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1-11

そして約一ヶ月後、俺は鍛錬を終え、正式にアナキアの戦闘員の一員となった。


「全員、気をつけ!」


俺を含めた新米のアナキア戦闘員は、教官の指令とともに姿勢を正した。

教官は俺たちの前、ちょっとした台の上に立って指令を出している。


「お嬢様からのお言葉である。全員傾注!」


そう言って教官が降りると、今度はあの女ーディシェルネーが壇上に上がった。

女はわざとらしく(俺にはそう見える)コホンと一回咳払いをすると、話し始めた。


「みんな、お疲れ。今日から貴方達も立派のアナキアのメンバーとなるわ」


あいつの話し方にどうしても違和感を感じて思わず体を揺すると、女はそれに気付いたようで左右に満遍なく動かしていた顔をバッとこちらに向けた。

あまりにも急な動きだったために、周りの新米が動揺するのを感じることが出来るものの、教官の指導の甲斐あって誰一人としてキョロキョロ見回したりするものはいない。まあ、なんで誰も動いていないか分かるかというと、俺があたりを見回していたからなんだが。


女は話を中断するのかと思いきや、意外にも話し続けた。ただし、依然として顔はこちらに向けたままである。


「ー以上が私が貴方達に伝えたかったことよ。これから配属先を決めるから、終わったら教官のところへ行きなさい。あと、アージェンタム君だけは私の所に来てください」


あ、やっぱりこの女も教官って呼ぶんだな、という感想はさておき、俺だけを特別扱いした言葉に周りがザワつく。だが、俺は自分の名前を誰にも教えていないため、俺に注目が行くことはないだろう。

そう思った俺はしばらくの間、他の人が教官の下へ向かうのを眺めていた。

なんですぐに行かないのかって?そりゃあ、あの女が困ったような表情を浮かべるのを見たいからさ。決して小学生男子の恋心と同じじゃあないぞ。


そうして眺めていると、一人の新米が声をかけてきた。

名前を覚えていないから、新米Aと名付けよう。


「あんた、アーゼンタムだろう?なんで行かないんだ」


発音間違ってるぞ、という突っ込みは心の中で飲み込み、新米Aの発言の真意を探ることにした。

こいつ、なんで俺の名前を?と一瞬思ったが、よくよく考えると俺だけ寝泊まりする場所が違うし、そもそも名前を明かしていない時点で怪しいか。

最初にあの女とここに来たときに、いた可能性もある。


「そっちこそ、教官のところへ行かなくていいのか?」

「いい」

「は?」

「僕がアーゼンタムとしてお嬢様のところへ行く」


そう言うと、その新米Aは女のところへと走って行った。


だから、発音間違ってるって。


あいつバカだろ。



教官の前に並ぶ列ではなく、真っ直ぐに女のところへと行っているため、周りからはあいつがアージェンタムだったんだ、という声が聞こえてくる。


新米Aはというと、「僕がアーゼンタムです!」と叫びながら両腕を広げて飛びかかろうとしている。否、抱きつこうとしている。


女はどうしているだろうと思って見ると、ずっとこちらを見ていたのか一瞬で目が合った。俺とあいつの間になんとなく気まずい雰囲気が漂う。

だが、俺としては新米Aがどうなるのか見たいため、目を外すわけにはいかない。

そして女の方が目を外すと、そこで初めて新米Aが接近していることに気付いたようで、少し目を見開いて驚いた表情を浮かべた。


女が新米Aに気付いた時点で、既に距離は1メートル程度にまで縮まっていた。

どう避けるのか、ウキウキしながら見ていると、変化は突然訪れた。変化は二つ。


初め、新米Aの体の動きが止まった。

といっても、ただ体が固まったわけではない。走りながら体が動かなくなれば、本来走っていた方向へ体が滑っていくはずである。空中に体が浮いている状態であれば、放物線を描くようにして体が飛んでいくだろう。

だが、新米Aの体は、まるで時が止まったかのように空中に完全に停止している。


そして次の変化、新米Aの体が銀白色の塵へと分解されていく。

その光景はまるで、このまえ女が武器を使ったときと同じようであった。というか、これ代行者が持つ武器の特性なんだろう?こんなところで使ったら、分かる人には代行者だとバレてしまうんじゃないか?

ただ、よくよく見てみると今の女は何の道具も持っていない。

どうして、道具も無しにそんなことができるんだ?という俺の疑問への答えは、教官の言葉によって明らかになった。


「さすがはお嬢様、見事なお手並みです。やはり勇者の子ですね」

「は?勇者?」


今までで一度も聞いたことがない単語に、思わず声を出してしまった。

しんとした中で響く俺の声。


次の瞬間、教官を含め周りの人からの白い目線が俺に向かって飛んできた。


「お前、勇者を知らないだなんて今までどうやって生きてきたんだ」


新米の一人からそう言われる。


は?普通にだよ。学校でも勇者なんて小耳に挟んだこともないぞ。

そう思って言い返そうとしたそのとき、あの女が声を上げた。


「彼がアージェンタム君よ。私が拾ってきたんだけど、特殊な環境で育ったからちょっと知識がないこともあるの」


コイツも何言ってるんだか。少なくとも、最下層にすんでるこいつらよりはまともな教育を受けてきていると思うんだが。


「勇者のことは私が教えるから、今は彼を責めないであげてちょうだい」

「わかりやした。おい!お前らもあいつを責めるなよ!」

「「ウッス!!」」


なんだこの団結。


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