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4.創作と現実の境界

" ――コン、コン、コン

 小さなノック音が真っ暗な部屋に響く。

 それはカーテンの引かれたベランダ窓の向こう側から、不気味な殺気とともに発せられていた。


 須藤啓二はそれにただ息をひそめて震えることしかできなかった。

 誰かに命を狙われている。その事実だけは直感ですぐに理解した。

 しかし、なぜ自分が? ……その理由は分からない。

 ただ夜中に自室でゲームをしていたら、突然蛍光灯の明かりが消え、月明かりの滲むカーテンに一つの人影が映し出されたのだ。

 他に変わったことといえば、ゲーム内でまさに戦闘中だった化け物が突然画面から姿を消したことくらい……。


 嫌な予感が脳裏を埋め尽くす。

 早く逃げなければ。そう本能で理解して、立ち上がり、前につんのめりながらも何とか出入口の扉に手をかけた。

 そして取っ手を回して、異変に気がつく。


 開かない。

 鍵をかけた覚えはないのに、扉がびくともしてくれない。

 すでに焦りと恐怖は頂点に達していた。ガチャリガチャリガチャリとドアノブが空回りするたびに、頭は混乱し、足は震え、心臓の音もうるさくなった。

 それでもわずかな希望にすがって扉を押し続けていた、そのとき、


 ――カチャリ


 という開錠の音が聞こえた。

 でもそれは、目の前のドアからじゃない。

 背後のベランダ窓からだ。


 心臓がキュッと縮まる感覚。全身が異様に震えだし、自分の呼吸音だけが静かな空間に取り残される。

 

 錯覚だ。これは錯覚だ。プレイ中のゲームがたまたまホラーゲーだったからその世界観に飲み込まれているだけだ……っ!

 そう自分に言い聞かせて、啓二は後ろを、おそるおそる振り向いた。


 …………誰もいない。

 見えるのはいつもの自室だった。放り投げたゲーム機器は散らかしっぱなしで、ベッドは布団がぐちゃぐちゃのまま。勉強机も埃が被って使われた形跡がない。


 ……やはり錯覚だったのだろうか。

 ほっと息をつく。我ながらなんて小心者だろうか。思わず自嘲の笑みさえこぼれてくる。

 が、目の前でカーテンがふわりと靡き、その笑いが凍りついた。


 窓が開いていたのだ。

 それはこの部屋に何者かが侵入したことを如実に表していて。


 そのとき、突然背筋に粟立つような怖気が奔った。

 即座に背後を振り向く。その瞬間、啓二は目に映る一つの人影に名状しがたい恐怖を感じ取った。


 月明かりに照らされ、暗闇にぼんやりと浮かび上がったそれは漆黒のフードマントを被っていた。しかし見た目は人の型なのに、何故だか人間味が感じられない。まるで醜悪な異生物が人間に成りすましているかのような様相。

 そのフードの奥から紅く光る双眸がこちらを覗きこむ。


 一瞬だけ覗いた冒涜的ともいえる異形な顔つきに、啓二はハッとする。

 先程プレイしていたゲーム。

 あれはクトゥルフ神話をモチーフにしたホラーゲームだった。

 しかもその画面からはとある化け物が消息を絶った。

 なら目の前にいるこいつは、まさか……


 と、そこまで考えたとき、フードの男がゆらりと動き出した。

 ゆっくり、ゆっくりと。まるで獲物を追いつめ狩りを楽しむように、部屋の中を一歩一歩進む。

 その姿はまさに、這い寄る混沌。そんな形容に値する禍々しさがあった。

 腰を抜かしてしまった啓二はその場でへたり込み、動けなくなる。そしてそんな好機を化け物は見逃さない。獣のようなよだれを滴らせて啓二に覆いかぶさると、ぬらりと腕を伸ばし、喉元を掴んでにんまりと笑みを――"



"「いやぁぁああああやめてぇぇええええもうムリたすけてぇぇええええっ!」"



「あっははははは、あはははははははははははは!」


 あたしは思わず笑い声をあげた。お兄ちゃんが泣きべそ掻いているかと思うと、あまりにもおかしくって。つい笑い転げて涙まで零れてくる。


 だって見てよこの無様な悲鳴! これが妹にセクハラ働いた最低変態クズ兄貴の末路ですよ! ホント「ざまあみろ!」って感じ。普段迷惑かけられている人物にいたずらを仕掛けるのって、どうしてこんなに楽しいんだろう。


"「ちょっとお兄ちゃんビビり過ぎwww 豆腐メンタルにも程があるでしょwwwww」"

"「わ、笑うんじゃねぇ! こっちとらマジで死ぬかと思ったんだぞ!」"


 おっといけない。いつもの癖で台詞がネットの書き込みみたいになっちゃった。

 というか向こうの世界でも「w」ってちゃんと笑い声で変換されるんだ。これも製作者の遊び心なのかな? つくづく不思議なソフトだなぁ。

 

"「あ、ちなみにフードマントの正体はニャルラトホテプと見せかけて実は屍食鬼(グール)だから。よかったねお兄ちゃん、ニャル様だったら今頃狂気のあまりに廃人にされてたよ」"

"「屍食鬼だったらこのあと殺された挙句死体をムシャムシャ食われるんですが!? ってどう転んでも救いがなさすぎるだろおい!」"


 せっかく譲歩してあげたというのに、お兄ちゃんには邪神も神話生物も大差なかったようだ。普通は神と生き物じゃ前者の方がはるかに恐ろしいと思うけど、実際に会ったらこんなもんなのだろうか。体験したことないからよく分からないけど。


"「まあどのみち素人のあたしの文章なんかでも怖がれるってある意味才能だよ。ホントお兄ちゃんってホラー苦手だよね」"


 もちろんあたしはプロの作家さんじゃないし、正直文章もかなり稚拙だと思う。クトゥルフ要素だって所詮はネット検索で得たうわべだけの知識に過ぎない。決して万人受けするような作品にもなっていないだろう。

 まあそれでもお兄ちゃんを懲らしめるという当初の目的は果たせたわけだし、あたしとしては十分満足なんだけどね。


"「そりゃ目の前に本物の化け物が現れりゃ誰だってビビるに決まってんだろ。文章のうまい下手なんて関係ねえよ」"

"「またまた開き直っちゃって~。あの絶叫は誰でも出せるもんじゃあないよ~?」"

"「ぐっ……! え、ええぃ止めだ止めだ! 時間も遅いだろうし、今日のところはもう切り上げようぜ! ……なんかもう疲れたし」"

"「え、もう? 時間ならまだそんなに経ってない思うけど」"


 と、何気なく画面右端のデジタル時計を確認して、あたしはギョッとした。

 表示されている時刻はAM1:55。すでに翌日に響くレベルの夜更かしだ。


"「うわヤバッ! あと5分で2時だって!」"

"「げっ、マジかよ!? いつの間に!?」"

"「ごめん、多分プロット練ってる時間が予想外に長かったのかも……。あ、でも今の時間帯ならホラー小説にはうってつけだし、もうちょっと続きを……」"

"「ちょ、勘弁してくれよ……。あんな化け物はもうこりごりだって……」"

"「あはは、冗談だよ。ちょっと待ってて」"


 あたしは一旦会話を切り上げると、このソフトと一緒にダウンロードした取扱説明ファイルを開き、それを下へとスクロールさせた。


 えーと、使用者の魂を呼び戻すには……「メニュー」タブを開いて「魂の呼び戻し(Ctrl+E+X)」を選択、か。ショートカットキーまで用意するなんて、相変わらずこの制作者、芸が細かいというか何というか。こんな気配りができるならもっと色々改良すべき点があるだろうに。サイトのデザインとかさ。


 まあともかく、これでいつでもお兄ちゃんを呼び戻せるようになったわけだけど。


「最後にお詫びくらい、してあげようかな」


 このままお開きにしてもいいのだけれど、せっかくだしお兄ちゃんにも気分よく終了して欲しい。なんたって彼にとってこのアプリは子供の頃の夢そのものなのだ。それをあたしの悪ふざけに使ってしまったのだから……せめて罪滅ぼしはしておかないとね。


 とはいえ、今から本格的なストーリーを組み立てる時間はないし、そのつもりもない。でもオタク気質なお兄ちゃんのことだから、可愛い女の子とお話しするだけでも結構喜んでくれるんじゃないかな。シスコンだからあたし自身を描いて普段できないこと、例えば後ろから抱きついて反応を見るのも面白いかもしれない。

 そんなわけで、軽い気持ちでキーボードに手を置いたあたしは、


「……あれ?」


 直後に感じた違和感に手を止めてしまった。

 そして代わりに、質問を投げかける。


"「そういえばお兄ちゃん、さっきから随分と冷静だね。もしかして化け物にもちょっと慣れた?」"

"「あんなおぞましい生物に慣れるわけねえだろうが。……ん? というか彩香、おまえ物語の続き書いたんじゃねえの?」"

"「へ? どういうこと?」"


 あれ以来あたしはずっと会話文しか書いていなかったから、今でも例の化け物はお兄ちゃんの目の前でニヤニヤ笑い続けているはずだけど。



"「いやだって、あの化け物ならこっちの世界からとっくに消えてるぜ? てっきりそういう描写をしたのかと思ったんだが」"



「……え?」

 いない? どういうこと? あたしは特に何も書いてはいないのに。


 


 とそのとき、ふいにあたしの頭上から、ジジジッという電流が火花を散らすような音が聞こえた。

 その直後、急にプチンと、まるで何者かの意志が働いたかのようなタイミングで、蛍光灯がその寿命を終えた。


 辺りが静寂と暗闇に支配される。

 唯一の光源は、パソコン画面からの青白い光だけ。

 ……なぜだろう。理由は分からない。でもどうしようもない不安が全身を駆け巡る。

 息をするのも、文字を打つことも、喋ることも忘れてしまう程に。

 そして、



 ――コン、コン、コン


 小さなノック音が真っ暗な部屋に響いた。

 それはカーテンの引かれたベランダ窓の向こう側から、不気味な殺気とともに発せられていた。


 ……嫌な予感が脳裏を埋め尽くす。

 あたしはそっと腰を上げると、素早く後ずさり、部屋の扉に手をかけた。

 ……まさか。そんなはずない。

 頭の中に否定の言葉を並べながら、取っ手を持つ手に力を入れた。その瞬間、ぞくり、と全身の毛穴という毛穴が粟立った。


 開かない。

 鍵をかけた覚えはないのに、扉がびくともしてくれない。

 何度取っ手を捻っても、体当たりしても、同じだ。

 完全に閉じ込められている。


「……うそ……でしょ……っ」


 それはまるで、自分で書いた小説の中に迷い込んでしまったような錯覚だった。

 いや……錯覚、なのだろうか。

 あたし自身はアプリを使っていない。だからここは現実のはずだ。

 でも頭の奥底に、その事実を否定する自分がいる。


 だとしたら、ここは一体どこなの?


 小説の世界と現実の世界。その境界があたしの中で曖昧になってくる。

 ここがどちらの世界なのか、考えれば考えるほど、よく分からなく……


 と、そのとき、


 ――カチャリ


 という開錠の音が聞こえた。

 でもそれは、目の前のドアからじゃない。

 背後のベランダ窓からだ。


 思わず振り向くと同時、夜のひんやりした風が髪を撫でた。

 窓もカーテンも開けられている。部屋全体が月明かりで怪しく照らされていた。

 なのに侵入者らしき人影は見当たらない。


 つまり、もうすでに部屋の中にいるかもしれない。


 あたしは即座に周囲を見回した。

 誰もいない。でもかまわず何度も、何度も、取り憑かれたように背後を確認する。


 知らないうちに、あたしの目からは涙がこぼれていた。

 背後、右、左、頭上、足元、首元。あらゆる方向から殺人鬼が襲い掛かってきそうで。

 見えない恐怖に抱かれているようで。

 ……一人ぼっちが怖かった。


「たすけて……お兄ちゃん……っ!」


 情けない声を漏らしながら、気がつけばあたしは寝転がるお兄ちゃんの身体にすがりついていた。


 ……あたしって、なんて自分勝手な妹なんだろう。

 さっきまであんなにからかってたくせに……。


 頭の中で何度も自分を責めつける。だけど助けを乞うことは止められなかった。

 心の支えが欲しかったから。


 もちろん返事はない。まだ彼の魂は抜けたままだから。

 でもそれさえ呼び戻せば、またいつもの日常が戻ってくる気がして。

 今のあたしにとって、それが唯一の希望だった。


 左手はお兄ちゃんの手を握りつつ、右手でテーブル上のマウスを手繰り寄せる。両手にギュッと力を込め、カーソルを「メニュー」タグに移動。左クリックで膨大な選択肢を出現させる。その中から全力で「魂の呼び戻し」の文字を探した。

 なのに、


「……どこ? どこにあるの!? ねえっ!?」

 全然見つからない。

「ホーム」「挿入」「レイアウト」「校閲」。無関係なタブまですべてクリックして開く。

 そのどこにも、それらしい項目すら出てこなかった。


 ただの見落としか、あるいは一種のバグか。それすらも分からない。でも結果は同じ。時間だけが残酷に過ぎていった。視界は涙でゆがみ、頭もパニックで堂々巡り。そのたび探すのが一層困難になる。完全に悪循環だった。


 

 そして、

 終止符は突然に打たれる。



「――っ!?」

 突如背筋に粟立つような怖気が奔った。


 振り向いてはいけない。

 心の警告アラートがけたたましく鳴り響いていた。


 でも、あたしは反射的に、

 振り向いてしまった。


 その瞬間、視界いっぱいに醜悪な顔が広がった。


 あたしの小説通りフードマントを被ったそいつは、すぐ真後ろまで接近していたのだ。

 その顔面はハイエナの牙を持つゾンビのようで、ネットで見た屍食鬼という化け物そのものだった。

 フードの内側からこちらを覗きこむ屍食鬼は大きく裂けた口をあたしの顔にぐいっと寄せてきた。そして無数の牙の隙間から生臭い吐息がこぼれ、あたしの首筋を撫でる。


 全身がぞわりと総毛立った。筋肉も硬直し、コンクリートのように動けなくなる。

 このまま喉元を噛みつかれたのなら、ある意味どれだけ楽だっただろうか。

 でも屍食鬼は一思いに食いつくことはせず、あたしを押し倒すと馬乗りになり、ゴツゴツした手で首をじっくりと締めていった。まるで快楽殺人鬼がその殺害過程すらも楽しむかのように。

「……が……ぁ……っ!」

 もちろん抵抗はした。でも相手の握力が強すぎる。とても敵うような相手とは思えなかった。


 これは全部、あたしのせいだ。

 そんな考えが頭をよぎる。

 ひょっとしたら例のサイトや《ノベルズケージ》というアプリ自体、神話生物を召喚するための悪魔の罠だったのかもしれない。

 でも、そもそもあたしがイタズラなんかに使わなければ。お兄ちゃんの要望通り、楽しい物語を書いていれば。こんな化け物は生み出されなかったのではないか。

 だとしたら……なんという自業自得だろうか。


 段々と呼吸も先細り、頭に血が溜まって破裂しそうになる。もがけばもがくほど苦しみが増して、一歩一歩、地獄へと(いざな)われているような気分だった。

 それでも屍食鬼の手が緩まることはない。


 深淵から覗く紅い双眸。牙から滴るよだれ。愉悦をたたえた唸り声。

 気が狂いそうだった。

 せめてこの悍ましい物々を視界に入れたくない。逃げるようにして視線を右に逸らした。


 その先には、眠るように横たわるお兄ちゃんの姿があった。

 魂を抜かれて、ピクリとも動かないお兄ちゃんの身体。

 それはまるでこのアプリ使用者の成れの果てを表しているようで。


 そのときあたしは死を身近に感じた。

 あたしももうじき、こんな姿になってしまうのかな……?

 そして自分で生み出した醜き化け物にゆっくりと飲み込まれ、この世から消える。

 それが、お兄ちゃんの夢を踏みにじって、痛めつけて、愉悦に浸ったことで神様から下された天罰なのだとしたら。


 あたしにはそれを受け入れる選択肢しか許されないのかな、って。

 自然と、思えてしまって。


 あたしは生きることを、

 諦めてしまった。









 ……。

 …………でも、

 お兄ちゃんは違うじゃん!


 あたしのくだらないイタズラで一生この世界に戻れないなんて、そんなの絶対ダメ。ここで殺されるなら、せめてお兄ちゃんだけでも呼び戻さないと。だってお兄ちゃんがパソコンに閉じ込められているだなんて、あたし以外は知らないのだから。


 左手を喉の隙間に捻じ込み、ギリギリ気道を確保したまま右手をテーブルへと忍ばせる。化け物に隠れて画面が見えないからもうマウス操作はできない。でもまだ可能性は一つ残されている。



「魂の呼び戻し」コマンドのショートカットキー。

「Ctrl」と「E」と「X」キーを同時に押せば、お兄ちゃんは帰ってくるはずだ。



 体勢をねじり、指先をできるだけ前へ、前へ。もうちょっと。あとちょっとでキーボードに手が届く。

 そのとき、あたしの不審な動きに気がついたのか、首を絞める化け物の手に一層力が込められた。

 たったそれだけで、あたしの喉はあっさり潰れ、呼吸も、悲鳴を上げることもできなくなってしまう。

 いくらもがいても、もう相手の力が弱まることはない。

 徐々に視界が掠れていき、意識も遠のいていく。苦しいという感覚すら消えてしまう。


 そんな死の縁まで追い詰められたとき。

 残った指先の感覚が、かすかな希望を感じ取った。

 最期の悪あがきの反動で、右手がキーボードに届いたのだ。


 あたしはブラインドタッチで培った感覚を頼りに「Ctrl」キーと「X」キーに指を押し当てた。

 でも……それが精一杯だった。

「E」キーにどうしても届かない。

 キーボードのボタン一段分。およそ2cm。

 その指関節一個分にも満たない距離が、とてつもなく遠かった。


 そこで五感すべての機能が消失する。

 多分、脳へと続く大事な血管を潰されたのだろう。

 薄れゆく意識の中で、あたしは絶望的なシナリオを想像した。



 もうじきあたしとお兄ちゃんの身体は屍食鬼の餌食となる。つまりお兄ちゃんは帰る方法も場所も失うのだ。

 それはあたしのように、ただ死ぬだけとは訳が違う。

 言うなれば植物状態と同じ。

 ……いや、それよりも残酷だ。

 だって、




 永遠に死ぬこともできず、意識だけが何もない閉鎖空間――《小説の檻(ノベルズケージ)》の中に閉じ込められたままになるのだから。






 ……ごめんね、お兄ちゃん。

 いじわるばかりして、現実世界にも帰せなくて。

 ……兄不孝な妹で、ごめん……ね。




 いくら悔恨で涙を流しても、現実が変わることはなく。

 あたしの右腕は、意識とともに、キーボードの上から力なく落ちた。


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