2章 5話 夢のような生活
「ファルネ様!!もう寝る時間?寝る時間?」
あれから、私はファルネ様とお勉強をして、お散歩をして、お昼を食べた。
いつもはファルネ様と一緒ですごく嬉しくて時間が過ぎるのがはやいのに、今日は全然時間が過ぎてくれないの。やっと夜になったんだ。
夜ご飯を食べ終わってから私が聞けば
「お風呂にまだ入っていませんよ?」
と、呆れた顔をされちゃう。
「そうだ!入ってきたらもう寝ていい?」
「楽しみなのはわかりますが、あまりはやく寝ても夜中に目が覚めてしまいます」
言って微笑みながら私の口についたケチャップをハンカチで拭いてくれる。
ナイフの使い方は大分上手くなったはずなのにまたお口につけちゃった。
「それは嫌。起きたら寂しいから嫌」
夜目を覚ましちゃったらファルネ様もいないし、一人で寂しい。
前みたいにファルネ様が隣で寝てくれればいいのに。
「もうお年頃だから」って別の部屋で寝るようになちゃった。
お年頃はファルネ様と離れなきゃいけない事が多いからあまり好きじゃない。
お年頃じゃなければいいのに。
起きたときファルネ様の綺麗な顔が近くにあるのが好きだったのに。
ツヤツヤの青い髪がぱさぁぁぁってしてすっごく綺麗なんだよ。
「お風呂を出たら絵本を読んでそれから寝ましょう。
明日は朝早くから出かけましょうね」
言って微笑んでくれるファルネ様の笑顔が優しくて、私は嬉しくてうんうん頷いた。
夢みたい。夢みたい。絵本の世界を体験できるんだ。
今は閉じ込められていた時に想像していた世界よりずっと幸せな世界にいるの。
馬車から街を見たり。
平民の格好をして本屋さんでお買い物をしたり。
ファルネ様と美味しいレストランに行ってみたり。
昔、ずーっと昔、まだパパとママがいた頃。
なんとなく朧気に憶えている生活がおくれてる。
今ならね。
ファルネ様が何で私の記憶を消そうとしたかちょっとわかるんだ。
街を巡って、お勉強をしていて、図書館の本を読んで。
普通の子は私みたいな生活を送ってないってなんとなくわかった。
奴隷と言われる子達も、ちゃんと最低限の生活は保障されていて、暴力は禁止されてる。
私は特別酷い事をされていた。シャーラや叔母さん達に。
だから、時々泣きたくなるの。
何で私だけあんなに酷い事をされてたんだろうって。
私もパパとママが生きていたら幸せに暮らせてたのかなって。
私もお外で遊んで、普通に人間のお友達もできていたのかなって。
馬車から子供が遊んでいる姿をみると、胸が締め付けられそうになって、息ができないくらい苦しくなる。時々虐められた時の夢を見て目が覚めちゃう。
私の閉じ込められていた10年は戻ってこない。
じーっと痛いのを我慢するだけの日々。
返して、返してってお願いしても戻ってこないんだ。
ファルネ様は頭がいいから。
きっとこうなることがわかってたんだと思う。
幸せな生活を送れば、今度は閉じ込められていた時の事が余計辛くて悲しくなるって。
でもね。それでも。
記憶はなくしたくないよ。
パパとママとの思い出せない記憶。
大事な人だってわかっているのによく思い出せなくて、好きだって気持ちも朧気になっちゃってる。
もし記憶をなくしちゃったらファルネ様との記憶も思い出せなくて、ファルネ様への気持ちも朧気になっちゃうもの。
もう嫌なの。
自分が痛い想いをした想い出よりも、パパとママが思い出せない方が辛いから。
夜中に急に寂しくなって涙がでちゃうときがる。
だからそういう時はママのいい付けをまもってニコニコ笑うんだ。
それでも時々ソニアは悪い子だから思い出せないの?って不安になる。
だからもう記憶はなくさない。
ファルネ様との大事な大事な大事な想い出。
ソニアはなくなっちゃったけど、リーゼの記憶はちゃんと守る。
辛かった分だけ幸せになろうってファルネ様がいってくれたから。
私は痛い想い出は泣かないで、思い出さないようにするんだよ。
嫌だった事には全部蓋をして胸の中に押し込めるんだ。ぎゅぎゅぎゅって出てこなくするんだよ。
だって今、とっても幸せだもの。
豊穣祭に大好きな大好きなファルネ様と一緒に行けるなんて夢みたい。
どんな所なんだろう?
お風呂から出てお洋服を着てお部屋にいけば、ファルネ様が子守唄を歌ってくれる。
私はそれを聴きながらいつもふっかふっかのホワホワのベッドで寝るの。
ファルネ様に何度も明日楽しみだね!って言いながら寝るんだ。
本当に夢のようで。
パパ、ママ。パトリシアありがとう。
ソニアは幸せだから心配しないでね。
ふわふわのベッドに寝っ転がって、ファルネ様の優しい綺麗な声を聴きながら私は明日のパレードに思いをはせる。幸せな気分に浸りながら。











