プロローグ〜憂いは革変を望む〜
広い、とても広い舞台がそこにはあった。
真紅の幕は開演した時から一度として下りる事無く、舞台の上で繰り広げられる物語に終わりは無く、延々と続いている。
観客は――一人だけ。
アナタは観客でいますか?それとも役者になりますか?
プロローグ〜永遠の舞台〜
広い、とても広い舞台がそこにはあった。
真紅の幕は開演した時から一度として下りる事は無く、舞台の上で繰り広げられる物語には終わり無く延々と続いている。
観客はただ一人。
舞台の前に置かれた一脚の椅子に腰を掛けている。
それが誰なのか伺う事が出来る者は、この場には誰一人としていない。
それ以外は何も無い。漆黒が存在しているだけだ。ただ、その椅子の周りだけは、何故かスポットライトを当てられたかの様に漆黒は無く、それによって、その椅子は異常なまでの存在感を持ってそこに在った。
だが、その存在感に舞台上の演者たちが気付くことは無い。彼らは自分に課せられた役を演じる事に必死で、観客がいる等とは微塵も考えない。
それは演者たちの独りよがりの物語だった。演劇としては最低な状態だった。見せるのでもなく、聴かせるのでもない。ただ舞台上で人が動いているだけの出来事でしかない、評価をする事すら出来ない状態だ。
それでも、物語は続いて行く。
続き続けて行く。
終わりなどはまるで見えず、終わりかと思う流れになったかと思えば、また新しい流れが生まれ、その終わりかと思う流れを押しやってしまう。
それが何度と無く続いた。
そう、何度となく、だ。
数える事すら無意味だと思える程に。
見ている事が苦痛だと感じてしまう程に。
聞こえる言葉や音が煩わしいと感じてしまう程に。
それは何度と無く、繰り返される。
その事を演者達は誰一人、異質だと、無意味だと思わない。物語なのだから当然なのかも知れないが、だとしても、この物語の作者は気付かなければならない事だろう。
同じ危機、同じ展開、同じ解決策、そしてまた同じ危機、同じ展開、同じ解決策。全てはそれの繰り返し。解決策の先に、誰もが未来を信じる様な、希望を抱く様な言葉を吐きながら、結局は、同じ様な、或いは似た様な危機を向かえ、そして同じ展開になり、そして同じ解決策を取る。
哀れな物語だ。
そして同時に、痛々しい物語だ。
全ての終わりに、希望や未来を見つめているのに、そうしていた者達が、似た様な危機を再び向かえる、あるいは起こす。そして、全てはまた同じ事を繰り返す。
虚しい、余りにも虚しい物語。
それは今も尚、続いている。この先も、その先もずっと。
それを、椅子に座る者は、じっと舞台の上で繰り広げられる物語を見ていた。無言で、身動ぎ一つせず、見続けていた。
そして人にして見れば長い、その者にして見れば一瞬の様な時間が流れた時、その者は不意に涙を流した。
しかし、それは舞台上の物語に感動したからではない。
舞台上で行われている物語の虚しさに涙を流していたのだ。
物語が続いて行くにつれて、その者は身を切られる様な、或いは焼かれる様な、引き千切られる様な痛みを感じ、そのつど涙を流した。
そして、それから少しの時間が流れ、その者は涙を拭う。
しかし拭っても涙は溢れ、そして痛みは消える事無くその者苛み続ける。それは悪夢の様な収まらぬ痛み。それに、その者は異を唱えず、そして泣き声も上げない。ただ、涙を零すだけだった。
だが、それも何時までも続かない。
続けてはいけない。
だから、その者は涙を拭い、痛みに堪えながら、ある決断を下す。
それはその者がする、本来ならば在り得ない筈の、してはいけない筈の舞台への干渉。
それは、物語を大きく変えてしまうかも知れない危険なアドリブ。
だが、そうしなければならない。そうしなければ、この物語は延々と歪なループを続け、そしてその歪さを増して行き、最後に全てを破状させてしまう。
だから、アクセント与えるのだ。
マンネリ化した舞台に新たな息吹を吹き込む為に。
そうする事を、その者は許されていた、権利が存在した。
そして物語は開演から数度目の転換期を迎え、台本には無い展開が開始される。いや、そもそもこの物語に台本などは無かった。
全てはアドリブだ。
しかしそのアドリブもマンネリ化してしまえば台本と変わりは無い。先駆者は、いつしか教本となり、その後に続く者は模範者でしかない。
だから、これはそれを変える為のアドリブ。
そのアドリブで、どうなるのかは分からない。
もしかしたら今と変わらないのかも知れ無い。或いは、舞台上から誰もいなくなるかも知れないし、今演じている者達が総入れ替えするかも知れない。
だが、それでいい。
いや、それがいい。
そう、その者は思った。
そして、物語は突然のアドリブで、劇的な変化を迎える。
それを、その者は慈しむ様な目で観る。
それは、まるで母親が我が子を見る様な、そんな目だった。
しかし、物語は、そんな目で見る唯一の観客の事など知らず、続いていた。
歪に、愚かに、そして必死に。
物語は続いていた。
どもども、始めまして、そして以前の方を見てた方々、お久し振りです。砂神九十九です。随分と長い間放置して来ましたが、久し振りに再会したいと思います。まぁ、初めての方には何のこっちゃ?って話だとは思うんで、適当にスルーでもして下さい。
さて、タイトルの無終ノ神ですが、コレは『ムツノカミ』と読みます。まぁ、造語です。長くなるのかどうかは分かりませんが、とりあえず書き終えられるように努力したいと思います。それでは、皆々様、どうぞこの物語を一つよろしく。