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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第二章『迷宮の挑戦者達』
9/75

第九話=level:62

「これとかどう?......お、似合うじゃない!」

「ん?おい、インナーの縁にある紋様はなんなんだ?意味があるのか?」

「レースのこと?....というかさぁ、あんたねぇ.....私はこの迷宮のトップの.....はぁ、今は良いわ、とりあえずまともな格好して」

「穿いたぞ」

「そう、じゃあ次に....って上も着けるのよ!?」

「いや、だがサイズが合わない」

「なに言ってるのよ....別にキツい訳じゃないでしょうに.....」

「ああ、キツくはないな!」

「裸で胸を張らないの!じゃ、なにが.....あっ」

「む、着けろと言われれば、仕方なく着けるが.....意味あるのか?」

「ごめん、ごめん、それはサイズが違い過ぎたわね。こっちに付け替えて」

「なんだ、手間ばかり掛かるじゃないか.....これなら上から鎧を着た方が速いだろう」

「.......いいから四の五の言わず着替えるの!あと下も脱ぐ」

「なんだ?着たばかりなのに.....そのまま使えば良い」

「じゃ、聞くけど、専用の剣には?」

「当然っ専用の盾だ!!」

「そういうことよ」

「......ああ、なるほど分かった」



部屋に響くは、脱衣の音と喋り声。

30×30mのこの部屋の隅に行き、着替えている少女とそれを手伝う女性。

女性は何からか守るように少女を隠していた。

その女性の視線は、チラチラと中央に鎮座する豪勢な宝箱を捉えている。


一度着た下着を脱ぐ少女の肢体が、所々見え隠れしており、なんとも妖艶だった。


「これはヒドイ.....なんという拷問。なんたる仕打ち!!」


どうして同じ部屋で着替えるのか?

なぜ、大きな敷居やタオルを使わないのか?

また脱ぎ始めたのはなんのプレイだ?

言いたいことは一杯あるが今は.....


ちょっと、ああ惜しい!!

遠くて見えねぇ.....はっ、ち、違うぞ!

暇になりすぎると動くものに目が行ってしまうことって、あると思うんだ。

ヒラヒラ揺れるスカートとか.....下着を手にとって着方に困ってる前世の妹くらいの少女とかさ。

しかし、女の子はみんな計算してるのか?この角度なら見えないとか.....いやいや、そんな計算できるなら女子って結構......頭が良いんじゃないのか?


そう言えば、前世で親友と『見える見えない談義』をしたことがあった気がする。

なんだっけな、そうそう.....

見えそうで見えない、そうまさに女子高生のミニスカの如く。

でも、意外に見えてしまうと萎えるんだよね?

って、アイドルにすらチャラい。と言われた親友の一言だ。


「つまり、俺も今まさに、見えない.....だが、だからこそいい!」


なるほど、そう言うわけか.....なんか分かってきたかもしれん。

最初に裸を見るチャンスがあったが見なかったことで、ここまで俺を高めている.....フィールが高まっていく!そういうことだな。


昔を振り返り現状を噛み締めていると、着替え終わったみたいだ。

しかし......


「......俺の上司も変態なのか?いや、ドSなのか.....」

「じょうし?ドS?」


俺の声が唯一聞こえる【ブラック・パラディン】に進化した少女は不思議そうな顔をしていた。

少女と共に近づいてきた魔精の上司は、何故かげんなりしていた。


「この子、なんでこんな性格してるの....原因はなんなわけ?」

いや、元々知能は高かったけど、【ダーク・ナイト】は会話なんて出来ないハズ......

進化、進化かな?


ぶつぶつ言っているので何を言ったのか聞き取れなかったが、さっそく、俺と上司の、会話の橋渡しになって貰おうと思う。

いやぁ、良かった。

これで要望を言えたり、返事をしたり出来るってもんだ。

通訳してもらう少女にはちゃんと報酬を渡さないとな。


さて始めに聞いておこう。


「そのデカイ胸の女性に.......てことで」

「そうか分かった」


俺は、少女に通訳して貰い、この世界でも会話が出来る喜びを噛み締めていた。

始めに声が通じたのは少女だが、先に話し掛けてくれたのは、この迷宮の主で俺の現上司の魔精『ダルフ・レファンシア』ただひとりだ。


少女はコクりと頷いた後、隣でお疲れ気味のダルフに声を掛ける。


「おい」


ちょっ、なんで偉そうに話しかけてるの!?

君ィ!間違いなくクビだよ?それ、やったら間違いないよ!


俺は驚きで固まってしまったが....いや、元々固定されてるから動けはしないけど.....

とりあえず、上司いや、この迷宮の代表取締役で間違えないダルフの様子を伺う。


「.....あぁ、はいはい。なによ?」


なんと!?この人怒ったりしないのか?

でも、長い年月を生きていると色々と耐性が出来るってことか......

俺の予想的には、進化した影響による性格の変貌とでも考えているのだろう。

つまり、今回は見逃してもらえそうだ。

よかった。

ふつうは、法律もない実力と魔法の世界でやったら殺されてもおかしくないと思うんだ。

そういう漫画とかよく見るし。

それに、あっちの世界で、上司にそんな言い方したらクビになるのは間違いないよ?


「おまえ、インナーしか持ってないのか?」


お前っていうなよ!?その人は少女の創造主だぞ!

大きく言えば神だぞ!

そして、言いたかないが、それを言ったのは俺だからな、

聞き方があるだろ、もっとこうさ。

『ダルフさん、上に着る服はないんですか?』

とかさ!

それがなんで、

『なんだ、おまえインナーしか持ってないのか?』

みたいになってるんだよ!?


いい加減にしないと.....あ!?

ほら見たことか!!


「おいコラ!傲慢騎士、あんたが鎧は要らないっていったんでしょうが!!」

「痛っっ!やめろ!放せよ。頭が潰れるぞ!」

「良い機会だから、どっちが上か教えてあげようか?ヒヨッコ」

「くそ、乳がでかいのが戦力の決定的差でないことを、いっったああたあたたたたたたた」


ふむ、これは.....

「キャット・ファイト?」


頭に青筋を浮かべ、とてもとても怖い形相で少女の頭をアイアンクローするダルフ。

少女は必死に抵抗し、やり返そうとするが......あれだ身長差と腕の長さで、ダルフの片胸を鷲掴みにするのが精一杯のようで.....あ、ありがとうございます。


やべぇ、ここ、良い職場かもしれん。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

あれから数分後......

なんとかダルフと会話することに成功した。

今回はそれなりに伝えてくれているようだ。


「そう、固有スキルによる進化促進.....か」

「そう言うわけだ。そうだ」


「『これ』は?」

「ん?もう一回頼む......『こどく?』ていうので生まれたそうだ....おい、『これ』っていうのは私のことか?」

無視して先へ行く


「そっかぁ、好きに進化させられる訳じゃないのね.....その『こどく』っていうのを実行するにコストが膨大だし、成功するかも不明となるとなぁ」


ダルフさんは質問に答えまくったら、満足したのか、考え込んでいる。


あ、上下関係の構築終わったようです。

少女は渋々って顔をしていますが、とりあえず認めたのでしょう。

あのまま言ったら漆黒の聖騎士(笑)さんになっていた気がしないでもない。

性格はヤンキーとか?

お、おそろしい......既存の常識を壊す勢いだったな。


「ブラック・パラディン、ダルフさんにそう伝えてくれ」

「......ふんっ」


あん?さっきは素直に伝えてたんだけど......二、三回やり取りをすると、なにが不満なのか機嫌が悪くなってきた。わからん.....


「なに、怒ってるんだ?」

「私か?別にぃ、怒ってなどいない。この身は、進化した故に精神的にも強度は上がっている」


ふんっと鼻を鳴らしていた。

しかし、いい加減に騎士甲冑でも麻の服でもいいので着て欲しいんだがな。


ツンケンしている少女は、結局インナーだけの下着姿のままでいた。

これは、彼女らの会話から推測すると、ダルフが『専用の剣には、専用の盾が......』という話に影響され、ならば聖騎士になる自分は、専用の装備で身を固めるのは当然だろう。

故に俺が作製した剣【ネビリス・聖】の専用装備が欲しい.....いや、それ以外絶対に着ない!と駄々を捏ねたらしい。上司.....苦労が絶えなそうだな.....

俺が作ってあげれば済むって?

バカを言うなよ.....俺は宝物庫の宝箱だよ?

そこまで至る過程がないやつに挙げないよ。

当然の判断だ。

創るのはいい、だが苦労して手に入れている冒険者がいる手前、例え同じ【魔】のモノでも『手順』を踏んで貰わないとな。『蠱毒』で生き残るとかね。

因みにちゃんと上司と相談した結果だ。

と、いうわけで、欲しければ階層主を倒すか、冒険者を撃退するしかないのだ。


「まぁ、初層域1階層から頑張れよ」

「なんで階層主の過去を持つ私が......」

「いや、オマエ、まだ階層主やったことないじゃん」


そんな話兼説得を少女にしていたときに、上司である魔精のダルフ・レファンシアは俺の部屋に無尽蔵に散らばるモンスターの死骸......素材をせっせと仕分けしていた。

ああ、言い訳の件は、余裕で通った。


小芝居


『ね?ここスッゴい臭かったじゃない?あとキモかった』

『あ、そうっすね』

『なんで宝物庫なのに死骸とか生肉とか転ばしておくのよ?』

『え?知らないんですか!?こういうのって素材として使えるんですよ?』

『素材?なにそれ?』

『例えば、その「バジリスクの頭蓋」』

『ちょっ!深層域のボスじゃない』

『ああ、子供ですよ。それ』

『え?子供??......いやいや、何しようとしてたか理解したくないわ』

『それから、「石化の義眼」ていうのが作れたりしまして.....』


と、言う感じに【サポート・アシスタント】の知識補助を受けつつ、説明をしていったら.....行けた。

今では何故か、すごいわ!発見よ!とかいって、嬉々として散らばっている素材を自らの部屋から持ってきた棚に並べていたのだ。


「目の前で上司が仕事をしているのに手助けできない俺は新人失格だと思う」

「私も手伝ったら、装備を『断る』......」


少女に連れなく返す。

少女は少しばかりしょんぼりしていた。


妹ぐらいの少女がしょんぼり.....

ぐぬぬぬぬぬ。


そもそも作らなくても、俺の中に格納されているんだけど、やはり出すべきか.....このままインナー姿で迷宮を歩く気なのか?それは避けたい。

いたいけない少女がそんなの危険すぎる。

出した方が......いやいや、ダメだろ。

特別を作るわけには.....


そんな葛藤の中、全く別の話を振ってきた上司。


「あ、そうだそうだ、進化したんだから私からギフトとして名前あげるわ。固有名必要でしょ?いつまでも【ブラック・パラディン】じゃ、ね?」

「......!!」


はっと顔をあげる少女.....あれもしかして、さっきから不満だったのって名前の事だったのか?


そういえば俺は、偽宝箱(トレジャー・ミミック)の【水無月】だが、そう考えるとせっかく人族と変わらない知能を手に入れたんだから欲しいのは当然だったか。


期待した眼差しを送る少女.....


「.....じ~~~~~」

「なぜ俺を見る?」


ダルフはどうしようか、どうしようか、と悩んだ結果パァッと顔を明るくさせた。


「決めました!コバルトブルーの綺麗な目、好戦的な目付きに、肩に掛かるウェーブの銀髪」


少しの溜めを造り、俺たちの視線を集める。

ごっくり......


「ベルベット・アネスト!どうかしら?」


ん?おお、いいんじゃないのか?

本人も気に入るだろ......


「いいんじゃなーー」

「ふんっ、断る」


は?

「え?」


ダルフも唖然としてしまっているのは仕方ないことだが.......

おい、おい、お前さんはあれか?この方がお嫌いなの?

ダルフほどの美人が泣きそうになってるぞ。


「いいわ!好きにすれば良い!私は帰る」


ふんっと言ってドアから出ていてしまった。

振り向くときに光に反射する粒子を見た気がする。


「じ~~~~~~」

「あれか?俺が決めるのか.....」


何故だろうか?インプリなんとかをしちまったんか!!

しかし、俺もいい加減に、対人耐性が悲鳴を挙げるぜ。

一人になりたくなってきた......


名前名前....


「なぁ、安直なのしか出てこないんだが....さっきので良くないか?」

「決めてくれるならなんでも良い、剣心に誓う」


ひてんみつる.....

はいはい、剣と心ね。


名前か、そうだな.....


漆黒の聖騎士.....黒い聖騎士.....くろきし.....くろきしで聖


黒木(くろき) (ひじり)なぁ~んちゃって!おいおい、日本人かよ!って突っ込まれちゃうね」

「それにする。【認証】」


ー【ブラック・パラディン(黒木 聖)】固有名獲得ー


え、マジなの?











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