08 ドラゴンを超えるもの
ヨンネ、参戦!
「さて、せっかくだから、わたしも少し、身体を動かしてみようかな。」
そう言って立ち上がるヨンネが、リザを見やり、
「組み手の相手、よろしくね。
手加減はなしでも、大丈夫よ。」
一瞬、ヨンネの真意を量るような表情をしたリザだったが、すぐに普段通りの笑みを浮かべると、ヨンネの後に続いた。
程なく、武闘場の中央で向き合う二人。
ヨンネが、口元に手を添えて、
「大丈夫だと思うけど、念のため、防御魔法を二人にも仕掛けといて~。」
呼びかけられたリーリアが、素早く詠唱を完了する。
「お二人とも、すぐに僕の後ろに隠れられるようにしておいてくださいね。」
そう言ってギルガは、盾を地面に突き立てた。
リーリアとシャーナが揃って頷く。
「せっかく観客がいるのだから、今後の参考になる戦い方を見せないとね。」
「同感じゃな。」
そう言いつつ、リザは体内の魔力を練り、力を溜める。
「さて、圧倒的な体力と魔力を持つ相手と、どう戦うか?
人族であるが故、より高位の相手と戦うことになるは必定。
だからって、まともにやりあってたんじゃ、いくつ命があったって足りないわよね。
まぁ、基本は逃げることだけど、時には、どうしても逃げられないこともある。」
「ふむふむ。」
「さいわい人族には、体力、魔力の優劣に関わらず、使えるものがある。」
「ほうほう。」
「まぁ、言葉で説明するよりも、実際に見せた方がいいかな。
それじゃリザ、始めていいわよ。」
「では、参る!」
言葉とほぼ同時に、リザが踏み込む。
明らかに、先ほどまでギルガたちを相手にしていた時とは格段に速さを増したその拳は、しかし、ふわりと動いたヨンネの頭のすぐ脇を通り過ぎる。
ギルガたちからは、ほとんど目視できないリザの拳が、ゆったりとした動きのヨンネの身体をすり抜けたようにしか見えなかった。
「くッ!」
続いて放たれる蹴り三連、しかし、それもまたヨンネを捉えることはできない。
(透過?
いや、違う?)
透過であれば、気配はその場に残っているはず。
ヨンネの気配は、リザの攻撃をギリギリで回避している。
つまり、亜竜たるリザの視力すら騙し得る技を、ヨンネは行使しているということだ。
(なる程、視覚は頼れぬということか。)
リザの瞳が、半眼に視線を落とす。
意識を集中し、ヨンネの、いや、周囲のものすべての気配を探る。
ヨンネは、自分から仕掛けることなく、リザの出方を待っているようだ。
(考えても埒は明かぬ。
最速の突きを放ちつつ、動きを捉える!)
リザの瞳が紅い光を帯び、瞬時にヨンネとの距離を詰める。
渾身の拳に、知らず火炎がまとわりつく。
ヨンネの動きを追って、直角に紅い軌跡を描く。
「何ッ?」
ヨンネの気配が地に沈んだ次の瞬間、それはリザの足の間を抜け、
「ていッ!」
あまり切迫感の感じられない掛け声とともに、ヨンネの両手が軽くリザの膝裏を押す。
「くぅッ!」
堪らず、リザの両膝が大地に落ち、上体を支えるために四つんばいになった。
リザの背中に、飛び上がるようにして座る、ヨンネ。
「リザは、もっと小さい相手と戦う練習が必要よね。」
「うむ。
もっともじゃな。」
ヨンネはすぐにリザの背中から降り、手を差し出す。
その手を掴み、リザは立ち上がった。
上から見下ろせば、ヨンネの頭頂部と肩くらいしか見えない。
あまりにも矮小な存在にしか見えないにも関わらず、その実力は計り知れない。
(いったい、何者なのであろうか?)
リザが抱いた疑問は、もはや何度繰り返されたのか、定かではない。
付き合いが深まれば深まるほど、謎も増えてゆく人物だった。
それぞれの想いが綴られる・・・




