革命 (2)
「地球?何を言ってるんだ?異世界だって?」
「私は日本国という国の政治を司る機関に所属する今回の召喚におけるプロジェクトリーダーの白石和美と申します」
リオンは聞いたこともない国名と言葉の意味がわからなかった。召喚をこの国が行いその主導者がどうやらこの女らしい。白石と名乗った女は話を続けていく。
「貴方はこの日本という国が行った異世界召喚実験で呼び出された違う世界の勇者と呼ばれる職業だとこちらは判断しております。理由としましてはあくまでも推測でしかありませんが、私たちの国には秋葉原という異世界などに詳しい書物の多い場所があり、そこで書かれている文献などには基本的に召喚をされるのは勇者の資質を持つ者です。たまに魔王なども召喚されることもありますが」
「魔王召喚だって?」
「はい。しかし魔王であっても中身は善良なケースがほとんどですのでご安心下さい」
「意味がわからん」
「そこで貴方の荷物を調べました。アニメで描かれる事が多い神々しい淡い光と装飾で飾られた大剣は聖剣のようでしたし、着ていた金属鎧はこの世界では存在が微妙な特殊金属で出来ていました。そんな鎧を着ているのが少年ですし、最大の理由は金髪サラサラのイケメン少年だという事が決めてです」
「魔王ではないというのを見た目で判断したのか?」
「この日本のオタク文化の定石、そう知識としてイケメン少年で聖剣ぽい剣と鎧で勇者であると判断しております。基本的な情報として召喚されるのは勇者という人間と認識しております。間違いありませんか?」
自信満々に聞いてくる白石に対してリオンは戸惑いながらも自分が勇者である事を伝えることにした。
「確かに俺は人族で勇者だ。名前はリオン・フィルティモア。俺は魔王ゼルフォローとさっきまで戦っていたはずだが、意識を失ってしまったのだが魔王は倒したのか?」
勇者と魔王という言葉のところで白い服を着たおっさんたちが「おお〜」と歓声を漏らしている。白石と名乗った女も頷いているがリオンには意味がわからなかった。
「異世界勇者の召喚に成功したようです!勇者リオン様。残念ですが魔王討伐のことはわかりません。異世界については何も情報はわからないというのが現状です。しかし基本的な秋葉原の知識では魔王討伐が成された場合に異世界間の行き来ができるようになるのが条件であります。もしくは魔王を倒すために勇者召喚の二択ですね」
「俺がこの世界に召喚されたという事が魔王を倒した証拠になるってことか」
「はい、その通りです。もちろんこちらの都合で召喚しましたので貴方には国賓待遇として首相と天皇陛下に会って頂きます」
「ここは本当に異世界なんだな。国賓待遇はいらんが首相とはなんだ?天皇とは陛下というくらいだから王族か?」
「ご理解頂いて感謝します。ここは貴方が住んでいた世界とは文化が違います。首相というのは国の政治の指揮を執っている者です。天皇陛下は皇族になります」
「そうか。。。国王へ拝謁をしろというなら仕方ない。礼儀などはある程度出来るが完璧じゃないから勘弁してくれ」
「わかりました。その前にいくつか調査をさせて頂きますので別室へご案内します。西野!」
「はいっす!」
西野と呼ばれた男は椅子から飛び上がるように立つと白石の横に出てきた。
「リオン様。西野がお部屋までお連れします。彼に質問をさせますのでお答えして頂ければ幸いです」
「答えられることは答えるようにする」
「ありがとうございます。それではこちらへ」
リオンはチラリと観察を開始そてみる。西野という男は小太りで前衛職ではないだろう。むしろ冒険者ではないと思われる体型をしている。万一魔法職だとして襲われても問題なく対処出来るレベルだろう。狭い部屋でも戦える体術で応戦できるし、いざとなればここからの脱出を考えておけばいい。
壊れた部屋の横からチカチカしている部屋を通って廊下に出ると何処も全部が明るく照らされていた。かなりの魔道具を使っているようで階層移動も転移型ではなく可動式の魔道具の部屋に入って行うようだ。
チーン
鐘の音のような音と共に扉が開き西野が降りていく。後に続いて降りると扉は勝手に閉まってしまった。閉じ込められたかと勘ぐっていると
「それはエレベーターっていう建物の中の階層を自由に行き来出来るっすよ」
何でもないかのように西野は説明していると先程いた部屋と似ている扉の前で止まった。
促されて案内された部屋に入ると中には見たことのない物があった。
机や椅子はわかるが黒い薄い大きな四角い箱のようなものが置いてあり、その横には灯のついた魔道具が立っている。異世界という現実がジワジワと伝わってくる。西野に勧められるまま長椅子に腰掛けるとふわふわの座りごごちに驚いた。
「柔らかいし良い長椅子だな」
「ソファですか?それはニトリで買ったんですよ」
「そうか。ニトリを狩ったんだな」
トリというくらいだから鳥の魔物なのだろうなとリオンは思った。そして魔獣を狩る事の出来る人間が居ることに警戒も忘れない。きっとこれだけの量の羽毛なら大型なのだろう。贅沢な椅子を用意出来るといううのは財力と勢力を見せつけるためか。西野は見たこともない白い大きな箱を開けてリオンに問いかけてくる。
「飲み物は何がいいですか?」
リオンは戦いの後で喉が渇いていることを思い出した。
「水をくれ。喉が渇いて仕方ない」
「それならポカリの方がいいっすよ。水よりも吸収率高いっすからね」
西野が出してきたのはコップに入った濁った水だった。きっと川の状態が悪いのかもしれないが、リオンにはまぁ飲めるなら毒物耐性のあるから問題ない。
魔王と戦って喉も渇いていたので一気にポカリを煽る。その瞬間リオンの身体に雷が走ったようにビクンと小さく跳ねた。
「美味い!なんだこれは!体力が回復していくのがわかる!」
「いえ、そんな効果ないですけど」
「力が溢れてくるようだ!これはポーションだったのか!」
「ポポポッ!!!!ハイ!ポーションキターーー!!!リアルポーション発現頂きましたたぁああああ!!!!」
「え?」
西野が急に叫び出してリオンを圧倒してくる。なにこいつ?ポーションキターーって種類の説明か何かか?
「ほぉぉぉ。。。いやすいませんっす。ポーション実在するって聞いたらテンション上がっちゃって」
「これはポーションキターというのか?」
「これはポーションじゃなくてポカリっすよ。ポしか共通点ないっす」
「まぁいい。上級ポーションではないのならお代わりをくれないか?」
「どうぞどうぞ。それじゃ早速飲みながらでいいんで質問に答えてください。名前と年齢から一応聞いてもいいっすか?」
ポカリのお代わりを受け取り背もたれにもたれると、西野が小さい箱を取り出してカチャカチャやり出した。
「リオン・フィルティモア。リンク国ベル村出身。15歳だ」
「えーっと15歳っと。じゃリオンさんの住んでた惑星の名前はなんっすか?」
「惑星?住んでた世界のことか?それならエデンと呼ばれていた」
「エデンっすね。惑星の概念はなしっと。どういう種族が居たんですか?」
「色んな種族が入り混じっているかな。魔王は魔族で他には」
「リオンさん!!!そこから先は大事な質問ですのでしっかりと答えてください!!!特にエルフやケモ耳は必須っす!」
いきなり食い気味に西野が質問してくる。
「ケモ耳?なんだそれは?エルフは当然居た。俺は人族で魔族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、妖精族、魔獣などかな」
「獣人族はウサギの耳が生えてたり猫耳だったりしますか?」
「え?獣人族はそうだろ」
「ケモミミキターーーー!!!!!!」
(ビクッ!!)
急に大声で叫ぶ西野にビックリしたわ。何こいつ2回目なんだけど急におかしくなるって病気か?
「おい大丈夫か?」
「あああ、取り乱したっす。ケモミミ最高なんで」
「獣人族好きなのか?」
「大好物っす!」
その瞬間ソファに腰掛けていたリオンの姿がブレて見えなくなったと思ったら反対側に座る西野の襟元をリオンが掴み床に投げ打ってねじ伏せる。
「。。。。大好物だと?」
「ぐえぇえ!!くるぢぃ!!はふ」
「お前は獣人を食うのか?動物や魔獣ではなく獣人族を食った事があるということか?」
リオンが答えろとばかりにギリギリと抑えこんだ西野の頭が潰れるように床に押し込んでいく。
「ちが!イタイイタイ!!!違います!!意味が違うっすぅう!!!」
「意味が違うだと?」
「ここ世界では大好きな事を大好物って言ったりするっす!!食べるなんて絶対ないっす!寧ろ神っす!!!」
「信じられるか。お前が嘘をついているかもしれないだろう」
「嘘じゃないっす!!!嘘じゃないですから殺さないで!」
泣きじゃくる西野を見ていると嘘を付いているようには見えないかったのでゆっくりと手を離し距離を開ける。
「うぐうぐっ」
泣きじゃくる西野から距離を取ると部屋の扉が開き白石が入ってきた。どうやら見られていたようだ。