1章 1話 はじまり
小さい時から、暴力を振るわれるのが普通だった。
皆が食事をしているとき、一人部屋の片隅でたっていなければいけないのも。
いつだってそれが当たり前で。
いつの間にか薄暗い部屋に閉じ込められて、食事すらろくに貰えなくなっていた。
それが当たり前で自分は出来ない子だとよく言われた。
遠い遠い幸せだった頃の記憶。
まだパパもママも生きていて。
あの頃は幸せだった気がするけれど。
もうその時の事も思い出せない。
意識が薄れる。
ここ最近食事もろくにとっていなかった。
身体が思うように動かせない、指一本すらおっくうで持ち上がらないの。
今日はいきなり部屋から出されたと思ったら、袋に詰められて、何かで運ばれたんだ。
そして袋から出してもらえたと思ったら動く何かから、そのまま落とされた。
ごつんって身体が地面におちて、落ちた時すごく痛かった。
そのせいなのか身体が動かない。
周りを見回そうにも首も痛くて動かないんだ。
視界に入るのは真っ青な空と青々と茂った森の木。
空って綺麗だな。
私死ぬのかなぁ。
ぼんやりと考えた。
それもいいかもしれない。
死んだらパパとママが迎えにきてくれるもの。
あの世なら、ご飯が食べられなくてひもじい思いもしないよね。
気に入らないと折檻されることもないよ。
棒で打たれたり、松明を近づけられて熱かったり、寝るなとお水をかけられたり、立ってろって強要されることもないんだよ。
嬉しいな。嬉しいな。
一度あったかいお風呂も入ってみたい。
天国ならお風呂に入れるのかな?
冷たい水に突き落とされるのじゃなくて、あったかーいお湯のお風呂で手足を伸ばして泳いでみたい。
そしたら今度はゆっくり寝るの。
ふわふわの雲の上で誰にも邪魔されることなく好きなだけ寝てみたい。
いつも寝ていると寝るなと起こされるから、ゆっくり寝た事がないように思う。
天国でふかふかの雲の上でいっぱい、いっぱいお昼寝するの。
水をかけられたりけられたりしないで、ウトウトしながら目をさまして。
起きてもお腹も空かなくて。
ああ、夢みたい。
天国に行けるかわからないけれど。
でも悪いことはしてないもの。
きっとパパとママには会えるよね。
ママとパパはやく迎えにきてくれないかな。
会いたいな。
ママがよく言っていた。
辛い時ほど笑ってるのよ?
そしたらきっといいことがあるからって。
私、言いつけ守ったよママ。
だからはやくお迎えにきて。
ぼんやり霞む景色を眺めていれば
「大丈夫ですか?君っ!!」
どこからか声が聞こえて、私の身体はそのまま宙に浮いた。