表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/95

1章 9話 聖樹

「今日の話はこの世界に関する物語です」


 お仕事から帰ってきて食事をすませてからファルネ様の取り出した絵本は大きな木が書いてあった。

 私は思わず窓の外を見る。

 窓の外に見える大きな木にとても似ていたから。


「リーゼはよくわかりましたね。

 そうです聖樹のお話です。


 昔この世界は緑豊かな世界でした。

 けれど大きな戦争で、草一本生えない荒野とかしてしまったのです」


 本の中には土だけの世界が描かれている。

 これが荒野っていうのかぁ。


「人類は飢えと乾きで死を待つばかりでした」


 ヤダヤダ。

 お腹が空くのはすごく嫌。

 喉がカラカラなのもすごく嫌。

 人は滅んじゃうの?


「けれどそこに聖女様が現れたのです。

 聖女様は実りの聖なる樹を植えました。

 するとどうでしょう、聖なる樹の周りは緑や水のあふれる大地へと変貌したのです」


 よかった!これで人間は滅ばない。

 聖女様ってすごい。


「こうして人類は聖女様の植えた聖なる樹の周りに都市をつくり、生きながらえることになりました」


 そう言ってファルネ様は終わった絵本をパタンと閉じた。

 あの聖なる樹ってそんなにすごいものだったんだ。


「私達人間は、聖樹なしでは生きられません。

 あの母なる大樹がない場所では荒野が広がりモンスターが闊歩しています。

 この世界の恵みはすべて聖女様のもたらした聖なる樹からできているのですよ」


 言ってファルネ様が指さした。

 

 凄い凄い。あのおっきな樹はすごいんだ。

 それを芽吹かせようとしているファルネ様もきっとすごい。


 私がワクワクしながら聖なる樹をみていれば


「さて、そろそろ薬の時間ですよ。

 寒くならないうちにお風呂に入って薬を塗りましょう」


 言ってファルネ様に抱き上げられるのだった。


 ■□■


 ポカポカポカ。


 あったかいお湯が気持ちいい。

 お湯にぷかぷかつかって、ファルネ様が身体を洗ってくれる。


「どうですか?どこか痛むところはありますか?」


 髪の毛をクシでとかしながら質問される。


 痛くないよ。と私は首を横にふった。

 ファルネ様がお風呂上りによく効く薬だからと、身体に薬を塗ってくれたおかげで、叩かれて傷だらけだった体も大分跡が消えてきた。

 お姫様みたいに真っ白い手になってちょっと嬉しい。


「あーあーあ」


 大丈夫痛くないとファルネ様に言えば、ファルネ様は微笑んだ。


「さて、あまり長いと体力を消耗してしまいますから、もう終わりにしましょう。

 身体を拭いて服をきましょうね」


 言ってふわっふわのタオルで身体を拭いてくれて、キズの跡にお薬をぬりぬりしてくれる。

 ファルネ様の手はおっきくて、温かくて気持ちいい。

 

「大分傷も良くなってきましたね。

 身長も少し伸びたようです、服が小さくなってきました。

 今度新しい洋服を買いにいかないと」


 そう言うファルネ様の顔を私はじっと見つめた。

 新しいお洋服は嬉しいけれど、ファルネ様が家から居なくなるのは嫌だ。

 ずっと一緒にいられたらいいのに。

 その視線に気づいたファルネ様が少し悲しげに微笑んで



「連れていってあげたい気持ちは私も一緒ですが。

 外を出歩けば、貴方を虐めていた貴族に見つかる恐れがあります。

 いい子にお留守番していてくださいね?」


 と、一緒に行きたいと勘違いされたのか言われてしまう。

 違う違う。私はずっとここでいい。

 お外は怖い。知らない人は私をぶってくるから。


 ここでずーっとファルネ様と一緒にいたい。


 ファルネ様はお仕事があるから出かけちゃう。

 ずっとずっと一緒にいれればいいのに。


 お風呂をでて、私はファルネ様が育ててる植木鉢を見つめた。

 私も一つお世話していいと聖樹の種の入った植木鉢をもらったので、植木鉢にお花のマークを刻んだの。

 毎日毎日芽吹きますようにって祈ってる。

 ファルネ様もいつも難しい顔でいろいろ薬草を混ぜたものを入れてみたりしているけれど一向に芽吹くことのない植木鉢。


 これから芽がでればファルネ様のお仕事は減るのかな?

 はやく芽がでればいいのに。


 お願いお願い聖樹様。

 芽をだして。

 そしてファルネ様とずっと一緒に居れますように。


 私がお願いしていればファルネ様がお水をもってきてくれる。

 お風呂上がりはお水を飲まないといけませんよ?と甘いお水をくれて。

 私はそれが大好きだった。


「あーあーあー」


 嬉しい嬉しいとファルネ様に言えば、ファルネ様が少し寂しげな顔をした。


 なんだろう?なんだろう?私は怒らせるような事をしちゃったかな?

 お願いお願い嫌いにならないで。


 私がソワソワしていれば


「ああ、すみません。貴方に怒ってるわけではありませんよ?

 貴方に伝えないといけないことがあります」


 言って隣に座った。


 いつもと雰囲気が違う。大事なお話?

 怖い怖い怖い。またあそこに戻される?

 それだけは嫌、ファルネ様とずっと一緒にここにいたい。


「実は――異動がきまりました」


 言ってファルネ様が私の頭をなでる。


 ………


 いどう?


「職場が変わるので引越しをしないといけないということです。

 もちろん貴方も一緒にですよ」


 とファルネ様が微笑む。


 一緒!一緒!

 ファルネ様と一緒!


 よかった追い出されない。ファルネ様と一緒ならどこでもいいよ。

 私はファルネ様のいるところならどこでもいい。

 ジメジメゴツゴツしたところでも。

 昼間はものすごく暑くて夜はものすごく寒いところでも。

 狭くて夜は真っ暗なところでも。

 ファルネ様がいるなら平気。

 

 私がにっこり微笑めばファルネ様が頭をなでてくれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

■□■宣伝■□■
★書籍化&漫画化作品★
◆クリックで関連ページへ飛べます◆

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ