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デッドゾーン

作者: 神名代洸

そこは誰も足を踏み入れない場所だ。

そしてとても恐ろしい場所。


その場所とは…。



住宅密集地にある空き家。

朽ち果てた建物は古く、雑草も生えていた。

何故そうなってしまったのか…それはもう60年前になるだろう…。

その家で凄惨な殺人事件があったのだ。

亡くなったのはその家に住む若夫婦と一人娘の三人。首を切られ腹を刺されて失血死しているのを犬を連れた近所の住人が見つけたのだ。犯人は未だに服役中。

その後、その家には人が入らなくなり今に至る。そこで遊んだ子供が行方不明になったこともあったとかなかったとか。

よどんだ空気が立ち込め近所の人でさえも近寄ることはなかった。

そんなある日、そんなことに何も興味がなくただ単に肝試しができるということで小学生の子供達がその場を訪れた。

木々に覆われ昼間でも薄暗いその場所は肝試しにはもってこいだった。

「なぁ、行こうぜ。本当かどうか試して来なきゃな。」「えー?行くの?ホントに。」「本当ホント。一人づつ行くんだぜ。で、そこにある何かを持ってくるだけだって。」「それってあんまりよくないんじゃないの?」「大丈夫だって。終わったらすぐに返せばいいんだし。」「そうそう。だから行こうぜ。」

「う、うん。」

僕はこの中では一番の怖がりだ。

みんなは幽霊なんて信じちゃいない。

僕は前に死んだばあちゃんが亡くなるその日に枕元に立っていたので信じているのだ。

だからはっきり言って怖い。みんなに言ったって信じてもらえない。そう思い、がっくりと肩を落としてトボトボと歩いて行った。

順番としてはちょうど真ん中、五人中の三番になる。前後に誰かいるというだけでちょっと安心する。

でも、実際は一人で歩いていかなくてはならない。一本道なので折り返してきたら誰かとすれ違うかもしれない。あわよくばそんな期待を胸に歩いて行った。でも実際はどうだ。

昼間なのに木々に光が遮られ薄暗い。

まるで夕方のような錯覚に襲われる。

それにさっきから誰かに見られている気がする。

誰ともすれ違わないのも恐怖を増長していた。

「おっかしーな?そろそろ誰かとすれ違ってもおかしくないんだけどな〜?」そう、確かにそれはおかしい。それほどの距離ではないはずなのに、誰とも全くすれ違わないのだ。仕方がないので後続を待ってみた。

でも一向に来る気配がない。怖くなってきた僕は走って元来た道を戻り出した。

怖い怖い怖い。

必死に走り戻ってみると誰もいなかった。

もしかして僕を置いて帰ったとか?まさか…空き家で待ってるなんてことはないよね。だって誰ともすれ違わなかったのだから。

でも、なら一体どこへ行ってしまったのか…。どれだけ待っても帰ってこなかったので僕は怖くなって帰ってきてしまった。

その日の夜、僕は家族にその話をした。もちろんこってりと絞られたが。

電話があって友達が四人行方不明になっているということを聞かされ、僕は怖くなってお巡りさんにその事を伝えた。もちろん両親に連れられてだが。

警察官は優しく聞いてくれたので怯えずに全てを話すことができた。

すぐに例の空き家へ警察官が派遣された。

するとバラバラに散らばった四人の姿があった。死んではいない。

ただ意識がないだけだ。

そう伝えられると僕は心底ホッとした。

何もなかったんだ…と。

目が覚めた四人も大人達にこってりと絞られていたっけ。その後その事を言うのはタブーとなりその場に行くこともなくなった。



それから20年の歳月が流れ、僕たちはまた集まった。五人が揃うのは久しぶりだったので、話しが盛り上がった。で、あの空き家の話になった。

「なぁ、そろそろいいんじゃね?行ってみないか?」「えー!また行くのかよ。あん時こってりしぼられたの忘れたのか?」「忘れちゃいないけどさ〜、こうも噂が絶えないのは俺らのせいかもよ。」

などと簡単に言ってくれる。

あの時ほど怖い思いをしたことはなかった。だが、四人は反省はしていてもやっぱり興味があるようだ。

いい大人が揃いも揃って肝試しとは…。

僕はもう何も言えなかった。今度は自己責任となる。何かあっても何も言えない。

それでも四人は行こうとしていた。僕は仕方なくついて行くことに…。


あの頃と変わらず、いやそれ以上に雑草が生えていた。コンクリートも割れ、土足で誰かが入った跡があった。

ひやりとした冷たい感触があった。

壁が剥がれ落ちている。

やはり昼間だというのに暗さは変わらない。

あの時と同じだった。

五人は部屋の周りを見て回ったが特に変わったことや物はなかった。

この空き家は売りに出されていた。

看板が立っていたからだ。


【売り家】と。


「こんなとこ買いたいやついるのかよ。」「まずいないと思うけどな〜。こんな怖いところ。知ってたら誰も買わないって。」「だよなぁ〜。」

などと友達は皆あっけらかんと話している。怖くないのだろうか。昔のことを思い出し、僕はブルッと震えた。

「あっ、こいつ震えてやんの。」「震えてなんか…ないさ。」「へぇ〜じゃあ、お前一番に行けよな。」「はぁ〜?行くって?今から?」

今は昼を回ったところ。

まだ日も出ていて明るいはず。

怖さも半減されるだろうと渋々ながら歩き出した。

後ろを振り向くと男性陣は皆腕を組んだりしていた。女性陣は皆で手を握っている。

僕は仕方がないのでそのまま歩いて行った。


建物内は今にも崩れ落ちそうなほど荒れていた。壁もはがれ、床は砂だらけ。

明らかに誰かがここに来たという証拠である。この家は二階もあるので二階へと上がっていく。階段はボロボロになっており、いつ抜け落ちるかわからない有様だった。

「ここまで来ないといけないのかよ。ったくあいつらは何が楽しいんだか。」

急に生暖かい風が吹いてきた。二階の窓の方からである。窓は開けてないから風は入らないはずと思ったが、見てこないとあいつらに何言われるかわからない。仕方がないので風が吹く方へと歩いていく。そこは一番真っ暗で何も見えなかった。

壁上からは髪の毛がユックリと降りてきていた。僕はまだ気づいていなかった。周りを見ても何もないので二階から降りた。その時ピシッ、パシッと音がなった。これがもしかして有名なラップ音なのかと考えただけで震えが止まらない。じゃあ、さっき見た謎の黒い塊は一体…。

僕は怖くてその場から逃げ出して友達のいる場所へと急いだ。

だが妙なことに誰一人としていない。

まさかまた何かあったのかと思ったが、荷物は置かれたままだ。ちょっとふらりと出た感じだった。

「おーい!どこに隠れてるんだよ!出てこいよ!」

でも出てこない。

建物の周りは隠れる場所もない。

なので近くにはいないのだろう。そう思えた。

周りを見てもどこにも誰もいない。

僕は一人。

怖い。

怖い怖い怖い。

みんなの荷物を持ってその場から僕は逃げた。みんなは一体どこに行ってしまったのか…。謎だった。


必死に逃げたがその黒い塊からは逃げられなかった。追いかけてくるのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」

息が切れるほど走った。

後ろを振り向いた。その時目に入ってきたのは長い髪だった。

「うわーっ。」


恐怖が止まらない。

逃げ続けた。

そして片手を木にそえて息を整えていた。

「はぁ、はぁ、はぁ。」


その時トントンと肩を叩かれた。

「うわーっ。」と叫んだが、相手がいなくなった友人たちだったのでホッとした。

「何だよ。おどかすなよ。」

「お前こそおどかすなよ。俺たちの荷物がなくなってたから何かあったと思ったじゃないか。

そこで、あった出来事を話して聞かせた。友人達は驚き固まった。

「もうやめようぜ。」「ああ、そうだな。」


それ以降そこには近づかなくなった。噂はどうだかわからないが、まだ建っているらしい。

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