第五話 栞と留守番電話
今回は前半、鬼庭亮君視点です。
いつもお読みいただきありがとうございますm(_ _)m
唐突だが、俺、鬼庭亮は地下牢にいる。
つい先日、ここに叩き込まれた。
一日もひんやりした鉄格子に囲まれた石床の上にいれば、やっぱり、忠洋の言うように俺達は異世界に来たんだなと自覚せざるを得ない。
しかも人間辞めて。
今、俺の頭には二本の小さい角が生えている。
それに手元にはでかい金棒がある。
釘バットを太くした上に全体を鉛にしたような凶悪なフォルムの。
どうやら俺は『鬼』となったらしい。
と言っても、筋骨隆々になったわけでもないし、肌が赤かったり青かったりもしないが。
この世界には昨日遊んだ帰りに飛ばされた。
忠洋と二人でゲーセンに行き、両替機の『百円五枚』を押した瞬間―偉そうな女の前に俺達は立っていた。
俺は混乱のあまり年甲斐もなく、家に帰せだとか叫んでしまったが
偉そうな女と忠洋の異世界だなんだという説得でどうにか落ち着きを取り戻し―忠洋の姿を見てまた叫んだ。
忠洋の背中に黒い翼が生えていたのだ。それに、ゲーセンに行ったときは明らかに持っていなかった黒い剣。
明らかに人でないその姿。
俺は大いに混乱した。
そして頭を抱え―掌に角が突き刺さって追加で叫んだ。
そのあと自分が鬼となったことを信じられず、叫びまくった挙げ句に偉そうな女の胸ぐらを掴み、『いつの間にか持っていた』金棒を振り上げたところで俺の意識は途切れている。
まだ少し喉が痛い。
普段は叫び声を上げたりしないからな……。
あと気になることと言えば、兵士の態度だろうか。
地下牢にいる俺は囚人扱いかと思いきや、なんだかやたら憐憫の目を向けられる。
一日二回の食事も心なし豪華だ。
考えるに、兵達はそこまで忠誠心に溢れているわけではない。よって、あの偉そうな女は暴君かそれに準ずる堕種なんだろう。
……そもそも、人間二人を何らかの方法で鬼とかに変えて拉致ってる時点で暴君か。
偉そうだとはいえ女に掴みかかったことを悪いと思っている。
別に女に手を上げない主義を貫いているわけではないが、まあ少し罪悪感は拭えない。
しかし、これから俺はどうすべきなんだろうか。
忠洋を探すにせよなんにせよここから出ないことには始まらない。
俺は数分考えたあと、おもむろに立ち上がり、
金棒を鉄格子に叩きつけた。
激しく歪む鉄格子。
しかし、俺の想像に反して明らかに鉄格子を殴った音ではない激しい爆発音が響き渡った。
「鬼庭ぁーーっ!」
俺は耳を疑った。
だって、聞こえた声はここにいないはずの青葉のものだったから。
☆
僕は地図を頼りに裏路地に来ていた。
極力見つからないように建物の陰を全力で走る。
目的地はすぐにわかった。その裏路地には大量の精霊がおり、僕の目には裏路地が輝いて見えていたからだ。
精霊は偶然でいるのではなく、何らかの魔術を行使しているようだ。精霊が集まって結界を築いている。
「(かなり古いな……そもそも何でこんなに精霊が?)」
誰かが気づいてもおかしくない数だ。
僕は疑いつつ、精霊の隙間を縫って結界に入った。
目的の本はすぐに見つかった。
場違いに咲いている桜のような木の根元、一冊の本がある。
群青色の美しい本。
本の周りには砕けた銀の鎖が散らばっていた。
本に触れようとすると、一瞬静電気のようにパチッと音がしたが、すんなりと持ち上げられた。
「裏表紙は見ちゃいけないんだったかな……お、栞か?」
本のページ半ばほどに栞が挟まっている。僕はそこに指を指し入れ、本を開いた。
「……………え?」
本の文章は全く読めない文字で書かれていたが、一つだけ読めた文字があった。
それは本ではなく栞に書かれた一言だった。
『お呼びの際は、ピーという音に続けて、お名前とご用件をお話ください』
「ふざけてんのかコラあぁぁっ!」
絶対にこいつ日本人だ!
100%完璧に疑う余地もねえ!
留守番電話なのかこれは!
友人がピンチというシリアスを返せ!
「くっそ………」
怒りに任せて裏面を見ると、目隠しに手枷足枷を付けた少女の絵が書いてあった。
これに向かって話せと言うことか。
僕がそう思うと、狙ったかのように『ピー』とお馴染みの音が脳内に響く。どういう構造してるんだよ。
「やってやろうじゃないか……僕は青葉佑哉、用件は暴君女王から友人を取り戻して元の世界に帰りたい。そのためにあなたの力が欲しい」
そう言うと、栞の少女が動いた。
手を口に当てて、笑ったのだ。そして脳内に声が響いた。
『自由が欲しいの?』
「簡単に言えば」
即答する。本当は今すぐにでも友人の元に駆けつけたい。
『いつから日本人はエルフになったの?』
この人、目隠ししてるのにわかるのか。え?日本人だってことに驚け?いやいや、あの留守番電話伝言サービス聞いたら疑わないよ。
「人体実験だ。おそらくだけど」
『そう……いいわ、権力でなく自由のためなら力をあげる。この本の知識はあなたの物よ』
「ありがとう。あなたは栞から出られるのか?」
『出られるけど、今は止めとくわ。歩けないし。……さて、手っ取り早く知識をあなたに叩き込むわ』
「え?ちょ、うわああああっ!」
栞の少女が微笑んだ瞬間、本から恐ろしい量の知識が雪崩れ込んできた。
気を失わなかったのが奇跡のようだ。
『ちゃんと気絶しないように量は調節したわ……さ、早くしなさいよ』
どことなく嬉しそうな栞の少女に急かされ、僕は城に駆け出した。
もしかしなくとも星河さんです。
500歳なわけじゃないですよ。
枷は封印魔法の証みたいな物だとお考えください。
鬼庭君はこんな叫びまくっててカッコ悪いですけど、いつもはクールヤンキー(?)的な感じだと作者は信じています。






