03 リーリアの憂鬱
シャーナのために、リーリアはある方法を思いつく。
それは・・・
「う~ん、埒が明きませんね。」
ぼやき声のリーリアに、
「こういうことに、焦りは禁物ですよ。」
ギルガの声音は、あくまで穏やかだ。
元々、そういう傾向があったギルガだが、冒険者として、防御主体の戦闘を積み重ねるに従い、感情が高ぶることはほとんどなくなってきているようだ。
「焦っているって言うのとは、ちょっと違うと思います。
もう一押し、何かが足りないって言いますか・・・
何かいい切っ掛けがあれば、もしかしたら、冒険者に復帰することさえできるんじゃないかなと思うんです。」
「ふむ。
貴女がそうまで言うのであれば、何か方法を考えてみましょうかね。」
顎に手を当て、考え込む仕草をするギルガ。
天然成分が邪魔をするのか、身内でもリーリアの言うことをマトモに受け取ってくれない者が多いと言うのに、ギルガはいつも真剣だ。
(ギルガって、いい人ですよね。)
リーリアはそんなことを思うけれども、ギルガの、リーリアへの信頼は、あくまで肩を並べてともに戦った経験に裏打ちされたものだ。
実際、リーリアのお陰で助けられた命は多い。
それを鼻にかける気配もないのは、リーリアの美点だと思う。
ただ、残念なことは、リーリア本人は自分自身の価値の高さに気づいていないことだ。
もっとも、そういう部分こそが、リーリアを好ましく思える部分ではあるのだが。
「あーもう!
考えてばかりいてもしょうがありません。
明日、学園に連れて行ってみましょう!」
「学園に?
なるほど、それはいい考えかもしれませんね。」
数ヶ月後に開催される武闘大会に備え、イルイリア魔闘学園は、通常の授業を休止し、学園生が各自、自主鍛錬に入っている。
また、学園の設備は開放され、学園外の人間も自由に使えるようになっているのだ。
アルフとの縁で、リーリアとギルガは度々学園を訪れ、学園生や冒険者仲間との交流を深めていた。
「みんなに相談したら、何かいい方法が思い付けるかもしれませんし。」
「そうですね。
僕も付き合います。」
「そう言ってくれると思っていました。
でも、依頼の方は大丈夫なんですか?」
「今はなるべく短期の依頼を選んでいるので、大丈夫ですよ。」
「通りで。
毎日様子を見に来るので、大丈夫なのかなって思っていました。」
「蓄えがありますから、しばらくは依頼を受けなくても構わないのですが、体を動かさないと鈍りますからね。」
ギルガはそう言って笑うが、依頼がなければないで、恐らくギルガは一人で森に向かうだろう。
街外れに近い教会から見える範囲の森であれば、魔物もほとんど出現しないため、魔物以外の生き物の、程良い狩場になっている。
教会の窮状を知るギルガは、おすそ分けと称して、度々獲物を調達してくれるけれども、そのために少なからぬ時間と手間を費やしてくれている。
恐らく、シャーナの復帰の可能性が高まるのであれば、どんな苦労も厭わないだろう。
一度、自分で決めたことは決して翻すことはないギルガの頑固さを、リーリアは知っていた。
学園の闘技場で、リーリアたちが出会った人は・・・