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ヘンゼルとグレーテルwith森の魔法使い

 学校に提出した課題です。ヘンゼルとグレーテル、そして森に住む魔法使いの話。



 森の中で道に迷ってしまった、可哀想な兄妹の話をしよう。

 兄はヘンゼル。しっかり者の男の子だ。妹はグレーテル。人なつっこい女の子だ。二人は森ですっかり迷子になっていて、そしてそれが、両親の(特に継母の)策略だということを知っていた。

 辺りはすっかり暗くなっている。

「お腹が空いたね、お兄ちゃん」

 ひどく困ったようにグレーテルは言った。この妹は、空腹のために恐怖など感じないようである。ヘンゼルは違った。怖くて仕方なかった。だけれど兄として、平気なふりをしていなければならなかった。

「大丈夫さ、もうすぐ誰かの家がある。ほら、灯りが見えてきたようだよ」

 それはただの気休めだったが、グレーテルが「ほんとだ」とつぶやいたのでヘンゼルは顔を上げた。遠くにだが、あたたかい灯りがぼやけて見える。

「灯りだ!」と叫んでヘンゼルは走り出した。グレーテルもついてくる。

 驚いたことに、それはお菓子でできた家だった。甘い匂いが二人を誘う。ヘンゼルが悩みながらカステラでできたレンガに手を伸ばした時には、もうグレーテルは手をベタベタにさせながら「おいしい」と笑っていた。

 不意に、ドアがガチャリと開く。逃げる暇なんてなく、ヘンゼルは中から顔を出した家主と目を合わせてしまった。

「あっ」「あっ」と言い合って、その人物とヘンゼルは黙り込む。

 どうしよう、とヘンゼルは思った。今まで父にも母にも『人の家のレンガを食べてはいけませんよ』と言われたことはなかったが、恐らく褒められるようなことではないだろうとヘンゼルは思う。

 そこで、口を開いたのはグレーテルだ。

「おじちゃんのおうち、すごいね。とってもおいしいおかしだね」

 すると男はにっこり笑って、ヘンゼルとグレーテルを家の中に招いたのだった。

 目の前でポットが勝手に動いてティーカップに紅茶を注ぐのを、ヘンゼルとグレーテルは目を丸くして見ていた。

「おじちゃんは魔法使いなの?」とグレーテルが尋ねる。

「魔法使いのお兄さん、略して魔法使いさんと呼んでくれ」

 魔法使いはそんな風に言う。『魔法使いのおじさん』も略して『魔法使いさん』だということは決して口に出さずに、二人はうなづいた。

「さて、君たちは一体どうしてこんなところに来ちゃったのかな」

 ヘンゼルとグレーテルは顔を見合わせたが、魔法使いがそれなりに優しそうだったので全部まるきり話してしまうことにした。ひと通り話を聞いた魔法使いは、ひどく深刻な顔をして口を開く。

「大変だったねぇ。もしよければ、魔法使いさんが君たちのお父さんお母さんをこらしめに行ってあげようか」

 ヘンゼルは驚いて、「そんなことできるの?」と聞いた。

「できるとも! 魔法使いさんはすごーい魔法使いさんだからね」

 言いながら魔法使いは指を鳴らす。いきなり手のひらくらいの小さな花火が何発も上がって、ポンポンと音を立てた。

 ヘンゼルは考える。考えて、やっぱり首を横に振った。

「そんなことしなくていいよ」

「どうして」

「大人なのにそんなこともわからないの?」

 そりゃあヘンゼルにも上手くは言えないけれど、そんなことをしたってヘンゼルたちが幸せな気持ちになれっこないということだけはわかった。

「そんなことしたら、ぼくたちも悪いやつになっちゃうじゃないか」

 なるほど、と魔法使いは目を伏せた。

「魔法使いさんって欲望に忠実だから、そこらへんは理解してなかったよ。ごめんね」

 わかったならいいんだよ、とヘンゼルは言ってやる。それから魔法使いは自分に膝を叩いた。

「とりあえず君たちの夕飯でも買いにいこうか」

 えっ、とヘンゼルは辺りを見渡す。

「だってあんなにお菓子があるのに」

 すると、魔法使いが大きく口を開いて笑い始めた。

「あれは君たちの夢だよ。欲しい物が見えるようになっているのさ。食べてもお腹いっぱいにはならないだろうね」

 驚いたグレーテルが自分のお腹をなでると、確かに「ぐう」と鳴る。

「人によっては、お金だったり女の子の下着だったりが見える人もいるよ。君たちはお菓子が見えたと言ったから、きっと仲良くなれるだろうと思ったんだ」

 そう上機嫌に言ったあとで、彼は「家に入れる前にいい人か悪い人かわからないと、結局傷つけたり傷つけられたりするからね」とつけたす。それから「早く早く」と言ってヘンゼルとグレーテルを急かした。

 傷つけたり傷つけられたりしたことがあったのか、悪人だったらどうするのか、どうしてこんな森の奥に住んでいるのか、何一つ聞く暇はなかった。

 魔法使いに急かされてドアを開けると、そこは見慣れた暗い森ではなく、華やかな街だった。

 上手く状況を把握できない二人だったが、段々と胸が熱くなっていって走り出す。二人は、街に出るのが初めてだった。

 振り向くと、あの家はもうない。魔法使いがマイペースについてきているだけだ。

「これもゆめ?」とグレーテルが無邪気にたずねた。魔法使いは答えない。どっちでもいいや、とヘンゼルは思う。グレーテルも同じようで、もう振り向くことなく走っていた。

「さあ、なんでも欲しい物を言ってごらん」

 いつのまにかすぐ後ろまで追いついていた魔法使いが言う。

「じゃあ、あれが」と言いかけた時、突然魔法使いが「しっ」と人差し指を口元に持っていった。何でも言えと言っておきながら、言うなとは何事か。腹を立てながら魔法使いを見ると、ひどく熱心に前方を見ていた。視線の先には、綺麗な女性が歩いている。ヘンゼルの呆れて言った。

「好きなの?」

 魔法使いはびくりと震える。

「好きさ。両想いだとも」

「両想いなら息を潜めて見る必要ないと思う」

「見てろよ」

 どうやら話しかけに行くようだ。ヘンゼルとグレーテルは、その様子を二人で見守ることにした。

「もしもしお嬢さん、お久しぶりですね」と魔法使いが声をかける。それから、天気のことや彼女の今日の服装を褒めたりして、機嫌を取ろうとした。だが、彼女の表情はまるで変わらない。ただ一言、「魔法使いなんて大嫌いよ」とだけ言って去って行ってしまった。

 戻ってきた魔法使いは、なぜだか満足気だ。

「ほら、ね」

「何が『ほらね』なのかぼくにはさっぱり」

「彼女言ってただろ。『魔法使いなんて大嫌いよ。でもあなただけは特別』って」

「ちょっとぼくには聞こえなかったけど」

「口には出していなかったけど言ってたんだ。よく覚えておくといいよ、女の子の言っていることはむしろ、口に出していない部分が一番大切なんだ」

 本人は深く満足しているようだが、ヘンゼルにはどうも、魔法使いがとっくにふられているようにしか見えなかった。

 不意にグレーテルが立ち止まって、ヘンゼルもつられて立ち止まる。ゆっくりと、グレーテルは前の方を指差した。

「おかあさん」

 思わずヘンゼルも目を見張る。確かにそこには母がいた。止める間もなく、グレーテルは駆け出していってしまう。

「マジで? 感動の再会はやっ。ウケるんですけど」

「魔法使いさんは黙ってて」

 言いながらヘンゼルはグレーテルを追いかける。もうすでにヘンゼルは母に声をかけてしまっていた。母は目を白黒させて、二人のことを見ている。

「どうしてここに。森からここまではあんなに離れているのに」

「よかった、おかあさん。もう会えないかと思った」

 母はまだ当惑しているようだったが、やがて拳を握り締めて言った。

「会えない方がよかったのよ。死んでいればよかったわ、狼にでも食べられて」

 きょとんとしている妹の手を取って、ヘンゼルは「行こう、グレーテル」と声をかけた。ここにいたって、もっと傷つくだけだ。

 泣き出しそうなグレーテルを抱き上げようとしたその時、近くの看板が母の真横に落ちてきた。誰も動けなくなる。

「そんな言い方ないんじゃないかなぁ。その子に黙っててって言われたからあんまり話したくないけど、あんたの子供だろ。赤の他人にもそんなこと言わないよね、普通は」

「赤の他人だもの」

「口答えするなよ」

 バチッと音がして、空中に火花が散る。それを見た母が、怯えた顔で「魔法使い」とつぶやいた。それから突然に、近くの花屋の鉢植えを倒して叫ぶ。

「魔法使いがやった!」

 それから止める間もなく、母は逃げて行った。追いかけようにも人が集まってきて、もう見えない。

 充分なコインを置いて、魔法使いは割れた植木鉢を両手ですくった。呆気にとられたヘンゼルとグレーテルのもとに歩いてくる。

 その途中で、先ほど話しかけていた女性と目を合わせたようだった。女性は吐き捨てるように、「魔法使いって本当に乱暴なのね」と言う。魔法使いは何も言わずに戻ってきた。

「おいで、ヘンゼル、グレーテル。夕飯は違う街で食べよう」

 そうして魔法使いは歩いて行く。慌てて二人はついていった。

 本当は、謝りたかった。二人の母親のせいでこうなってしまったことを、許してほしかった。二人は、何がなんでもこの風変わりな魔法使いに嫌われるわけにはいかなかったのだ。もう頼るべき大人など、二人にはいない。

 魔法使いは、何やらぶつぶつ言いながら歩いていた。

「感情的になるとすぐ失敗する。僕っていつもそうだ」

 いつの間にか景色が街から遠ざかっている。それが彼の魔法によるものなのか、単にそれほど長く歩いてきたということなのか、ヘンゼルにはわからなかった。ただ魔法使いの抱く、割れていたはずの植木鉢がすっかり綺麗に直っていたのは、恐らく魔法のおかげだろうとヘンゼルは思う。

「魔法使いさん」

 勇気を出してヘンゼルが声をかけると、魔法使いは立ち止まって振り向いた。先に口を開いたのは、魔法使いだった。

「こんな嫌われものでもいいのなら、魔法使いさんのところへおいで」

 間髪を入れず、グレーテルが魔法使いに抱きつく。答えはとっくに決まっていた。

「お世話になります」

 ヘンゼルが頭を下げると、魔法使いもつられて頭を下げる。魔法使いの腕の中の植木鉢から、赤く美しい花が揺れていた。

 続けたかったけど提出課題なので自重しました(笑)

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