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男同士の裸の付き合い

 連れてこられた浴場は、元の世界の銭湯と大差ない造りのものだった。


「へぇ・・・これがこの世界の・・・。」


「なんだ、お前らは公衆浴場に来るのは初めてだったか?」


 物珍しそうに辺りを見回していた俺とイフユさんを見て、ハンクさんは聞いてきた。


「そうですね・・・私の村は小さいので、こんな大きい施設はなかったですね。」


「そうだったか。ここは広いしいいぞ。ゆっくりしろよ。」


 そう言ってハンクさんは男湯の方に向かっていく。

 他の三人は女湯の方へ向かって行き、ここで別れることになった。

 俺も急いでハンクさんについていく。


 入り口でハンクさんが料金を払うと、引き換えの札を渡された。本当に銭湯なんかとシステムは同じようだった。

 脱衣所で服を脱ぎ、浴場へと向かう。

 まず入るとすぐにお湯と桶が置いてあり、そこでお湯を全身にかける。いわゆるかけ湯だ。

 ・・・この文化は日本独自のものだと思うけど、この世界にはあるのか・・・。

 その後体や頭を洗う。さすがにシャンプーなどは無いようだ。

 そして浴槽につかる。少し温度が高めのお湯が全身の疲れをとってくれるように染み渡る。


「はぁ・・・、どうだ、気持ちいいもんだろう。こういうのが初めてならなおさらな。」


「ああ、そうですね、とても気持ちいいです。・・・あ、でも似たようなことは体験してますけどね。」


 二人で話しながらゆっくりと浴槽につかる。


「似たようなこと体験したってことは、お前はあの嬢ちゃんと同じ村出身じゃないのか?」


 俺の言葉に引っかかったハンクさんが不思議そうに聞いてくる。


「あ・・・そうですね・・・、出身は違って・・・」


 一瞬どうしようか迷った。

 俺が銭湯を体験したのは元の世界だ。この話はハンクさんにはしていない。

 こんな話を信じてくれるだろうか、と少し躊躇う。

 しかし、これまで過ごしてきてハンクさんは信用できると思っている。ならこの話もしたほうがいいのかもしれない。

 そう思ってこれまでのことを正直に話してみることにした。


「・・・実は、ハンクさんにはまだ話してなかったですけど、俺にはいろいろ事情がありまして・・・。」


「ん?なんだ事情って?」


 少し唾を飲み込んで、その先の話をする。


「・・・実は、俺はこの世界の住人じゃないんです。元々いた世界で事故で死んでしまって、二日前にこの世界に転生してきたんです。」


 俺がそう言うと、ハンクさんは首を傾げて、何を言っているんだ?という顔をする。


「死んだ?転生した?・・・正直何言っているのかさっぱりだぞ?」


「・・・最初から説明しますと・・・。」


 俺はこれまで身に起きた話を事細かくハンクさんに説明した。

 元の世界で普通に暮らしていたこと、事故で死んでしまったこと、そのあと別の世界に転生することを選択したこと、最初にあったイフユにお世話になったこと、村を救ったこと・・・。

 

 全てを説明し終えたころには、ハンクさんも話は理解していた。


「なるほど、この世界にはついこの間来たばかりってことか・・・。」


 理解こそしてくれたものの、やはり信じがたい話だったようだ。


「ふむ・・・お前の言いたいことは分かったが、そんな話今まで聞いたことがないな。・・・正直半信半疑だ。」


「まあ、ですよね・・・。」


 そんな反応になるだろうと俺も一応思っていた。


「しかし、お前の元居た世界の話は現実味を感じたし、これまでのお前を見ていると、そんな嘘をつくような奴じゃないと俺は思っている。・・・なら信じてみよう。」


「ハンクさん・・・!」


 こんな若造の与太話のようなものを信じてくれるとは・・・。この人も大概優しい。


「しかし、そうなるとお前の元居た世界というのはとても興味があるな。もっと詳しく聞かせてくれ!」


 そう言って好奇心旺盛な目でこちらに迫ってくる。


「そうですね・・・。あの世界では電気や水道やネット回線というものが繋がっていて、この世界よりももっと便利で、色々なものがある世界でしたね・・・。」


 そこでふと疑問に思った。


「そういえば、ここの浴場ってどうやってこんなお湯を準備しているんですか?」


 ここに関しては元の世界と遜色ない造りをしている。どんな技術があるんだ?


「ここか?この辺は水道が通っているから水は普通にあるぞ。温度は魔法で調節しているらしいぞ。」


「・・・魔法?」


 ここに来てとてもファンタジーな単語が出てきた。


「なんだ、お前の世界には魔法がなかったのか?魔法っていうのはな、人の中にある魔力を使って超自然的な能力を生み出すことだ。」


 まさに俺が知っている魔法だ。

 まあ、異世界に転生したんだ。それくらいあってもおかしくないのかもしれないが、なんとなく魔法が存在していることに、心の中で興奮している自分がいた。


「・・・魔法っていうのは、誰でも使えるんですか?」


「ん?・・・まあ、魔力は誰しも持っているし、一応可能だな。俺も使えないことはないが、しっかり教えられたことはあまり無いし、日常では縁のないことだな。」


 そういうものなのか・・・。後でイフユ達にも聞いてみよう。


「・・・そういえば、さっき水道が通ってるって言いましたか?」


 もう一つ、先ほどの会話で疑問に思った部分があった。

 水道が通っているのなら、この世界の技術力もなかなかなのではないか?


「ああ、通ってるぞ。国からの指令で都市の中心部には水道が通っているんだ。管理が大変だからうちの周りや近隣の町じゃ通らないけどな。」


 国からの指令か・・・。

 末端までインフラが整わないのは仕方がないことではあるが、少し自己中心的に聞こえた。


「それより、そろそろ上がるか。のぼせちまうぜ。」


 そう言ってハンクさんは浴槽を出て一度かけ湯してから浴場を出た。

 それに続いて俺も出る。

 服を着て入口の方へ戻る。


「女性陣はさすがに長いな。まだ来てないみたいだ。・・・そういえば、お前服いつも同じだな。」


「え?・・・あ、そうですね。これ以外持っていなくて。」


 確かにこの世界に来てずっとこれしか着ていない。さすがに気持ち悪いと思ってきたころだ。

 

「じゃあ、新しい服買ってやるよ。すぐそこに服屋があるんだ。待ってるのも暇だし、行こうぜ。」


「え、そんな悪いですよ・・・。」


「いいからいいから、ほら行くぞ!」


 半ば強引に連れられて服屋に向かう。

 ありがたいことに下着から上着まで数着を買っていただいてしまった。


「本当にありがとうございます・・・。助かります。」


「良いんだよ。お前にゃかなり助けられてるんだ。」


 そうして服屋を出て浴場に戻ると、ちょうど三人が出てきたところで、家に帰ることになった。

 

「初めてだったけど、たまにはこういうのも良いなぁ・・・。」


 イフユも気持ちよさそうな顔で喜んでいるようだ。


「また一緒に入ろうね、イフユ!」


 リアンさんも楽しそうにイフユと話している。

 ・・・というか、この二人凄い仲良くなってるな。どんどん距離も近づいてる感じだし。

 湯上りのどこか艶めかしい雰囲気の二人を見ていると、何となくいけない気持ちになってくる。

 ・・・いかんいかん、変なことは考えない。

 

 この世界の文化にも大分慣れてきた。

 これからも楽しみつつ、目的を忘れないようにしてこの世界に馴染んでいこう。

 そう思いながらみんなで帰路についた。

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