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1-16

城に着くまでには少し時間がかかった。

城は、帝都エーリュシオンにおける最も高い塔であり、最下部は当然第一区画も接している。つまり、早く着こうと思えばつけるのだ。

しかし、磁転車曰く、『もしかしたら第一区画には警備がいるかもしれません。アナキアの本部へ退却する際に敵がいては邪魔になりますからね。なので第二区画の入り口から内部へ入ります』だそうだ。

こいつ、俺と皇妃の会話を全部聞いていたのか?


とにかく、俺は第二区画から城へと侵入した。


『警備はいないようですね。良かった』


なぜか磁転車もついてきている。というか、降りようとしたらキュッと足を置いている部分がしまって降りられなくなった。


「だれか城を守る人はいないのか?」


仮にも一国の長だ。

ただの一組織にいいようにされるのはおかしくはないか?


『本来は代行者がその役割を果たすのですが、今は全員治安維持のために出払っていまして』


そういえば、第一区画で殺人事件が起こったとか皇帝が言っていたな。

もしかして、治安維持のために城を無人にさせるのが目的だったのかもしれない。


「つまり、城は完全に無防備と」

『はい』


こいつの声は言わずもがな機械による合成音声なのだが、細かい抑揚や緩急が人間っぽさを感じずにはいられない不思議な声を発している。


『とりあえず、玉座の間へ向かいましょう。こちらに近道がありますから』


スーッと無音で城内を浮かび進む磁転車。

そのまま、何かのオブジェの前まで到達した。

そのオブジェは、天井から床まであるかなり大きなもので、さながら壁を彫刻したような感じである。

磁転車はその前でポーンという音を発した。するとオブジェも呼応するかのようにポーンと言う音を発し、オブジェが上へと持ち上がっていく。天井に格納されているようだ。


オブジェがあった場所を見ると、かなり下まで空洞になっている。


『上は最上層まで繋がっていますよ』


言われるがままに上を見ると、確かに遙か先までずっと空洞が続いていた。空洞の内部は真っ白に光り輝いており、少しまぶしいくらいだった。

オブジェは中空だったようだ。


『この内部を通って玉座の間まで向かいます』


自転車はその空洞に入り、上昇を始めた。

若干一分で目的地に到着したようで、減速が始まり停止した。

ディシェルネの運転よりは大分楽な停止である。


再び磁転車からポーンと言う音が発せられると、目の前が開ける。


『この区画にも敵はいなそうですね』


空洞から出て周りに敵が見えないからと言って、区画全体に敵がいないと断言するのは少し気が早いだろう。

だが、複数人の集団が発する特有のざわめきのような雰囲気は感じない。

全員が潜伏していたり気配を消していたら話は別だが、城を攻めている最中の連中が気配を消す理由もないだろう。


「やっぱり、皇帝の暗殺を優先したか・・?」


そうしてそろそろと玉座の間へ進もうとした矢先、後ろから何かを突きつけられた。


「止まれ。少しでも動こうとしたら殺す」


潜伏していたのか。


すると前からも人が現れた。大きいこん棒をもった大男である。

後ろの奴が前の奴に声をかける。


「早くこの乗り物を破壊しろ」

「はいよ」


すると、大男はこん棒を振りかぶり、俺が握っている磁転車のハンドルの中央へと思いっきり振り下ろした。

ポーンポーンという音が流れる。

その音を聞くと、後ろの奴がチッと舌打ちをした。前の奴が後ろの奴に話しかける。


「どうした?」

「情報を流された。まあ、いい。コイツを拘束して連れて行くぞ」

「はいよ」


磁転車はディスプレイの部分が完全に破壊されて火花が散っている。

いつの間にか足を固定するための締め付けが緩み、ふわりと浮かんでいたのも段々と地面に近づいてきている。

普通に会話していたものが動かなくなると、何か情のようなものがわくな。


とはいえ、相手は武器を持ち、いつでもこちらを攻撃できるような体勢を取っている。

対して俺は、スタンガンこそ腰にしのばせてはいるが、それを取ろうと身動きをしたら確実にやられる。

ここはおとなしく従うしかないだろう。


俺は両腕を後ろで縛られ、両足首も縛られた。

しのばせていたスタンガンは、拘束されるときに発見されて回収されてしまった。

そのまま俺は大男に担がれるようにして運ばれていった。


ーー


大男が立ち止まったところは、やはりと言うべきか玉座の間に通じる巨大で豪奢な扉の前。

すると、俺の後ろにいたらしいひょろっとした感じの男が扉をノックした。


「ディシェルネ様、指示されていた侵入者を捉えました」


ディシェルネ、ということはこっちが当たりか。


「そう、入ってきて」


中から声が聞こえる。ディシェルネの声に違いない。


「はっ!失礼します!」


そう言うと、ひょろっとした男は大男に目配せをした。

大男は頷くと、背負う俺を支えるのとは逆の手を前に出し、扉を開けた。


玉座の間にいたのは、ディシェルネ・・・と玉座に座る皇帝だった。


「皇帝陛下!?何故ここに」

「は?お前、皇帝があんな子どもなわけないだろ」


思わず声を上げてしまった俺にひょろっとした男が言葉を返すと、大男に目配せをした。

大男は頷くと、背負っていた俺を床に下ろした。


「それでは、私たちはこれで」

「ええ、ありがとう二人とも」


二人組の男は、お辞儀をすると玉座の間の外に出て扉を閉めていった。


「さて、新たな客人だね」

「そんなことを言っている暇はあるのかしら、コウテイさん?」


そう言うと、ディシェルネは代行者に配られるという銀白色の武器を皇帝に向けた。

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