第5話 間違い のち 相談
さぁ、答え合わせです!
当たっても外れても続きます。
優は仮眠室で斎藤の言動を考えていた。
認知症が進み、斎藤の子供の頃の記憶と現在が入り乱れているのではないかと仮定した。
認知症の患者の多くは過去の出来事、それも印象に強く残っている昔の話をあたかも今さっき体験したかのように話をすることが多い。
優も今までそういう認知症の患者を多く見て来た。
しかし、斎藤の会話からは子供の頃の話や過去に子供にいたずらされた話など一切出て来ない。
たまたま優が聞いていないだけかもしれないが、舞からもそんな話はされていないと確認している。
また、斎藤の認知症はアルツハイマー型の初期であるためあそこまではっきりと子供の存在を現在進行形では言わない筈だ。
優はアルツハイマー型認知症から考えを外し、ふと斎藤の最近の身体的特徴を考えた。
毎日のリハビリの中で気になる斎藤の身体的特徴と言えば……
体が硬くなって来ている……
………体が硬い………
……その場にいない人がいる……
…しかもはっきりと見える…
その時優はある病名に気づいた。
気づいたというよりは確信だったが、確定ではない。ちょうど明日斎藤はMRI画像を撮る予定だった筈だ。その画像を見れば舞の不安も取り除ける筈だ。
その事を伝えに行こうと舞の元に向かうため、ナースステーションへと向かった。
ナースステーションに着いた優は舞に斎藤の病名の可能性を伝えた。
その病名とは
レビー小体型認知症。
認知症には種類がありテレビでよく見るのはアルツハイマー型認知症と言う。
ほとんどの認知症はこの型である為、その他の認知症はあまり取りざたされない。
レビー小体型認知症は認知症全体の20%程度といわれ、脳内の萎縮が認められる。
特徴としては手足の震えや体の節々が硬くなるが、一番の特徴は人や虫が見えるといった幻視である。
舞はあまり有名とは言えないが、言われれば納得するその病名を聞き幽霊ではない可能性への安堵と気づけなかった自分の不甲斐なさで微妙な顔をしている。
もちろん、MRIを確認しないと確定ではないが。
翌日、午後MRI検査が終わり電子カルテに反映されるのを待っていた。
レビー小体型認知症は家族の理解があるのと無いのとでは本人だけでなく家族の精神面への負担が強いからだ。
負担を減らすためにも少しでも早く家族に斎藤との接し方を指導する必要がある。
パソコンの前で電子カルテを開くとMRI画像が更新されていた。
直ぐに優は画像を開き脳の萎縮具合を確認する。
確認した優は驚愕した。
脳画像は前回取られた脳画像とほぼ同じなのだ。
優はそんなはずはない、きっと誰かの脳画像と勘違いしていたのかもしれないと前回撮られたMRI画像を開いた。
やはり脳の萎縮は進行していない。
この画像を舞が見たら落ち込むどころか恐怖で仕事を辞めてしまうんじゃないかと優は一抹の不安を覚えながら。
脳が原因でないなら、本当に幽霊が斎藤さんを苦しめているのだろうか……
他の可能性は覚醒剤?
いや、覚醒剤で幻覚は見るとしてもそれにしては発語はしっかりしていた。
覚醒剤なら呂律が回らず高揚感から怒ることもない筈だ。
何より、斎藤さんに覚醒剤を打つメリットがない。
薬の処方量が不適切なのか?等と、ブツブツと独り言を言う優に技師長でもある山根がからかい半分で話しかけて来た。
「おい、優。ブツブツと独り言言って怖い人みたいだぞ。そんなんだと女に逃げられるぞ」
大きなお世話だと思いながらなんだかんだで気にかけてくれるこの上司を嫌いにはなれない優ではある。
「ん?その脳画像なんか変か?特に変わりない普通の画像みたいだが?」
技師長というだけあってすぐに画像の変化が無いことに疑問を持つ。
優は幽霊の話や斎藤の件を山根に話した。
「幽霊ねぇ。そんなのいたらこんな救急の病院なんて幽霊でいっぱいになるぞ。
まして、子供の幽霊なんて聞いたこともない。」
と笑っていた。
しかし、急に真剣な顔で優に
「本当に脳萎縮だけがレビー小体型認知症の特徴なのか?
と言うよりも、まずは脳画像を見てお前は病気を当てれるほど賢いのか?
俺には無理だ、ドクターでもあるまいし。」
話しながら山根は手を上げながら続けた。
「だが、お前は理学療法士としてその可能性があると患者さんを見て判断したんだろ?
それは毎日同じ患者を見てるお前にしかわからない変化のはずだ。
なら、お前が考えた可能性をドクターに話してみろ。それがチームアプローチってもんだ。」
山根はそのままリハビリ室から出て行った。
その後ろ姿を見ながら優は忘れていた事に恥ずかしくなった。
たかが3年程度働いた位で出来る気になっていたのかもしれない。
病気に関する知識はドクターに敵わない。
患者の1日の体調管理や点滴や注射等の医療行為では看護師には敵わない。
薬の知識では薬剤師に敵わない。
でも、患者の身体能力の変化や理解に関してはドクターにも看護師にも負けない。
それぞれの職種の足りない部分を補い、自分たちの出来ることを最大限に活用することでより良い医療を患者に提供する事。
それがチーム医療だ。
優はすぐにドクターに電話をかけた。
「今、お時間いいですか?斎藤さんの件で相談したい事があります!」
チームアプローチってよく言われるけど、学生の頃はあんまりピンとこなかったなぁ。と思って優くんにも改めて考えてもらいました
28日0時更新予定です