02 ゴブリン殲滅
ゴブリン殲滅の顛末は・・・
人族の村の一つが、ゴブリンに襲撃され、消滅した。
数を増やしたゴブリンが街道に出没するようになり、商隊の一つを襲った。
生き延びた数名がリンゴールにたどり着き、商工組合から冒険者組合に、討伐を依頼した。
ゴブリンの群れの規模が不明なため、堅実な仕事をすると評判の中級パーティに、白羽の矢が立った。
さらに彼らは、『鉄壁』の二人に戦闘支援を要請し、『鉄壁』はそれに応えた。
結果、滅びた村を根城にしていたゴブリンたちは掃討された・・・はずだった。
それに気がついたのは、『鉄壁』の片割れであるギルガだった。
村の跡地を根城にしていたゴブリンどもは、ホブゴブリンに率いられていた。
そして、ホブゴブリンが装備していた戦斧の刃は、完全ではないものの、砥石による研磨の痕跡があった。
知能の低いゴブリンは、通常、道具を手入れしない。
ただでさえ、体力、知力において人族にすら劣るゴブリンは、装備においても十全に性能を発揮させることができないため、一対一では人族に勝てない。
ゴブリンの恐るべきところは、貪欲さ、執念深さ、そして繁殖能力の高さにある。
とは言え、ゴブリンの数を正確に把握し、適切な規模のパーティを構成し、充分な装備を整え・・・詰まるところ、討伐依頼遂行のための基本に忠実な準備をすれば、ゴブリン討伐は、決して難しくはない・・・筈なのだが。
ホブゴブリンは、中級の魔物である。
中級冒険者に昇格したばかりの戦士二名と、中級昇格目前の初級冒険者六名で構成されたパーティであれば、攻略の難易度は、さほど高くないだろう。
しかし、依頼を受けた中級パーティのリーダーには、嫌な予感があった。
依頼の発端となった、襲われた商隊の規模は、決して大きくはない。
本来であれば、全滅してもおかしくはなかった。
だが、ゴブリンどもは逃げる獲物を追い詰めようとはしなかった。
得物は逃げ延び、他者に助けを求めることにより、新しい得物を引きつけるための呼び水となった・・・と、すれば。
このゴブリン討伐依頼は、自分から罠の中に飛び込むようなものだ。
それ故にリーダーは、とにかく全員が生き延びることを絶対の目標とした。
戦闘を生き延びる方法は、三つある。
一つめは、圧倒的な力で、敵を殲滅すること。
二つめは、まともには戦わず、逃げ切ること。
三つめは、敵の攻撃を完全に無効化し、諦めさせること。
リーダーは第三の方法を選択し、第一の選択肢の結果に至った。
一方的な戦いの後、ホブゴブリンの屍骸を検分したギルガは、確証を得る。
このゴブリンの群れは、知能の高いボスに率いられていると。
ゴブリンの特性の一つとして、ボスの能力や性格に、群れ全体が影響されやすいということが知られている。
ホブゴブリンは、体力は優れているが、知能はゴブリンと同程度だ。
そのホブゴブリンに、手入れされた武具を渡した者がいる。
ホブゴブリン以外の、上位ゴブリンの屍骸は見当たらなかった。
だとすれば・・・
(もっと、大規模なゴブリンの群れが、どこかに存在する可能性がある。)
ギルガの進言により、討伐隊は周囲を探索し、程なくゴブリンの巣穴を見つけた。
運悪く戦闘が始まってしまったが、幸い、巣に潜んでいたゴブリンの数は少なく、見つけたゴブリンどもは、すべて討伐された。
巣の中には、ゴブリンの他に、人族の女性が数名、監禁されていた。
しかし、一人を除き衰弱が酷く、保護されて程なく絶命した。
たった一人、助かった少女は、襲撃された商隊の護衛補佐の任についていた初級冒険者で、名を、シャーナと言った。
彼女は今、リーリアの所属する協会で、治療を受けている。
身体の傷は治癒魔法で癒すことはできるが、精神の傷は簡単には直せないし、もしかすると、一生直らない可能性もある。
当初、悲観的な予測をしていたギルガだったが、シャーナが自力で起き上がったと聞いて、悲観は楽観に転じた。
自分の足で立とうとする意思があるのなら、いずれ彼女は立ち直るだろう。
とても時間がかかるかもしれないけれども、こればかりは仕方がない。
自分の心を救えるのは、結局、自分自身だけなのだから。
人は決して、他者の心を救えない。
救済の手助けをすることはできても、最後はやはり、自分の足で大地を踏みしめ、自らの力で、立ち上がらなければならないのだから。
シャーナを立ち直らせるための方法はないか。
リーリアはギルガに相談を持ちかけるが・・・