食べて休んで働いて
「ところで、何で二人はこの仕事を受けようと思ったんだ?」
夕飯の席でハンクさんは俺たちに聞いてきた。
「実は俺たち、今日村から出て旅を始めたばかりなんですよ。だからお金もないしちゃんとした防具も無いしで、何とか日雇いででも稼がなきゃと思いまして・・・。俺は器用さには自信があるんで、ここなら、と思ったんです。」
「今日から旅か、そりゃ大変だったろう。今回は数日だがうちに泊まっていくことになっておるし、安心しなさい。」
ハンクさんは驚きながらもそう優しく言ってくれた。
そしてハンクさんは不思議そうに首を傾げて聞いてきた。
「しかしまた、どうしてその若さで旅に出ようなんて思ったんだ?」
「実は私の村が盗賊団にずっと襲われていて、私たちでその賊団を潰しに行こうと思っていまして。」
イフユがそう答えると、一瞬ハンクさんたち三人の雰囲気がピリッと強張った。
しかし、すぐに元の感じに戻って話を続けた。
「そうか・・・村が襲われているのか。それは大変だったろう。わしらにできることはなるべくしてやるから、何でも言いなさい。」
「はい、ありがとうございます。」
そうして仕事の内容やなんかを話しながら夕飯を頂いた。
夕飯が終わるとそれぞれの部屋に案内された。
「うちは広さだけはあるから、一人づつ用意できてるわ。むさくるしいけど、数日間、ゆっくりしてね。」
そうハンクさんの奥さんに連れられて部屋でゆっくりする。
・・・そういえば、この世界に来て風呂って入ってないな・・・。
この世界の人ってあまりそういうのは気にならないのだろうか。
そもそもここって水道って繋がってるのだろうか。
村では繋がっていなかったけど、これ位の都会なら繋がっているのかもしれない。
考え始めたらこの世界に対する疑問は尽きなかった。
ここまで色々と激動の二日間だっただけにこういったゆっくり考える時間はなかったから気にならなかったのだろう。
きりがないので考えを振り払って布団に潜り込む。
そういえば、布団はあるんだな・・・。
村では床にただ寝っ転がってたからこうしたリラックスした空間も久しぶりだ。
また考えを巡らせているうちに、眠りについたようだった。
窓から光が差し込み、眩しさに目が覚める。
起きるともう夜は空けていた。
布団から出て一つ伸びをして部屋から出る。
階段を下りて一つ下の階に降りると、他の四人はもう起きていたようだ。
眠そうな目をこすりながらイフユはこちらに気づく。
「・・・あ、コースケ、おはよ・・・。」
「おはよう。皆さんもおはようございます。」
「ええ、おはよう。朝食は今準備しているから、少し待っててね。」
ハンクさんの奥さんはそう言いながら手際よく調理をしている。
リアンさんも少しだけ手伝いをしているようで、眠そうにしながらもちょこまかと動いていた。
「おう、コースケ。今朝はよく眠れたか?」
「はい、これだけゆっくり眠れたのも久しぶりでした。ありがたいです。」
「ハハ、そうか、そりゃよかった。今日も仕事はいっぱいある。気合入れてやってくれよ!」
ハンクさんたちと他愛ない会話をしているうちに、朝食は出来上がり、皆で食卓を囲む。
食事を終えると昨日と同じ仕事場に移る。
今日も同じ作業の繰り返しだったが、手先の器用さと社畜とし、社畜として生きてきただけに忍耐強さには自信がある。天職と言ってもいいくらいの働きぶりだった。
「・・・本当に素人か?驚くほどの作業の速さだな・・・。」
「まあ、似たようなことは昔からやっていたので。」
ハンクさんにも驚かれるスピードで仕事をこなしていく。
一方、イフユさんは昨日と変わらず苦戦しているようだった。
ふと見ると、イフユさんのには昨日はいなかったリアンさんがいた。
イフユさんに仕事を教えているようだ。
見てみると大分手慣れた様子で仕事をしている。ここに就いて長いのか?
そうしているうちに時間はあっという間に過ぎ、昼食の時間になった。
ハンクさんの奥さんが作ってくれた、サンドイッチのようなものを仕事場で頬張る。
(やっぱりこの世界に小麦粉とかパンとかってあるのだろうか?)
そんなことを考えながら昼食をとり終えると、再びひたすら仕事に取り掛かる。
そんな一日を過ごしているうちに日も暮れる。
「よし、今日はこれぐらいで終えるとするか。」
ハンクさんの一声で作業を終える。
家に戻って、作られていた夕食をみんなでとる。
「いやぁ、コースケのおかげでノルマも大幅に上回ってるわ。本当に助かった。」
機嫌よさそうにハンクさんも笑っている。
「いえいえ、お役に立たのなら光栄です。」
仕事をしてここまで褒められたのもいつぶりだろうか。俺も嬉しくなってきた。
そんな俺とは対照的に、イフユさんは落ち込んでいた。
「はあ・・・どうせ私はコースケの半分以下しか仕事ができませんよ・・・。」
随分と悲観的になって丸まっていた。
「まあまあ、慣れてない中ではイフユも十分頑張ってるよ!」
そんなイフユをリアンさんは励ましていた。
・・・ここに来てからリアンさんが話す姿はあまり見られなかった。
無口な人なのかと思っていたが、この感じを見るとただ俺たちに慣れていなかっただけなのか。
前に比べてイフユとかなり話せるようになっているし、心なしか距離も近づいている気がする。さっきの仕事中に意気投合したのだろうか?
そうして夕食をとり終えると、少ししてハンクさんが声をかけてきた。
「コースケ、風呂行かねーか?」
「・・・風呂ですか?」
この世界にも風呂っていう概念あったのか・・・。
「ああ、街の方に風呂屋があるんだ。俺は数日に一回行ってるんだが、お前らも行きたいかと思ってな。料金は俺が出すぞ。どうだ、行くか?」
ちょうど入りたいと思っていたところだ。断る理由もないだろう。
「そうですね、ご一緒させていただきます。」
「おう、そうか!じゃあ、皆で行くか!・・・おっと、先に言っとくが混浴じゃねーぞ!期待してたら悪かったな、そういうところもあるみたいだが。」
ハハハ!と豪快に笑う。
・・・この世界でもそういう概念ってあるんだ・・・。
そうして一同で街の浴場に向かうことにした。