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目の前にいる女は、どう見てもディシェルネだろう。


「久しぶりですね、アージェンタム君。こちらは以前話していた反政府組織、アナキアの方々。そしてみんな、彼はアージェンタム。私が見つけて来た掘り出し物の人材よ」


・・・こいつは何を言っている?

この第一区画を歩いていればいつかは反政府組織の構成員に出会えるとは思っていたがまさかこんな形で紹介されるとは思っていなかった。

しかも新しい構成員を見出して採用できるくらいの地位にいるのかこいつ?


「おっと、お嬢様。そんなに簡単に明かしていいんですかい?」

「大丈夫。彼は私が見つけたのよ?口は堅いわ」


お嬢様って・・ますます混乱してくる。口調もいつもと違うし。


「あの、あんたはいったい・・」

「おい!!お嬢様に向かってあんたとはなんだ!?」

「ひっ」


どうやらこの女は組織の中でもかなり上の地位を築いているようだ。取り巻きのように隣に立っている大男から大声で怒鳴られて思わず声が漏れてしまった。

女を見ると、そんな俺たちの様子をみて何がおかしいのかクスクスと笑い出している。


「いいのよ。彼とは対等な関係だから」

「ですが、こういう奴は一度きちんと教えてやらねえと一生わかりゃしませんよ」


少し反論した大男に対して女は絶対零度のような視線を向けた。

自分に向けられているわけではない俺から見ても背筋が寒くなるような視線だ。


「私に意見するのかしら、あなたは?」

「すいませんっしたぁ!!」


ほとんど土下座のような格好で地面に這いつくばる大男。俺はさっきこんな奴に恐れを抱いていたのか。


「さあ、アージェンタム君。行きますよ」


いつの間にか隣に来ていた女が俺の手を引っ張って歩き始めた。

半ば引きずられるようにして俺はついて行った。

頭の中は依然として混乱している。


着いた場所は寂れた第一区画には似合わないような大きいホール。

天井はドームのようになっており、見た目からしてほとんど第二区画にギリギリの高さまで迫るほどの広大な空間が広がっていた。

もっとも、きちんと測ったわけではないが、第二区画にまで浸食していたら権利違反となってしまうから恐らくギリギリでとどめているのだろう、という推測が出来る。


「ここは・・?」

「この場所こそが我ら反政府組織アナキアの拠点です。今日からアージェンタム君はここで暮らしていただきます」


その言葉に周りがどよめく。

周りの言葉を聞いてみると、どうやら拠点で寝泊まりできるのは相当上の立場にいる人のみのようだ。

今日入ったばかりの俺がいきなり拠点で寝泊まりするのは異例中の異例らしい。

だが、俺にとってはそんなこと関係ない。

立場が上の人が寝泊まりするということは、要はかなり快適な暮らしができるということだろう。

ありがたく享受するのが筋というものだ。


「わかった。それでこれから俺は何をすればいいんだ?」

「まずは今日来たばかりということですし、施設の案内からしていきましょうか」


この女はお付きの大男たちを解散させて俺の手を取り歩き出した。

歩き始めて数分後、この第一区画で出会ったときから発していた堂々としたオーラを徐々に霧散させた女が俺に話しかけてきた。


「ここからはもう隠し事はしなくても大丈夫ですよ」


一瞬聞くと俺が潜入調査が目的でここにいることを会話に混ぜても大丈夫だという意味に聞こえる。

だが、俺はこの女を全く信用していない。

もしかしたら、アナキアのメンバーである方がメインで代行者はスパイ目的でやっているという可能性もあるわけだ。

そもそも、こいつがアナキアのメンバーなら俺がわざわざ潜入する必要はないし、この区画に送る前に皇帝が一言言ってくれてもおかしくない。

考えれば考えるほど信頼できなくなっていく。


「隠し事?何のことだ?」


俺の言葉に女は演技でなく焦りの表情を見せた。

演技でないと断定するのは危険かもしれないが、少なくとも俺の目にはそう映った。


「もしかして忘れちゃったんですかっ!?潜入任務のことですよっ!」


さっきまで俺の脳内ではこの女はかなりブラックな世界で生きている二重スパイみたいな立ち回りだったのだが、現実はもっとホワイトのようだ。

もし二重スパイならここまで簡単に口に出したりしないだろう。

もともとこいつは俺と出会ったときから演技でもしていない限り、性格的に二重スパイができるようなタマではないだろう。


「あ~、思い出した」

「もうっ、しっかりしてくださいよ。これからはしばらくここで働いてもらいますから」


俺を働かせることでアナキアのほかのメンバーに認めさせようという腹づもりらしい。


「そのことなんだが、一つ質問がある」

「・・?なにかしら?」

「おまえ・・ディシェルネがここにいるってことは、わざわざ俺が潜入する意味はないんじゃないかってこと」


相変わらずこの女は三人称で呼ばれるのを嫌うようだ。

俺がおまえと呼ぼうとすると、きつい目線でにらんでくる。


「後々やっかいになりそうな有能そうな人が下の階級にいたら私に教えてほしいんですよ。なんなら連れてきてもらってもいいですよ。人材の引き抜きとでも言って」

「いや、この組織とアジトを報告すれば済む話だろ」

「組織は潰しません」

「・・は?」

「これ以上は機密ですから。とにかく、アージェンタム君は有能そうな構成員を探して私に報告してください。そしたら、私から皇帝陛下へ報告します」


それ以上はこの女は何も言わずに歩く速度を速めた。


俺が案内された場所をざっとまとめると、食堂、武器庫、倉庫、鍛錬場、公衆浴場など。

宿泊棟は夜寝るときに案内してくれるらしい。

どうせなら今案内してくれれば二度足を踏まなくて済むのだが。


そうして歩いた後、俺は再びホールへと連れて行かれた。


「アージェンタム君、あなたに最初の仕事を任せます」


まわりにいるアナキアのメンバがそろってこちらを見ている。

厳かな雰囲気に声をだすことが憚られてしまった俺は頷くことしかできない。


「鍛錬場で鍛錬を積みなさい。それがあなたの最初の仕事です」

「それが仕事?」


俺としては甚だ不本意だが、確かに戦闘力という面では今の俺は皆無に近い。

しかも、妙に周りのメンバーたちも納得したかのようにうなずき合っている。


「アナキアのメンバーになって初めての仕事は鍛錬と決まっていますよ。今日は疲れもあるでしょうから、一晩休んで明日から始めてください」


全員が避けては通れない道なのか。ならば仕方がない。

それに、そこまで大変でもないだろう。


「わかったよ。それよりも、まだ休むところを教えてもらってないんだが」

「後で案内しますよ。それよりもまずは夕飯にしましょう」


なんだかごまかされたような気もするが、まあいい。ちょうど腹も減っていたところだ。この最下層の食事がどんなものなのか気になるしな。



結論、最下層の食事はまずい。

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