1章 13話 樹の精霊
――願いなさい。その精霊達は貴方の願う行動をします――
頭の中に誰かの声が聞こえた。
女の人の綺麗な声。
馬車の中から、にょきっと、背の高い樹の精霊さんがでてきて私を持ち上げる。
そしてもう一体の精霊さんが私に剣を向けていたリッケをごんって叩き潰したの。
リッケがそのままぺシャンとなる。
樹の精霊さんは全部で3体。
私を抱き上げてくれた精霊さんの頭には私がらくがきした植木鉢がのっている。
もしかして聖樹の種さんなのかな?
「トレント!?なんでこんなところに!!!」
「ちっ!!!何か魔道具を隠しもっていたのか!?」
ファルネ様を踏んだままラムデムがいう。
はやくファルネ様を助けなきゃ!!
樹の精霊さんあのラムデムを倒して!!!
私が心の中でお願いするけど樹の精霊さんは首をよこにかしげた。
――もっと具体的な指示を――
また声が聞こえた。
具体的?
えーっとラムデムを持ち上げて!!!!
私が指をさして願えば手のあいていた樹の精霊が持ち上げた。
「離せっ!!!離せっつ!!」と剣を持って暴れてる。
「ば、化け物!?」
ゼーンやペーネ逃げていく。
とにかくはやくファルネ様を助けなきゃ。
血がいっぱいでてるのかファルネ様は気を失ってる。
このままじゃ死んじゃう。
まずはラムデムを倒そう。
ファルネ様から離れさせないと!!
ラムデムもぺちっとたたきつけて!動かなくなるようにして!
私がお願いすれば、精霊さんがぶんっとラムデムの身体を地面にたたきつけてくれた。
べちゃって音がして、身体が飛び散って、そのままリッケみたいに体がつぶれて動かなくなる。
よかった!これでファルネ様に痛い事はできないよ!
ほかの人には逃げられちゃったけれど。それよりもファルネ様。
私は精霊さんに下してもらって側に駆け付けるけれど、気を失ったままで目を覚まさない。
よく見ればお腹のあたりから血がどくどくと出てきてしまっていて、地面いっぱいにひろがっている。
戻さなきゃ。身体に血を戻さなきゃ。
ママが言ってたの。血がいっぱい身体から出ると死んじゃうって。
だから私は血がいっぱいでたときはぺろぺろ舐めて戻してた。
ファルネ様も戻してあげないと。
手にすくって飲ませようとするけれどファルネ様は口をあけてくれない。
どうしようどうしよう。死んじゃう死んじゃう。
お願い!お願い!助けて精霊さん!!!
ファルネ様を助けて!!!
一生懸命お願いするけれど、精霊さんたちは困ったように「キュキュキュ」って首をふるだけ。
どうしよう。どうしよう。パトリシアみたいに死んじゃう。
ファルネ様も死んじゃったら嫌だ。
お願い助けて!!助けて!!
――この子達には回復の力はありません。今助けてくれる子を呼びました。しばらく待ちなさい――
わんわん泣いていたら、また声が聞こえーー
『あんたかい。聖女ってのは』
声に顔をあげれば、銀色のオオカミさんが私たちを見下ろしていた。
誰だろう?誰だろう?
この子が助けてくれる人?
「あー!あーあーあー!」
ファルネ様を助けてと叫べばオオカミさんはファルネ様を見て
『こりゃひどいね。出血が酷すぎてもう死んでる状態だ。
私が側にいて運がよかったよ』
言ってファルネ様の身体が持ち上がりぶわっと光に包まれた。
「あーあーあー?」
『大丈夫さね。
よほどあんたが心配だったのか、まだ魂が現世にいたからね。
でもね。回復には三ヶ月はかかる。
一度魂が出ちまった状態だから厄介だ。
魂が身体に定着するまで待たなきゃならない。
にしてもアンタ声でないのかい?』
私がコクコク頷けばこりゃまた面倒だねとため息をつかれる。
「ちょっと待ってなよ」と、おデコにちょんとキスをされれば
『これであんたの思ってる事はこっちに伝わるよ。
にしても、何でカルディアナのところの聖女がエルディアの森にきたんだい?』
と、聞かれた。
カルディアナってなんだろう?
私が何かな?と精霊さんに振り向けば精霊さんたちも小首をかしげた。
カルディアナよくわからない。
それよりもファルネ様は平気なの?生きてるの?
『何度言わせるんだい。三ヶ月はこの状態だが回復する。
無事さね。
あんたはカルディアナの樹の聖女だろ?
こんなところにあんたがいれば、カルディアナから豊穣の恵みが消える。
それがわかっていてここに居るのかい?』
よかったファルネ様無事!!!ファルネ様を生き返らせられたならパトリシアも生き返らせられる?
私が死んじゃったパトリシアを指させば、オオカミさんが頭を振った。
『無理さね。その子は人間と違って魂がここに留まっていなかった。
私の力じゃ生き返らせられない』
ダメなの?パトリシアは駄目なんだ。
ごめんね。ごめんね、パトリシア。パトリシアは私を守ってくれただけなのに。
私のせいで痛い思いをさせちゃってごめんね。
『気にすることはないさね。その子は聖女を守れて満足だっただろうさ』
……聖女?
『何度も言っているだろう?あんたはカルディアナの聖女だって』
カルディアナの聖女って絵本の中の聖女様?ここにいるの?
私がオオカミさんに聞けば
『……とりあえずこの人間の男が目を覚まさないとお話にならないね』
と何故かため息をつかれちゃう。なんでだろ?
■□■
『とりあえずだ。カルディアナのところの大事な聖女だからね。
私があんたの面倒をみるよ、アンタ名前は?』
森の中でちょこんと腰掛けた私にオオカミさんが聞いてくる。
聞かれて私は迷った。ソニアという名前は悪い人に捕まっちゃうから使ったらダメって言われてる。
だからリーゼって名前にしておいたほうがいいって言われたからリーゼ?
『なんだか面倒な状況なんだね。
だから逃げてきたのかい。
人間は相変わらず馬鹿だよ。自ら聖女を殺そうとするんだから』
私は聖女なの?
『あんたはカルディアナのところの聖女だ。
だから聖樹の子を操れるんだろ?』
言って精霊さんたちに視線を向けた。
この子達は聖樹さんの子供なの?じゃあ私と同じ年?お友達になれるかな?
『何いってんだい。友達ってよりあんたの下僕だよ』
げぼく?何だろう?友達よりすごい?
『……あんたの保護者は早く目を醒ましてくれないかね。
なんだかすごく疲れるんだけど』
……ごめんなさい。
『いや、いいよ。ちょっとキツク言いすぎた。
ちょっとあんたの記憶を覗かせてもらうけどいいかい?
そのほうが早い』
うん。よくわからないけど大丈夫。
『じゃあいくよ』
オオカミさんの声と共に。私は光に包まれるのだった。











