1章 14話 聖樹(シリル視点)
聖樹
それは世界に点在し、その地に豊穣と実りをもたらすもの。
聖樹のない地は緑も存在せず荒野が広がる荒地。
かつて世界で神々の戦争がおき、世界中が荒野になってしまった。
その荒野を緑に満たすのが聖樹の役割だ。
聖樹は一つ一つに名前がついている。
彼らもまた意思があるからだ。
彼らは聖なる子を指名しその子を通じて実りをもたらす。
その聖なる子こそが聖女。
そして聖女は必ずしも人間ではない。
エルディアの聖女は銀の狼のシリルだ。
聖女はその土地の守り神。
聖女が居なくなれば聖樹はその力を実りに変換することができない。
その地はゆっくりと、だが確実に砂漠化していくだろう。聖樹だけを残して。
だからこそ聖女は守られるべき存在なのだ。
それなのにどうだろう。
カルディアナの聖女の境遇は。
見せてもらった記憶で、いかにリーゼが酷い境遇にあったのかを知った。
あのような酷い虐待と監禁のせいで本来15歳なのに10歳の子供にしか見えない。
リーゼが他の人間と違い精気を摂取でき、自己回復力の強い聖女だから生きていたようなものの普通の人間なら死んでいただろう。
酷い境遇に、シリルは怒りを覚えた。
人間は本当に汚い。
以前、聖獣だけが治める聖樹の森があった。
けれど人間が少しばかりの土地に住まわせてほしいと移住してきた。
迫害されて追われているのだと。
心優しい聖獣はその地を貸してあげた。
最初は人間たちも感謝した。
けれどしおらしいのは最初だけで段々要求が増し、ついには森の獣達を迫害しはじめた。
そして人間と聖獣との戦争がはじまり。
聖女であったはずの聖獣は人間に襲われた自らの子を守ろうとして息絶えてしまう。
聖女の子を人質にしようとして、それを守ろうとした聖獣が誤って死んでしまったのだ。
聖女を殺された聖樹は怒り、その後その地に恵みがもたらされる事はなかった。
そして……その地は聖樹だけがそびえ立つ荒野へと変貌したのだ。
その聖樹の名をファラリナ。この地にはファラリナから逃げてきた獣達が多くいる。
ファラリナからは彼らを頼むと頼まれた。
だからこそシリルは決してこの地には人間を住まわせない。
人間の神官達にねぐらを貸してやってはいるが。あれ以上人間を住まわせる気は毛頭なかった。
けれどリーゼの記憶を見た今、あいつらも追い出してやろうかとさえ思う。
それぐらいシリルは憤慨していたのだ。
ファラリナの件で反省し、二度とあのようなことはしないと誓ったのは嘘だったのかと。
人間は寿命が短いゆえ、すぐ忘れ過ちを繰り返す。
あのような愚かな者たちに緑豊かな地を渡す必要があるのだろうか?
リーゼを監禁していた親子といい、リーゼを殺そうとしたゴロツキどもといい。
人間はやはり汚い。
逃げているゴロツキ共は、シリルの力で永遠に森からは出られない。
あとでゆっくり殺せばいい。
それにしても聖女に暴行を加えていた女共。
あれは切り刻んで八つ裂きにしてやっても物足りない。
カルディアナもきっと同じ気持ちだったのだろう。
だからこそ自分の聖女が自分の土地から出る事を許しシリルに託した。
でなければ聖女が自らの聖樹の庇護下から出ることなどできるはずがないのだ。
せめてこの子が7歳になり、人間の神官達の催す成人の儀式をうけていれば、聖なる力が使え、あんな小娘達に一方的にやられることもなかったのに。
カルディアナもきっと歯痒かった事だろう。
聖樹の意思を伝える聖女があのような状態で何一つ意思を伝えられない。
ただ虐待に耐える自らの聖女を見ているしかできなかったのだ。
リーゼがファルネの持っていた聖樹の実に触れた事でやっと意思が通じる事ができた。
カルディアナの力の一部をリーゼが使えるようになったのだ。
この子は私が強くしてやらないと。
リーゼを見つめシリルは決意するのだった。











