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前編

北極星は動かない。


GPSが発明される前、この動かない星は航海をする上でとても重要な役割をになっていたのだという。ほう、なるほど。昔の人は頭がいいな。と、ちょっと前までのわたしは自分の思い込みに気付かないでいた。それで好きな星は何かと聞かれたときには、運動し続ける宇宙でたった一つ動かないからという理由で北極星をあげていたのだ。


「北極星は地球の自転軸の延長線上にあるから、地球からは動かないように見えるだけなんだよ」


そう教えてくれたのはセイヤだった。


北極星のよく見える夜には無性にアール・グレイが飲みたくなる。



セイヤは星のとりこだった。


本当は漢字で名前を書くときには誠矢という文字を使うのだが、本人はよく星夜という字を当てていたし、自己紹介をするときなどは決まって「夜空の星で星夜っていいます」と悪びれもせずに言っていた。問題が無さそうだという自己判断がつけば、どんなときでも星夜という字を使うものだから実際には問題になることもあった。それでもセイヤは我を曲げずに自分が付け直した名前を使い続けた。


だからわたしも彼の意思を尊重して、名前を書く機会にはセイヤとカタカナで記すことにしている。星夜と書かなければセイヤには怒られてしまうかもしれないけれど、わたしにとってセイヤは夜空の星であるのと同時に「矢のように誠実な人間」でもあった。


とにかく、彼はもういない。どんなに愛しく思おうとも、もう二度とこの腕で抱きしめることはできないのだった。そりゃあもう寂しくて堪らない。だからわたしは夜空に彼の星を探すのだ。



北極星ーーポラリスはセイヤの所有物である。こんなことを言うと馬鹿にされるかもしれないけれど、嘘だと思うのなら一度ポラリスへ行ってみると良い。そこには彼の到着した痕跡が確かに残されているのだから。


セイヤの話によれば、ポラリスとわたしたちが呼んでいる北極星は、三つの星の集合体なのだそうだ。私たちの目でも捕えることのできるポラリスAは太陽と同じく自ら照りかがやく恒星であるため、セイヤは着陸をなくなく諦めたらしい。代わりにポラリスBへ着陸したのだそうだ。


ポラリスBは太陽系で言うと火星のように気温の低い星であったという。しかし寒いからといって北海道みたいに雪が降ることもないし、マスクに霜がつくこともないそうだ。セイヤ曰く。なかなか快適であったという。


アメリカが月面に星条旗を立ててきたのに倣って、到達記念にとセイヤはポラリスBに自ら作った旗をさしてきたらしい。その旗のデザインというのはわたしの似顔絵だった。一度、その製作現場を目にしたことがあるけれど、その目隠しして作った福笑いのおたふくのような顔をさして、わたしのことだと言われたとき、衝撃を受けて怒りたくもなった。


セイヤは悪びれもなく、「よく似ているだろう」と自慢げに笑っていた。

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