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1章 39話 ざまぁ回(2)

 ――汝らは我との約束を破った。7歳になる子全てを我の前に連れてくるようにとの――


 聖女は7歳の成人の儀に参加すれば、その時に力を得、聖樹の力を行使できるようになる。

 そこからは例え危害を加えようとしても、聖樹本人が聖女を守れるため殺すことも出来ない。


 だが、まだ力を与えていない子供時代は人間が手厚く保護し育てなければいけない。

 その為7歳の子供を儀式に参加させなかった場合、死刑にされる。


 テンシア達はソニアを儀式に出席させなかったため、罪に問われるのを恐れ存在を隠した。

 故にソニアは15歳になるまでずっと地下牢で監禁されることになる。



――お前たちはその誓いを破り、我が愛子を儀式に参加させないばかりか15歳まで監禁し虐待をしていた――

 


 聖女を守ろうとして人間に言いつけたその誓約が、逆に聖女を苦しめる事になった。

 これ程屈辱的な事があるだろうか。


 リーゼの中のカルディアナの声がどす黒いものに変わる。


「ど、どういう事でしょうか?聖樹様」


 カルディアナの国王がおそるおそる質問すれば


「そこにいる偽聖女とその両親が、本当の聖女である少女を儀式に参加させず、監禁虐待をしていたのです」


 国王の言葉にラーズが答える。

 途端国王の顔が青ざめた。


 つまり国王は、聖樹との破ってはいけない誓いを破ってしまったのだ。


 人間を保護してやるかわりに必ず7歳の子を成人の儀式に参加させる。

 それが聖樹との誓約だった。


 国とて子供を管理していなかったわけではない。

 これが奴隷や孤児や貧しい家の子だったらもっと厳重な管理をしていたのだが、裕福な家庭の子供という立場だったため、厳重に管理できていなかったのだ。

 前年儀式を受けたはずのシャーラがソニアに成り代わったのに気づけなかった。

 制度の不備であり、その罰則の重さを恐れ今まで7歳の子を成人の儀式に参加させなかった大人はいなかった。

 その慢心から起きてしまった重大なミスだ。


「も、申し訳ございません!!責任の所在は私に!!

 この命を捧げましょう!!ど、どうかこの地の恵みだけは!!!」


 国王が頭をつきつけて聖樹に謝る。

 カルディアナの滅亡は人類の滅亡に近い。

 そのような不祥事を自分の代でおこすわけにはいかなかった。


――思い上がるな。人間の命ごときがなんの価値がある?――


 冷たく言い放つその言葉に――その場に居合わせた誰もが絶望した。

 聖樹に見捨てられた地の人類の末路。


 それはいままでの歴史が証明してくれていた。

 恵みを奪われ、死に絶える未来しかない。


 ほかの地に逃げようにもカルディアナの地は広すぎるのだ。

 カルディアナの住人が一斉に避難などはじめれば、受け入れられぬと他国も必死になって難民を排除するだろう。

 カルディアナの住人を食べさせるだけの恵みの地は世界中どこを探してもない。

 各地で戦争が起こり、人類ばかりかほかの聖樹の地まで滅亡しかねない。


 そして、カルディアナの聖樹が他の聖樹に迷惑をかける選択肢を選ぶとは思えない。

 滅ぼすなら、ここに住まう全ての人間を排除すること。


 聖女の身体を使い、ここに居る人間を滅ぼすのが一番てっとり早いだろう。


「……お前のせいだ!!!そこにいる偽聖女のせいだ!!!

 悪いのは俺たちじゃない!!!」


 広場から声があがった。


「そうだ!罰を!!!そこにいる偽聖女一家に罰を!!」


 ワーワーと声があがり、シャーラ達めがけて何か飛んでくる。

 グラシルも逃げようとするがシャーラが必死につかんで離れない。


「は、離せ!!偽物め!!」


 グラシルがシャーラを蹴るが


「あ、あんたが聖女っていったんじゃない!!責任取りなさいよ!!」


 テンシアもシャーラの側で立ち尽くし、ヘンケルなどは「だから俺はちゃんと参加させておけって言ったんだ!」という捨て台詞を残して逃げて行ってしまった。

 群集の中からは殺せコールが沸き起こっている。


 広場の騎士達も剣を抜き、シャーラの元に歩きだしていた。


「お母様!!どうなってるのよこれ!!」


 シャーラが怖くなってテンシアに叫べば、テンシアも知らない知らないと首を横に振っている。


「ちょっと!!あんたソニアでしょ!!!そんなところで何をえらそ……」


 何か言おうとしたシャーラの胸を聖樹の枝が貫いた。


「かはっ!!!!」


 血を吐きながらシャーラが悶える。

 とたんに騒いでいた観衆も固まった。


――さぁ、見ているがいい、愚かな人間共よ。

  私たち聖樹との約束を守らなかった、愚か者の苦しむさまを。

  愚か者達はどんなに傷つこうが死ぬことも許されず拷問を受ける事になるだろう。

  我らに逆らう人間は全て同じ結末をたどるということをその身に刻め。

  その目で見て、永遠に語り継ぐがいい――



 少女の言葉とともに……聖なる樹の枝が広場にいた人めがけて飛んでいきはじめた。

 シャーラ達だけではなく、無関係な広場の人間にまでである。

 広場から悲鳴が沸き起こり我先に逃げようと人々がどよめいた。

 

『ちょ!?何してるんだいカルディアナ!!!』


 シリルが慌てて広場に結界を張れば、聖樹の枝は広場にいた人たちに当たることなく弾かれていく。

 打ち合わせでは、偽聖女一家とグラシルのみ、拷問するはずだったはずだ。

 そして人間共に見せつけてその恐怖を植え付けてやるはずだったのに。

 

 シリルがリーゼの身体に入っているはずのカルディアナを観れば


「……なきゃ」


 ボソリとリーゼの身体がつぶやき。


「……悪い人はみんな殺さなきゃ

 ソニアを虐める悪い叔母さんと従姉を殺さなきゃ」


 ぶつぶつ口でつぶやいている。


 ――まさか!?


 シリルが慌ててリベルを観ればリベルも頷いた。


『いま、身体カルディアナじゃない、中身リーゼ』


 と、残酷な事実を告げる。


――ごめんなさい。身体の主導権を取り返されちゃいました――


 まるでちょっとの失敗を告げるかのような口調でカルディアナの声がシリルの頭に響く。


『ちゃいましたじゃなぁぁぁぁぁぁい!!!!』


 シリルの絶叫が辺りに響くのだった。



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