第二話―聖&コメット&リフレク side 3『精霊のいぬ間に』―
ちょっとした出来事
迷宮の188層。
自分の領域の泉から顔を出すウェルイッドに、泉に腰かけ足でバシャバシャして水を飛ばす15才くらいのダルフ。
ダルフがいるのは、お金がつきたので財政を管理している(押し付けた)ウェルイッドに催促に来たためである。
ダル「てなわけで逃げてきたわけ」
ウェル「…とりあえず水を飛ばすのをやめなさいよ」
ダル「いや、本当は街でエンジョイしたかったんだけど」
ウェル「やめて正解ね、聖ちゃんが可愛そうだわ、こんなのと勘違いされて」
ダル「いうね!言ったわね! だけど安心して『聖のおねえさん』で通ったわ!」
嬉しそうに「それでねおまけまでして貰ってね」と話始めるダルフに呆れるウェルイッド
ウェル「……買わされたのね、たぶんちょろさで判断されたのかしら」
とりあえず、ウェルイッドは明日の分として渡そうとしていたお金を減らすことにした。
「それにしても、あの試合はスゴかったですね。 まさか引き分けとは思いませんでした」
リフレクが今日行われた準々決勝について、想いを深く吐き出すように言った。
場所は、商店街にある居酒屋。
なぜ商店街にあるのかというと、店を出すオーナーが商店街で仕事をする人々を狙ったためだ。
よって、この酒場では商店街のご近所付き合いもあったり、出てくる料理も商店街で仕入れたものを使っており、自分の店で扱っているのもが上手く料理されているのを知って、商店街で店を構えている
彼らの行き付けにもなっていた。
店内は広く、何個もある丸テーブルに沢山の椅子がセットされている。
天井は高く、換気のためかゆっくりと上空を回転している白い渦が見えた。
さながら、衛星写真の台風のようにハッキリと視認できる。
その台風の目にはキラリと光る魔石が動力炉になる魔導具の一種なのだろう。
天井を見上げて、今日のことを振り返っていると、隣で大きな魚のステーキを食べる聖が眉を寄せる。
「私たちの次の試合のことだな……でも、あのダークエルフと相手のエルフ誰かに似てる気がする」
聖は気になるのか考え込む素振りを見せたが、それも一瞬だった。
「ま、両方戦闘不能になり、私たちが何もせずとも決勝に進めたのだから良しとしよう!!」
「どちらと戦っても負けていましたね、私たち」
ある意味戦わなくて済んだと思うリフレクだった。
それほどの、それこそ、高次元の闘いだった。
リフレクは思い返すだけでゾクゾクと背中を何かが駆ける感覚に襲われる。
リフレク達が試合を終え、対戦相手を直に見るため観客席に戻った頃、審判兼実況をするコカトリアの声が戦闘の開始を告げる所だった。
両者は、片やフードで全体を隠すが、風で見える褐色の肌に光を反射して輝く銀の髪をもつ聖より少し大きく出るとこ出てるダークエルフと、片やエルフの仲間を5人つれたっていた美男美女ばかりのエルフの中でも、他の追随を許さぬ、美しさと気品をかね揃えた煌めく金の髪をもつエルフの人物だった。
チーム戦だというのに一人のダークエルフが不利なのは間違いないが一回戦をその身で勝ち上がった猛者だバカにするものはいなかった。
しかし、対戦開始時に起こったことに会場がざわついた。
エルフ側が真ん中でたつ、一番美しいエルフを除いて会場にセットされた結界抜けてしまった。
遠くて見えないが、指を突きつけるフードのダークエルフと、明らかに隙を晒して、真後ろの結界を抜けるエルフに身振り手振りでなにかを訴えるエルフの姿があった。
困惑する会場にたいして、実況をするコカトリアのマイクの声が聞こえる。
『あー、どうやら一対一で戦うようですねぇ、 そうですよね、私も巻き込まれたくありませんし、巻き込んでいいのはウェルだけでですので、とりあえずこの試合はチーム戦というよりも個人戦の色合いが強くなってきましたけど、まぁ、聖騎士も一対一でやりあってますので問題はないでしょう……さて、私も退避しましたのでどうぞやりあってください』
やる気というか、この試合にあまり興味がない声音だ。
両者はお互い顔を見合せている。
立ち上がりはそれはもう低レベルの喧嘩のようだった。
声は途切れ途切れでしか聞こえないが、口が早く動いていることから、相手を罵りあっているのだろう。
大声で叫んでいるようだが何故かいくつかの声が届かない、これは、コカトリアが特別に二人の身元がバレないように手を廻して音穿つ結界を張ったお陰である。
口の動きで喋ることが分かるのなら、彼女達が『ませい』とか『ていのうめいきゅうぬし』とかいっているのが分かるだろうが、しかし、観客の安全のためにそれほど近くないため読むのは不可能だろう。
それが5分くらい続いた頃、二人からおびただしい殺気が溢れだしてきた。
口喧嘩がヒートアップしたら、どうなるのか容易だろう。
観客も疎らに聞こえる声からやっと対戦に移行するのかと若干飽き飽きしていた所だった。
しかし、この低能な罵りあいをする二人だ。
きっと足したことあるまい誰もが思ったが、それも即座に覆される。
エルフが指を鳴らした瞬間にエルフの周りに100を超える火、水、風、土、光、の自然属性の魔法弾が浮いていたのだ。それは随時数を増殖させている。
ひとつ前の試合の魔女が見せた大砲撃を超える光景だ。
しかもそれを制御できる恐ろしい事実。
エルフが手を振るうと魔法弾は次々と射出されていく。
結界が壊れるかもしれない振動は大地震に匹敵し、その魔法が打ち出される光景に恐怖に染まる人々がいるくらいだ。
一方的な展開に見えたが、攻撃をしている筈のエルフがその場を右に避ける。急に動いたことで魔法の攻撃が中断されていた。
エルフが展開していた魔法弾の数が30くらいになっている。
エルフが見つめる先には、視界を遮る煙を散らす無傷のダークエルフが出てきた。
今度はダークエルフが、袖口から大量の長方形に切られた紙を取り出して、エルフに投げつける。
すると、御返しとばかりに様々な形状の黒い群れがエルフに襲い掛かった。
ひとつの紙からひとつの事象が飛び出してエルフ殺到する。
黒い炎、黒い雷、黒い水、禍々しい瘴気、影の槍、剣、ムチ、あとは黒い魔物達。
それを追撃する光の槍、剣、光の生物。
遥か昔にあった大陸間戦争の再現が闘技場という狭い場所で行われているようだ。
もうここまでで、お腹一杯な光景だが、お互いの実力は拮抗していた。
実際には二人はこれでも手加減して戦っているのをしているのは、実況をほったらかして、会場の隅で椅子に座り手元の四角い何かをいじるコカトリアだけだろう。
聖は、驚くかと思ったらそれほど驚いてなく、逆に何か考え込む始末。
「いや、あの黒い炎、どこかで………」
『………』
コメットは無表情で戦っているエルフをガン視している。
リフレクは怖かったので話しかけなかったのだ。
こんな光景でも、自分達に被害がないと知れればホッとしたのか、更なる盛り上がりを見せていた。
今大会聖騎士よりも盛り上がった試合になったに違いない。
魔法の衝撃と爆音と観客の大歓声の中、次なる動きがあった。
ここまでの闘い、後方からの火力勝負をしていたため、エルフは魔法使い、ダークエルフは呪術士と思っていたが、この黒い槍や、白い生物が入り乱れるカオスな戦場に、エルフが光の細剣を右手に生成し、ダークエルフに向かって走り出した。勢いを止めず、黒だけを切り裂き、舞うように突き進んでいく。光の細剣からは粒子の残思が剣の奇跡を描き出す。
瞬く間にダークエルフに迫り、刺突を繰り出した。
一瞬の内に七つ刺突。
しかし、ダークエルフは身体を剃らし、それでもかわせないのはローブを裂かれるが四肢を使い打ち払っていた。
反撃に地面すれすれまでしゃがんでいた状態から足に闇を纏わせ蹴りを放っていた。
片手でガードしつつあえて遠くまで飛ばされ、仕切り直しを図るようだ。
その頃には、会場に現れていた光と闇の魔物は綺麗に消えていた。
そして再び、激しい戦闘が…………………
とあったことを思い出していた。
「結局お互いの必殺がクロスカウンター気味に入ってノックアウトですからね」
「ふっ、私ならエルフに勝てたが、あのダークエルフは最後に立てないとは情けないな!!」
「その自信はどこから来るんですか、私たちが戦ったら、多分5分と持ちませんからね」
どこに勝てる要素があったのか不思議なくらいだが、この際聖のいうことはあまり気にしないことにした。
そして、この酒場は、なんと貸しきり状態だったために回りに誰もいない。
こんなんでやっていけるのかと、不思議がるリフレクだが、一度お手洗いで外に出たとき、入り口に『貸し切り!我らの金づ(斜線が引いてある)商店街の黒い聖騎士様一行!』となっていた。
リフレクは見なかったことにしたのである。
「遅くないですか、コメットさん」
店主にお金だけ払って用事があると何処かに消えたコメットのことをリフレクは心配する。
「店主!、これチーズ固まってるぞ! え?放置するからだって? 私のせいか!?」
「聞いてるんですか? 黒木さん、ほら」
「ああ、ありがとう!」
店主に文句をいう聖の掲げる黄色い物体を、適度な加減で火の魔法をかけて柔らかくする。
「コメットか? いや、多分だがすぐは無理じゃないか?」
かなり怒ってたし、と付け足す聖はチーズを伸ばして遊んでいた。
確かに、コメットの様子が、あの二人の対戦を見ている途中で可笑しくなった気がしていたが、リフレクは怖くて話しかけれなかった。
「わからんが、私もあの目を何度かされたが、説教だったら1時間で解放すると思うぞ?」
「誰を説教しにいくのかは知りませんけど、私の前でチーズで遊ぶ御方の説教をしてほしいと切に思いますけど」
(つまり、あと15分で戻ってくるのですか、危険なことじゃなければ……ってまるでわたし仲間のように!?)
「なに、突然にやけている? キモいぞ!」
「きっ、キモ!? 友達にも言われたことないのに!」
「と、友達……いたのか?」
喉をならし唸る聖に、リフレクは顔をフイっと背けた。
「……いると言いたいです」
「すまん」
ちょっと気まずい雰囲気のままコメットが来るのを待っていた。
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そのころコメットは、エルフの秘店から帰り道であった。
このまま、聖がいる商店街に向かうつもりだ。
自分達の試合が終わり、観客席で見たのは、会場で戦う自らの生みの親と言ってもの過言ではない人物と、最近まで世話になっていた元ご主人様の二人だった。
どちらも認識阻害を使いつつ、見た目も変わっており始めは気づかなかったが、戦闘を見た瞬間に15才くらいのあの少女は誰なのか理解してしまった。
こないだ冒険者ギルドの酒場で、魔精の従者とエルフの女性にバレたように、コメットも気がついてしまったのだ。
込み上げてくる感情を押さえるために無表情を維持したら、リフレクに恐れられたが、この際そこまで気が回らなかった。
『……………はぁ』
結局、商店街に借りを返す意味も込めて酒場を貸し切りにした。
あそこの連中のことだ、上手く取り分を配分するに違いない。
コメットは少し落ち込んでいた。
なぜなら、ちょっとした注意で来たのに、秘店にて魔精エルフィ様に正座をさせて説教をしてしまったのだ。
いつもの大人な体型なら、こちらも自重して注意で済んだのに、あの15才くらいの状態のエルフィ様を見ると聖と同年代に見えてしまい、何故か歯止めが聞かなかった。
聖にそっくりのダークエルフは逃したことが悔やまれる。
きっと原因はそっちにあって、エルフィ様を焚き付けたに違いないからだ。
あと、怒られているエルフィ様がなぜか少しだけ嬉しそうな様子に見えた。
「こんなに親身に……」とか涙ぐんでいた。
コメットも落ち着き、二人で紅茶を飲んでいると、あの初代と言われる金髪の青年がエルフィに用があるらしく訪れてきたため、支給だけしてこうして退散したわけだが、アーサーと言われる青年がエルフとは違った金髪に水色の瞳をもつ、変わったしゃべり方の少女を連れていた。
「アーサーにホーリーどうしたの? 3時間ぶりね」
「うん、お互いお疲れ様だね」
「エレメント、お手伝イできまス?」
「エルフィですって、やっかいごとですか?」
「あぁ、身から出た錆びっていうのかな、聖騎士でちょっと」
「おバカさンがいたですよ……」
そう言って奥の部屋に入っていってしまった。
気にならないと言えば嘘になるが、しかし、コメットの心労の今や6割はある人物で占められている。
こうして離れている間に何かしでかしていないか不安で堪らない。
『急いで戻るとしましょう』
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『といって戻ってきたら………なんですか?これは?』
商店街の酒場についたコメットが見たのは、テーブルに突っ伏して動かない顔の赤いリフレクと、隣で愉快に笑うリフレクの知り合いのクリエイト。
さらに下着姿になり、この剣や盾がどんだけ素晴らしいか、頬ずりしながら語る聖の姿だった。