第八話=level:62
俺の上司であり、迷宮の創造主である魔精ダルフ・レファンシアは、5千年前まで生物精霊として存在していた。今は打倒○○さんに向けって頑張っています。
それだけで済むのに、ウチの上司の話はくそ長い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
私が魔に堕ちた原因は生物精霊にとっての力の源『信仰心』が段々と薄れていったためだ。
生物種の精霊として昔は、自らの種と共に暮らしていたが、世界が発展されて人や種族が入り乱れると自然とそう......信仰心なんて無くなっていった。産業や技術により、守護精霊の力を借りずして物事を解決できるように成り代わっていったのだ。
精霊種の寿命なんて膨大で、無いにも等しいが、植物精霊や生物精霊、果ては物質精霊至るまで、彼らの種が絶滅することで、精霊種である彼らも同時に力を失い死んでしまうのだ。しかし、植物精霊は独自の【領域】をもっており、自分で定植することも可能とか、舐めた連中である。
だが、変わりに現実世界(こちら側)に干渉するためには、精霊魔法師に召喚されるか、こちら側で定着した植物を媒体にしないといけないのだ。ざまああみろ!!あと、配下を乗っ取りとか良心が痛まないのか!!
物質精霊は、糞だ!
あいつらは荒らすだけの盗賊だ。
私たちが生まれる前から地面の中に居やがって!私が種(子供)のために働いていたときに、そいつらは寝ていただけなのがむかつく。
そういう精霊種の中で考えると、その分私は精霊種の中でも生物精霊という『エリート』である。
自らの種の為、力を貸すのは当たり前だ。繁栄のために助言もする。
それから、自然精霊......あいつらは......特にない。
強いて言えば、ただそこに居るだけの災害だな。
私の種はこの容姿端麗、眉目秀麗な姿で分かるだろう?
そう、ダークエルフの精霊種だった。
だったて言うのはもう、魔精になったからだ。
しかし、今でも意識的にはダークエルフの精霊だ!
神聖を語るフェミニストのエルフなんて目じゃない程の身体能力!
鋭い直感!
深い夜でも見渡せる目!
ダークエルフ独自の呪術式!!
ただの浅い森で住まうエルフと、その面の皮が厚いエルフの精霊種とエルフの関係なんて、比べ物にならないほど私たちは種全体で、心から団結してた。
魔に堕ちたのだって『信仰心』が失われたからで、今だって存在しているし、種の数はエルフより多いはずだ。
そして、もっとも誇らしいのが私の種(子)達は【魔皇】に至る因子を持っているものが多いということだ!有名になった中で一番なのが世界の抑止力または、バランサーともいわれる魔獣を従える魔皇として、東大陸を震撼させたことだな。
その後、討伐隊を組まれエルフ共々純人族に刈られたが.....それが魔精に堕ちる決定打となったな。
当時は純人族が憎くて憎くて堪らなかった.....今もだが。
そして、魔精として生まれ変わった私は、数々の国を滅ぼし、略奪し暴虐の限りを尽くしたんだ!
あいつらがしてきたことをやり返せて、少し溜飲が下がったな。
それから、しばらくは国とつくものを滅ぼしまくったが、あるとき奇妙な一団を見つけて、興味本意で私は襲い掛かったんだが、数々の国を落とした私と実力が拮抗しているヤツがその中に沢山いたんだ。
あり得ないと思ったさ。
だってあのときの私は力の源が『知名度』だから、この時代で『呪殺のレファンシア』と聞けば、神に祈るヤツがいるくらいだった.....つまり能力値は大幅にあがっていたハズなのに、引き分けだったんだ。
アイツが使う電撃兵装を崩すことは出来なかったのさ。
だってよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「あのときから私は考えた末にダンジョンで有名になれば、知名度もうなぎ登りだろうってね」
魔精なのに本能による殺戮を我慢して、手回しをして、倒せるくらいに強くなって、迷宮としても『知名度』をMAXまでして......
「そして、完全に力を貯めたらギッタンギッタンにしてやるのよ」
「そうなんすか!すごいっすねっ」
身ぶり手振りで話すダルフ。
俺の相づちに不満なのか、眉をよせ、俺の上蓋に足を乗せてきた。
みえ.....る。
見えるぞ!!黒とかセクシーすぎる
「ちょっと、なんとか言ったらどうなのよ!」
ふむ、やはり声が聞こえないようだ。
というか、上司の自慢話飽きたんだけど......
あれ、俺って耐久ゲーム苦手じゃなかったのに、上司の話長くてヤバイわ。
その話始めて3時間だぞ!?
俺の声が聞こえないのを良いことになに語ってんの?
父さん.....父さんもめんどくさい上司の対応とかどうしてたのかな.....
「視察終わったんならクッチャベッてないで帰れよ」
そして、聞こえないのを良いことに美人の魔精に吐き捨てる。
「そもそも、そんだけスゴい主が来たんだから挨拶ぐらいしなさいよ」
やはり聞こえていないようで、今度はしゃがみこんで小突いてくる。
小突かれたり、蹴られたりする度に、俺のVITがうなぎ登りなんだけど......
くそ、美人に足蹴にされて強くなるドMみたいじゃないか!!
心外だ!!
1つ目の解決策としては、『筆談』と言うものがある。
どうやら文字が通じることは前にいた冒険者で試したので、それと同じく俺が紙に書いて筆談する方法。これだと、まどろっこしい!とか言って俺の中に手を突っ込んできそうだからパスだな。
2つ目は、このまま去っていくのを待つ方法。
いや、これはない。俺は別に嫌われたくないし隔離も嫌だ。そもそも、聞こえていないだけで話せばわかるさ.....
「ま、その話が出来なくて困ってるんだけどな、ははっ」
ガシッと全体を両手で掴まれた俺を、持ち上げようとして豊満な胸を押し付けてくる上司は、諦める気はないようだ.....
「知っているんだからね!あんたが偽宝箱だということは!!」
「いや、俺説明したしな」
当然会話は通じていないため噛み合ってない。
台座に固定された俺を持ち上げることだけは諦めたのか、今度は揺らしてきた。
「いいから、教えなさいよ!進化の方法を!!」
「おい、やめろ、シェイクするな、そんな!?目の前で、プルンプルンしてんだろうが!!!」
童貞の俺にはトんだ拷問だぜ。
胸には夢が詰まっているとだけ言っておこう。
されるがままになっていると、状況は動いた。
「おい、やめるんだ!」
魔精で我らの上司であるダルフ・レファンシアの肩に手を置く少女の姿があった.......
振り返る上司。
驚いて手を離してくれたが、そういえば俺もすっかり忘れていた。
ここにもう一人いた、ということに.....
いや、しかし、こいつは大物なのか.....進化したことで知能に大幅にプラスされているのか、自意識をしっかり持っているようだ、理性的とも言える。
ただ......放置したのは俺だが、思うことがある。
いや、上司も思ったのか声が聞こえはしないが被ってしまった。
「服着なさいよ!!痴女なの!?」
「服着ろよおおお!!」
ダルフの真後ろに丁度重なっており、俺からは大事なところは見えていないが.....チラチラみえる美脚.....ありがとうございます!!良いご褒美や。
強いて言えばあれだ。上司のダルさん右に寄ってください(切実)
「くっそ!隠れやがって!!」
俺はつい口に出してしまったが聞こえるわけもないだろうとタカを括っていた。
「なに!私は逃げも隠れもしない!」
「ちょ、突然なに言っているの!?体は隠しなさいよ!!」
ダルフを押し退け、こちらに進み出ようとする少女と必死になって押し止めるダルフ。
あれ?
いま、俺の声に反応したかのような......
ちょっと試してみるか.....
魔精の上司は上手い具合に、俺から見えないように少女に服を着せていく。
くそ、隙がねぇ....さすが歳だけは食ってやがる。
「はっ、今なんか虫酸が走るような感覚が.....」
ダルフが敵意満載の視線で周りを一舐めする。
おっと、あぶないあぶない。
思ったことが気づかれるところだった.....
女性に年の話は禁句だって母さんが言ってたからな。
せっせと世話を焼いている上司を尻目に少女に問いかける。
「おい、俺の声が聞こえたら復唱してくれ、『黒パンはセクシーすぎないか?』て」
少女の視線がやはり俺を捉えている気がする。
どうだ。
「くろぱんはせくしーすぎないか?」
頭に疑問符を浮かべながら復唱する少女......
イントネーションはどうあれ、こいつには俺の声が聞こえるらしい。
「ッ!??」
そしてそう言われ唖然とした魔精のダルフ・レファンシアは理解したのか顔を真っ赤にしてパッとスカートを押させる仕草をした。
「おし!」
いや、勘違いするなよ?このオシ!は辱しめたことじゃなく、声が通じたことだからな。
これにより、上司とも円滑に会話が出来る可能性が出てきた。
これで、永遠と長い話に晒されなくてすむぜ!!