06 ギルガとリーリアの思惑
シャーナの能力に魅力を感じたギルガとリーリアは・・・
(火龍、リグザール・・・)
ギルガは、シャーナと親しげに語り合うリザの姿を、複雑な想いで見つめていた。
心を閉ざし、受身の反応しか示さなかったシャーナだった。
それをリザは無頓着に、圧倒的な力で、彼女の心の殻を打ち砕いた。
己の無力さを思い知らされる一方で、強大な力に惹かれる、自分自身をも感じている。
先刻、シャーナが放った火炎魔法は、決して弱いものではなかった。
初級冒険者ではあるものの、魔法の威力だけ見れば、中級冒険者以上かもしれない。
『鉄壁』の通り名を持つギルガとリーリアだが、シャーナの火炎に対しては、どこまで防御が通用するか、分からない程だ。
それをリザは、こともなげに防いでみせた。
いや、『防ぐ』という行為すら必要なかった。
確かに火龍は、炎を体現した存在だ。
火炎魔法など一切通用しないということは、理屈では理解できる。
それでも、あれだけの攻撃を、何も行動を起こさぬままに無効化してみせたのだ。
いったい、リザの裡にある魔力は、どれ程のものだろうと、ギルガは想像する。
リザのような強者とまともに戦える者など、果たしてこの世にいるのだろうか?
あれこれ思考を巡らせていると、隣に立つリーリアも、値踏みするような表情でシャーナを観察しているようだ。
「シャーナさん、お強い方だったんですね。」
「そのようですね。」
中級以上の魔法を行使できるシャーナさえも捕獲し得る、ゴブリンの群れ。
ギルガたちが討ち取ったゴブリンの一群は、恐らくその一部だったのだろう。
シャーナの魔法が通用しない存在が群れの中心にいて、そいつは今も、森のどこかに潜んでいるのだ。
(上位ゴブリンとすれば、騎士ゴブリンか、あるいは神官ゴブリンか・・・)
それに加えて、ホブゴブリンも数体いるかもしれない。
中級冒険者並みのシャーナの火炎魔法に、リーリアの防御魔法と、ギルガの攻防一体の盾技の組み合わせなら・・・
(最低限の三人パーティでも、バランスは悪くない。
互いの弱点を補え合える。
とはいえ、できれば攻撃要員を、もっと厚くしたいが・・・)
リーリアの、あまねく人々のお役にたちたいという意向を尊重して、敢えて防御に特化して、他の冒険者たちの補佐に徹してきた二人だったが、そろそろ自分たちが主体となって依頼を受ける体制に移行する頃合なのかもしれない。
そうなると、あと一人、いや、欲を言えば、あと二人は攻撃特化の手駒が必要だ。
もっとも、だからと言って、誰でもいいというわけではなく、独断専行でやたらに突っ込みたがるような手合いは、できれば遠慮したい。
そこまで考えて、ギルガはなぜか、シャーナがパーティに加わる前提で思考を進めている自分に気がついた。
そもそも、冒険者として復帰する気持ちが、本人にあるかどうか、まだ確認してはいないのだ。
とはいえ、最終的には、シャーナが加わることで落ち着くような予感を抱いているギルガだった。
(シャーナはもう、大丈夫そうですね。)
肩に乗るフィノの背中を撫でるシャーナには、もはやあの、打ちひしがれきった少女の面影はないように見える。
たとえそれが、戦闘の高揚によってもたらされたものだったとしても、自分の外の世界にも目をやることができるようになったのであれば、冒険者への復帰の道のりは遠くないはずだ。
(ギルガはきっと、シャーナを誘う算段を考えているんでしょうね。)
実際には、ギルガはその先のことを考えていたのだが、
(でもそれは、同じ魔法使いの、わたしの役目だと思います。)
冒険者となっていくつもの依頼をこなしてきたリーリアだが、仕事仲間に女性が少ないことを、常々さみしく思っていた。
仕事のことだけではなく、趣味とか、お洒落とか、おいしいものの話とか、同じ年代の話し相手が欲しかった。
(何か、ちょっとした切っ掛けさえあれば、すぐに仲良くなれると思うんですけど。)
ギルガと同様、シャーナがパーティの三人目のメンバになることを確信しているリーリアだった。
鍛錬に励むギルガたちの前に現れた人は・・・




