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「勇者っていったい何なんだ?」


あの後、俺は女の部屋へと連れて行かされた。

文面だけ見ると魅力的にも思えるが、相手がこいつだと大して嬉しくもない。

とにかく、用事だけ済ませて部屋を出ることにしよう。


「勇者というのは、異世界人に対する肩書きのようなものです」

「異世界?お前、ちょっと妄想が過ぎるんじゃないか」


夢見がちな女だったとしても限度がある。

自分の妄想を部下にも信じさせて、あげく俺にまるで真実であるかのように伝えようとしてくるなんて。


「違いますよ!異世界は本当にあるんですっ!それと、ちゃんとディシェルネって呼んでください」

「証拠があるなら信じるよ。でも、ないんだろ」

「私の父が異世界から来た勇者でした!」

「じゃあ、その人に会えば証拠を見せられるとか?」


別に本当に会うつもりはない。どうせ嘘だろうからな。

俺がこう言えば、向こうは何か証拠をでっち上げるか、絶対に会わせるまいとするはずだ。


「私の父は、・・今はいないんです」

「ほら、会わせたくないんだろ。いい加減認めろよ、嘘ついたって」

「わかりましたよ!」


はぁ、やっと認めるのか。


「今から皇帝陛下に繋ぎますから、陛下からお話を聞いてください!それなら納得するんでしょう」


え、皇帝?

ディシェルネは、身をかがめて部屋の床に何かを置いた。


「いや、そんな大事にする必要も無いぞ」

「このままじゃ埒があかないので。それに、もう繋ぎましたよ」


行動はええな、おい。


「なんだい、ディシェルネ君?」


皇帝の声とともに、皇帝が玉座に座るホログラムが浮かび上がった。

たしか、ホログラム投影機は最近開発されたもので、市場に出始めたもののかなり高額な製品だったはずだ。

ディシェルネは、そのホログラムに向かってひざまずいた。


「陛下、お忙しい中大変失礼いたします」

「いいよ、楽にして。ディシェルネ君からの連絡というんだから、きっと大事な用事なんでしょ?」


俺を説得するためだけに連絡してますよ、こいつ。


「はい」


よくそこで頷けるな。


「実は、アージェンタム君に異世界の存在を教えたいのですが、私からでは聞く耳を持ってくれないのです」


こいつ、告げ口みたいに言いやがって。


「そうか、・・・アージェンタム君」

「はい」

「ディシェルネ君の親は異世界から来た人だよ。これで信じてくれたかな?」


説明が大雑把すぎるが、皇帝に言われた言葉を信じないと何かの権利に違反しそうな気もする。

とりあえずは信じたことにしよう。


「もし異世界が実在するとして、何故学校などで教えないのですか?」

「ほとんどの人には関係ないからだよ。こちらの世界から向こうに行くことは出来ないし、向こうから来る人間もほとんどいない。ディシェルネ君の親御さんが特殊だっただけさ」


傍らを見ると、ものすごい勢いで頷く女。

なんか、腹立つな。


「こいつが父親には会わせられないなんて言うので、てっきり嘘かと」

「ああ、それね・・」


皇帝は口を濁すと、何故か女の方を見た。


「いえ、私から言います」


そう言うと、女は俺の方へ向き直った。


「あの、私の両親は二人とももういないんです」

「は?どういうことだ」

「お亡くなりになった、ということだよ」


皇帝が横から口を挟んできた。

その言葉に、女が目をそらす。


「そんな・・えっと、俺・・・・」


さすがの俺もちょっとしたマナーは持っている。

両親が死んでしまった子に対して強く当たってはいけなさそうな気はする。もっとも、後の祭りだが。


「気にする必要はありませんよ。物心が付く前、本当に赤ちゃんだったときに死んだようですから」

「そんなわけで、ディシェルネ君の父君と会うことはできないんだ。それでも、彼女が父親から受け継いだ力はちゃんと残っているよ。それを見せれば良いんじゃないかな?」

「あ、さっき見せました。アージェンタム君、ほら、さっき下っ端の一人が銀白色の塵に分解されましたよね。あれですよ」


あれなら、光景が異常だったから俺も覚えている。

武器を使わずにやっていたが、そんな特殊能力だったのか。


「ディシェルネ君の父君には生前にいろいろ協力してもらってね。彼の持つ能力を錬金魔術で再現することに成功したんだ」

「錬金魔術・・?」

「ああ、気にしないで良いよ。とにかく、普通の人でも再現できるようにしたってこと。それでも、自由に塵に出来るようにはならなかった。再現した技術だと、発動前に何を塵にするかを細かく設定する必要があるんだ。対してディシェルネ君は自分の能力として自由に塵に出来る。そういうわけだ」

「ありがとうございます、皇帝陛下」

「ううん、構わないよディシェルネ君。じゃあ、ボクはこの辺で失礼しよう」

「はい、お忙しい中失礼しました」


皇帝が軽く手を振ると、ホログラムがすっと消えていった。


「わかってくれましたか、アージェンタム君」

「とりあえずは」

「良かったです。そういうわけで、私はこのアナキアにおいて一定の地位を確立することが出来たわけです」


強い能力を持っているから戦力として大事にされている、ということか。


「勇者についての説明も終わったので、つぎはアージェンタム君にやってもらいたいことです」

「有能そうな人材を事前に見つけろだろ。わかってるって」

「それは裏の任務です。表向きの仕事を与えます」

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