プロローグ
ホームルームを終えた朝の教室。
これから修学旅行へ向かう最終確認のため、出席を取っていたときのことだった。そんな期待の漂う教室に、見事に平均を体現するひとりの男がいた。
その名は田中太郎。今どき珍しいほどの日本男子に相応しい名前を持つ彼は、成績も平均、体力も平均、顔も、不細工ではないが格好いい訳でもなく、三歩歩いたら忘れるような顔をした、THE・平均男子だったのだ。
逆に目立ちそうな平均っぷりだが、なぜか田中くんに目をとめる者はいない。たまに、彼の忍者のごとき空気の薄さをかいくぐり、お前の平均さってやらせじゃね?などと言う猛者が現れることもあったが、田中くんの日本人特有の困ったような曖昧な笑みを見て彼の平均さの真価を知り、おのずと去って行くのだった。
そう、田中くんの平均さはそんな強メンタルの彼らにすら、負けを認めさせたのだ。田中くんの、え?この人何言ってんの?頭大丈夫?という無言の圧力にも屈さなかったのに、田中くんの平均さには敗北を期したのだ。
まさに最強。まさに無敵。
だが、田中くんには少しだけ人と違うところがある。
田中くんは、勇者だったのだ。
田中くんはかつてこうよばれていた。
そう。
シャブ売りの勇者と。