディアナ王国の王宮の廊下で兄に話しかけられて振り返った。
そこにいたのはアルベルトの二つ上の金髪短髪で長身の兄ゲオ。第一騎士団の隊長だ。
「兄さん」
アルベルトが嬉しそうにほほ笑めば兄のゲオが手を挙げる。
「よう。ロテーシャ様のお気に入りもいろいろ大変だな。
もう3ヶ月近く騎士団寮にこもりきりじゃないか」
「茶化さないでください。
仕事なのだから仕方ないでしょう」
アルベルトがやや不機嫌になりながら言う。
アルベルトは王族の一人、ロテーシャの護衛騎士だ。
今年はロテーシャが豊穣祭の舞踏会での主催者を務めるために、準備で忙しく、家にも帰れていない。
婚約者のクレアにすら連絡がとれない状況なのだ。
気心の知れている兄だけあって、不機嫌さが隠せない。
「まぁ、そう怒るなよ。
お前が舞踏会に出れるように頑張った兄に対する態度がそれか?
愛しいクレア嬢と一緒に踊る時間くらいは作ってやったぞ」
言って兄ゲオが満面の笑みを浮かべると、アルベルトは目を輝かせた。
「ありがとうございます!兄さん!!!」
「あとで何かおごれよ」
そう言ってゲオはひらひらと手を振ってその場を立ち去る。
――クレアにやっと会える。
アルベルトは嬉しそうに窓の外を眺めるのだった。
■□■
「はぁ……」
リーゼがクレアの作ったお菓子を嬉しそうに持って帰ったのを見送った後クレアはため息をついた。
リーゼはきっとどこかの令嬢なのだろう。おそらく神殿関係者。
だから世間離れしている性格で箱入りが故の純粋さなのだと思う。
クレアを助けてくれた時の魔法といい、神官職にあるものが護衛についている事を考えれば当然だ。
世間離れしている所が可愛くもあり、羨ましくもある。
身分を明かさないということは、クレアに貴族として接して欲しくないからだとクレアは解釈している。
だから敬いもせず普通に接しているが……。
(私も母親の身分が高い正妻だったら貴族としてあの人とすぐ一緒になれたのかな)
自分を助け出してくれてお店を与えてくれた愛しい人、アルベルト。
以前は毎日のようにお店にきてくれて、愛してると囁いて耳元にキスをしてくれて。
でもここ三ヶ月でお店に顔をださなくなったのだ。
このまま見捨てられたらどうしよう。
まだ正式に結婚しているわけではない。
いくら婚約しているとはいえ、下級貴族の出ではあるが妾の子なため立場的には見捨てられても文句の言える間柄ではないのだ。
せめて――想いくらい伝えるべきだったのかも。
クレアは大きなため息をつく。
好きだといたその言葉に甘えていて、自分は態度を示さなかった。
そのせいでアルベルトに愛想をつかされたのかもしれない。
母違いの姉達に虐められて育ったせいでどうしても自分に自信がもてず消極的になってしまっていた。
クレアは大きくため息をつく。
そんな時だった。
「クレア様、手紙が届いてますよ」
「手紙?」
サーシャがクレアに上質な紙の封筒を差し出した。
「はい、アルベルト様からですよ」
「本当!?」
嬉しそうに受け取るクレアにサーシャがほほ笑んだ。
「アルベルト様に今度もっと連絡をするように伝えておきましょうか?」
「そ、そんな!?大丈夫です!お手を煩わせるわけには」
「そうやって消極的なのはよくありませんよ?
アルベルト様は女性に人気なのですから。
ほかの女性に取られてしまうかもしれません」
「そ、それは困ります!!!」
サーシャにムキになって反論してしまいクレアはハッとする。
「そのお言葉、アルベルト様に言ってあげてください?
喜びますよきっと」
そう言って、笑うサーシャにクレアはコクリと頷いた。
豊穣祭の舞踏会ではちゃんと思いを伝えないと……。
カルディアナの豊穣祭の舞踏会は恋人同士が思いを伝える場でもある。
そこで互いに告白しあい、聖樹カルディアナの前で愛を誓うのだ。
想いを伝えるとしたらそこしかない。
クレアは大事に手紙を握りしめるのだった。











