単純なお笑いシリーズ コーヒーショップにいた同僚が、物凄い溜め息をしていたので、ちょっと話しかけてみた
就業時間内だが、会社が入っているビル内にあるコーヒーショップに息抜きに来ている。同僚の佐藤も誘い、しばらくここで無駄話でもするつもりだ。
このビル内は一企業が借り切っているので、ほぼ全て関係者だ。なので、知り合いや見かけたことがある人が多い。
空いている席に座ろうとして、窓側にあるカウンター席に、同僚の山田君が一人で座っている事に気が付いた。まあ、そんなに仲が良い訳でもないので、とりあえず挨拶もしなかった。
『はあ~~~~~~~~~~~~』
もの凄い溜め息を出している山田君。どうしたんだろうか、まあ気にせず佐藤と会話を続ける。
『はあ~~~~~~~ああ~~~~~ああ~』
まただ。流石に気になるし、佐藤も気にしたようだ。声は出さず、口をパクパクしながら、身振り手振りで、どうする? 話しかける? 行くか? という事になり、ちょっと声を掛ける事にした。
「お疲れ様」
『おいーっす』
といって、私は山田君の横に座り、佐藤は私の横に座った。
『お疲れ様です杉田さん、佐藤さん、休憩ですか?』
そう返事をした彼は目元を拭う。どうやら少し涙を流していたようだ、一体どうしたんだろうか。
「深い溜め息ついていたけど、悩み事かい? 軽い悩みなら聞いてあげるよ」
『気楽になー』
『ありがとうございます。……実は、その、自分の存在理由というか、その……』
「うん」
『生きている意味というか、何で俺が生きているのか、いや俺なんかが生きていて良いのかなんて考えてまして』
おもいよーーー! 滅茶苦茶重いよー! 何だよ、俺達それほど仲良く無いよね、そんな話普通する? 長期休暇明けのお土産だって渡さない仲だよね? びっくりだよ、そんな重い相談に回答出来ないよ。
「そっそうか」
『何か知らんけどダイジョブダイジョブ~、モウマンタイ』
軽いよ!! お前何で今の相談で、そんな返しが出来るんだよ! 空気読めよ! アホかよ!
『そうですよね、どうでもいいですよね』
え? どういう事? 今ので納得したの? そんな悩みだったの?
『俺の悩み何てどうでもいいですよね』
ちがったー! 傷ついている、深く傷ついてるよー! 佐藤のアホ!
「そっそんな事ないぞ、うん、そんな事は無い」
『うん、比較的どうでもいい』
「ちょっと黙ってろ! 佐藤!」
店内に怒声が響いた、というか俺が叫んだんだけど。周りからの視線に、少しペコペコすると、視線がこちらから外れた。しかし、こんな重い相談を受けて、変なアドバイスをしたら、ちょっと責任が取れない。彼には悪いけど逃げようと思う。上司とか、そういうのに相談した方が良いだろう。
しかし何に悩んでいるんだろう。そんなに仲良く無いし、プライベートの話ってことは無いだろうな。社会人だし、会社だし、仕事で失敗でもしたのかも知れない、という事はヨシ。
「えーとだな、ここは会社の関係者やお客様とかが多いから、仕事に関する悩みだと、ここじゃ聴いてあげられないから、プライベートな悩みだったらね。うん、そんなのだったら相談に乗るよ」
『はい。ちょっと話が長くなるかも知れませんが、実は何に悩んでいるかというと…』
プライベートの悩みだったーーー! だから俺達仲良く無いよね? ね? どうして相談出来るんだよ。
『実は私、花粉症なんですね』
『分かるー、俺も花粉症』
「そっそうか、花粉症ね。私も花粉症だよ」
『それでですね、鼻水が良く出るんです。で鼻をかむのですが、その量が尋常じゃないんです。飲んだ水分の半分が鼻水、残りがオシッコ、それくらい出るんです』
「おっおう」
『鼻をかむのにティッシュを使うんですけど、パルプ消費量が日本で一番なんかじゃないかって思える程なんです。まるで鼻水製造機というか、鼻水を作るために生まれて来たんじゃないかってね。
それで、俺の存在価値って何だろう、鼻水を作り出し、水資源を無駄に消費し、木や森を環境破壊をするために生れて来たんじゃないかってね』
どうでもいい相談だったーー! 全然どうでもいいじゃん。
『わかる~、俺もそう思ってる』
分かるのかよ! 俺も花粉症だけど、そんな発想にならないよ?
『でも、パルプ消費量一番は譲れないな。俺の方が上さ』
『はあ? それは私の消費量を見てないから言えるんですよ。しくしく』
「でも花粉症なら鼻水だって出るだろうし…」
『鼻水っていっても、物凄い水っぱななんです。粘着力なんてほとんどなくて、ほぼ水と言っても差し支えない位に、で、鼻をかむとティッシュに収まらずに手にべったりと鼻水がまとわりつく事もザラなんです』
「おっおおう。しかし、あれだな。ちょっとそこまでの発想に繋がる話なのかなって…」
『『はあ?(何言ってんの? あいつ有り得なく無い? なくない)』』
あれ? ヒソヒソした会話が、ちなみに俺を挟んで会話しているから、当然俺にも聞こえるんですけど。それと二人からの視線が痛いんですけど。
そうなの? それが当たり前の発想なの? 私がおかしいの? ちょっと挽回した方が良いのかな? うーん、あの話なら比較的近いんじゃないだろうか。
「実は、私も似たような事で、自分の存在理由を考える事はあるよ」
『そうなんですか?』
「先日、お腹をもの凄く壊してね、人生の中でトップスリーに入るくらいにね。トイレから一時間位出れなかったんだ。
で、思ったんだ。俺はクソするために生まれて来たんじゃないか。うんこ製造機じゃないかってね」
『『…………』』
あれ? 外した? 似たような話だと思ったんだけど。
『分かります』
『分かる~』
分かんのかい! まあいいや、これで私も仲間という事で。
『『杉田はうんこ野郎ですよね』』
「おい! それ大分意味が違うぞ!」
『いえ、すみません、そういう訳では無いんです。変な風に聞こえたんならすみません。ただ純粋にうんこ野郎だって思っているんです』
「酷すぎるだろ! もうちょっとオブラートに包めよ! もういいよ、この話は。ところで花粉症って辛いよね」
『本当ですよね。杉なんて全部切り倒ししまえばいいんですよ』
『おし、じゃあ、ちょっと杉を全部切り倒してくるわ』
といって、佐藤が席を立とうとしているので押しとどめる。
『じゃあ、杉を全部切らないとしたら、どうすれば良いんですか?』
落ち着け佐藤。
「杉は花粉を出すけど、植えてある事で何かに役立ってるんだから、無暗に切り倒しちゃだめだろ。それに花粉を出さない杉ってのも開発されているみたいだし、しばらくすれば、いつかは良くなるんじゃないのかな?」
『でも、それまでの間どうすれば良いんですかね?』
「山田さんは逆にどうすれば良いと思う?」
『うーん、人類を抹殺?』
「こえーよ、何でその発想に至ったんだよ」
『分かるー』
「何で分かるんだよ、どの辺に同意出来る部分があるんだよ!」
『いやだって、スギ花粉があるから鼻水が出て、水を無駄に使って、紙資源を無駄にしている。という事は杉を無くせばいい。でも杉を無くせないなら、水や紙資源を無駄にしている人間を無くせばいい。ですよね?』
「ですよね? じゃねーよ。極論過ぎんだろ。もうちょっと別の案考えろよ」
『いや、なので、とりあえず自分から居なくなればいいかなって』
「環境破壊を気にしているのは分かったけど、でもその発想は止めろ。生きろ。生きて代わりにもっと世の中のためになることをしろ」
『はい』
『俺からも一言。パルプ消費量なら負けないぞ!』
『何を! 俺の方が上だ』
「うるせーよ! 資源を大事にしているんじゃなかったのかよ!」
アホな事を言っている内に、コーヒーを飲みつくしてしまった。全然気が休まらなかった。二人は仕事に戻ったが、もう一杯コーヒーを飲むことにする。
『はぁ~~~』
今度は同僚の鈴木さんが深い溜め息をついている。しかし、もう懲りたので無視する事にした。
『はぁ~~~あああああーーーーー』
深い溜め息をつき、私の前に移動してきた。私は、気が付きながらも、席を立ち、コーヒーを持ちながら店を後にする。後ろにピッタリと鈴木さんが溜め息をしながら付いてくる。勘弁してくれーー。
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--おまけーー
『はぁ~~ああ~~』
物凄く深い溜め息をしている自分が居た。話しかけてみる。
「どした? 何か悩みでもあるのか? 軽い相談なら聞くぞ?」
『いや、これって小説なのかなってね』
「いや、文字で書かれているんだから小説だろ? 漫画でもアニメでもポエムでも無いし、俳句や短歌でも無いし」
『文字で書かれていたら小説なんてのは、おこがましいのでは? 例えば教科書だって文字で書かれていますよね? だったらこれは教科書かも知れないじゃないですか?』
「どこの世界に、この文章を授業に利用するんだよ。教科書は有り得ねーだろ」
『英語の例題とか?』
「いや、確かに英語の例題なら変な文章も有り得るかも知れないけど、流石にこれはねーだろ」
『じゃあ、法律とか、訴状とか、そういうのだって、文字ですし』
「どんな法律や訴状だよ、鼻水禁止とかされるのかよ。まったく、漢字はさ、見れば大体意味が分かるように成ってるんだよ。だからそれを噛み砕けば小説とは何か分かるんじゃないのか?」
『具体的には、どういう感じになのか、ちょっと説明して貰えますか?』
「小さい、言う、お兄ちゃん、角が生えてる。つまり、お兄ちゃん激おこで小言。という事では?」
『ちょっと何言っているのか意味わかんないです。兄の上にあるのは角なんですか?』
「え? 角じゃないの? あるいは、お兄ちゃんラムちゃんのコスプレして小言いわれたって意味かもしれない」
『やっぱり意味わかんないです。WIKIみたら自由な文章って書いてあったので気にしないでおきます」
「じゃあ聞くなよ!」