序
拙作、『デラとアルフのドラゴン退治 ~リンゴール戦記Ⅰ~』の、裏話的物語の二つ目です。
本作は、『駆け出し剣士の物語 ~リンゴール戦記Ⅱ~』の、続きのお話でもあります。
全十一回で、毎日昼頃更新の予定です。
揺らめきながら、光が巡る。
自分の体が、自分のものでない感じ。
さまざまな想いが、次から次へと浮かんでくるけれども、それは明確な輪郭をつくることなく、泡沫のように無に還ってゆく。
ざわめく、感触。
耳朶に届くのは、遠く感じる、微かな叫び声。
言葉として判別できるけれども、意味を認識できない。
淀んだ空気の流れが、肌に伝わる。
体の芯は熱いのに、手足は冷たく感触がない。
キン!と、鋼同士が打ち付けあう音。
汚らしい、意味を持たない叫び声。
背中から伝わる、地の底からの響き。
何かが壊れる、壊される、音。
体が、揺らぐ。
ガツンと、額に衝撃を受け、視界がはっきりとしてくる。
いくつもの揺らぐ光は、松明のようだ。
バタバタと走り回る足音は、聞きなれたゴブリンのものだろう。
甲冑の擦れる音と、ゴブリンより重い足音が、それに混じる。
「まだ、生きてるぞ!」
耳のそばで発せられる、怒鳴り声。
「魔力はまだ、残っているか?
それなら・・・」
胸の奥から、仄かな温もりが湧き上がり、全身に染み込んでゆく。
久方振りの平穏が、意識を深みに誘って・・・
すべてのものが、闇に塗りつぶされた。
失意の少女と、それを見守る者たち。
少女は、立ち直ることができるでしょうか?