07 リザの鍛錬
リザの厳しい鍛錬が続き・・・
(どうしてこうなった?)
もう、何度目になるか分からない。
地に打ち倒された自分自身に喝を入れ、ギルガは立ち上がる。
真っ向から対峙するギルガは、当然ながら攻撃もマトモに喰らう。
リーリアの防御魔法、ギルガの盾術、さらに魔法剣で防御に厚みを加えてもなお、リザの鉄拳はすべてを突破して余りある。
「防御ばかりでは、敵は倒せぬぞ!」
リザの蹴りが、足元の大地を抉る。
目視は間に合わず、勘と言うよりも本能でギルガは盾を振り、巨大な土の塊をいなし、弾いた。
「獄炎!」
わずかな隙に詠唱を終えたシャーナが、魔法を行使する。
リザを取り囲む火炎の柱に隠れるように、ギルガはリザに肉薄する・・・はずだった。
「その程度、想定の範囲内じゃ!」
吹き上がる炎の柱を突き抜けて、リザの掌底が現れ、ギルガの身体を盾ごと突き上げる。
その力を利用して空中に飛び上がりつつ回転、魔力を込めた長剣を投じる。
ギン!と音がして、それは叩き落される。
「ふむ。
剣士が剣を捨てて、何とする!」
長剣を素足で踏みつけるリザの頭上から、盾を肩に押し付けるようにしてギルガが落ちてくる。
「甘いわ!」
「獄炎縛!」
ギルガの盾を受け止めようとする、リザ。
その背後の炎柱を突き抜けた火炎の縄が、リザの動作を一瞬遅滞させる。
「おおッ?」
手を出せぬまま、ギルガの盾がリザの脳天を直撃した。
「むッ?」
恐ろしく硬いものが、ギルガの盾を阻んでいた。
それがリザの額であることに気がついたのは、地面に転がった後、起き上がる途中だった。
「並みの魔物であれば、今の一撃により、致命的なダメージを受けたであろうな。」
さしものリザも、わずかにふらついているようだった。
圧倒的な体力、魔力を持つリザではあったが、人の形に変化した時には、わずかに防御力は劣るようだ。
戦うことに精一杯のギルガはまだ気がついていないが、勇者と互角以上と言われる亜竜に対峙して、曲がりなりにも戦闘らしき態を為せている時点で、とっくの昔に初級冒険者の範疇を越えている。
どこか遠くから、鐘の音が響いてきた。
「ふむ。
図らずも組み手となってしもうたが、小休止を取るには、良い頃合じゃ。」
「あら、ちょうど良かったわね。」
背後から声をかけられ、リザの長身がビクリと震えた。
「ヨンネ校長殿か。」
リザの胸の下くらいしか背丈のないエルフが、茶器の載った盆を抱えて歩いてくる。
「リザ、ちょっと、これ持ってて。」
「うむ。」
リザに盆を手渡すと、ヨンネは背負っていた薄手の絨毯を広げ、その上に腰を下ろした。
リザから盆を受け取り、絨毯の上に茶器を並べ始める。
「冷たいお茶に、少しだけど、お菓子もあるわよ。」
ヨンネに誘われ、みな、絨毯の上に並んで座った。
ヨンネの、ふわりとした雰囲気に呑まれたものか、言われたままに茶を口に含み、菓子を手に取る一同。
「で、どんな感じ?
この子たちは。」
ギルガたちとさほど年齢が離れているように見えないヨンネの語りようが意外ではあったが、それ以上にギルガたちを驚かせたのは、リザの反応だった。
「戦技は荒削りじゃが、鍛え上げれば一角の冒険者にはなり得ようの。」
ギルガたちに対しては泰然自若の態度を崩さなかったリザが、ヨンネの前ではしおらしい。
校長という役職などはドラゴンにとっては意味はないだろうから、リザを畏怖させる何かを、ヨンネは持ち合わせているのかもしれない。
もっとも、自分で持ってきた菓子を頬張り、ご満悦というヨンネの姿を見る限りでは、随分と愛想の良いエルフという以上のものは感じられないギルガたちだった。
リザに触発され、ヨンネが参加することになり・・・




