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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
73/75

第二話―聖&コメット&リフレク side 2『反射』―

遅れました。

どうもすいません。

あと、二話で終わりになります。

聖達の二回戦は対戦相手の第三王女の魔法攻撃よって始まった。

爆発に包まれる聖達。

立て続けに起こる大規模な魔法の爪痕。

収束された一条の光が薙ぎ払い。

地面から鋭い岩石が迫り。

大気を焼くオレンジの炎のつぶてが無数に着弾していた。

会場は振動に見舞われ、一回戦での戦闘とは全く違う王女側の攻めに息を呑む。


一回戦では王女が前面で宝剣を振るい華麗に舞っていたが、今回は王女の後ろに控える残りのメンバーからの魔法による一斉射撃に度肝を抜かれている。

観客は、王女とダークエルフの亜人による一騎討ちになるだろうと予測していたが、蓋を開けてみるとなんという一方的な攻撃だろう。

王女側の残りのメンバーは実力を隠していたとでもいうのか、まさにこの一戦のために切り札を切ったのではないだろうかと思う。

この光景を見た王族の席では、会場と同じく唖然とする王と王妃。

そして、大会に親衛隊を出していた第一王子と第一王女も冷や汗をながす。

いまだに攻撃は続いている。

途切れないように、うまく詠唱を挟み指示を出しているのは紛れもない第三王女のシシェル・サードラウンドだった。


攻撃が5分経過した。


会場ではもう勝負はついているだろうと、終わりの雰囲気がそこかしこで感じられる。


しかし攻撃はさらに10分経過。

するとどうだろう。

魔法を打ち込む魔法使い、僧侶などの足元に魔力回復薬の瓶が四散している。

そうして、一人また一人と膝をつき肩で息をする王女パーティー。

最後に風属性の上級魔法【テンペスト・ライン】の風を圧縮させた切断攻撃が入り、会場の結界をビリビリと痺れさせ、爆発で見えなかった煙を霧散させた。

その攻撃を撃った魔法使いはバッタリと地面に倒れ伏している。

しかし、攻撃をした王女のパーティーメンバーは顔に笑顔を浮かべている。

ここまで攻撃すれば、さすがのあのダークエルフを打ち崩せるだろうと、表情に出ている。

そしたら、いままで指揮をしていた迷宮の幹部を倒しているシシェルが、残りのメンバーを一掃できると信じて疑わなかった。

よしんば、ダークエルフが倒せなくても誰か一人でも削っていれば、体力を温存していたシシェルとシシェルの付き人をしている天使のハーフであるナエトで二対二に持ち込むことが出来る。

さらに相手はこれだけの攻撃をうけているのだ、間違いなく誰が見ても有利だ。


この作戦を考えたのは、シシェルの学院の同級生で同じパーティーを組んで迷宮に潜っている魔法使いの【マリーネ・テレスト】だ。

マリーネはシシェルが学院で対戦相手であるあのダークエルフと一緒にいる所を何度か目撃しているが、どういう関係かは分かっていなかった。

ただ、シシェルが勝ちたいと言うことだけは、雰囲気で分かったためにこの作戦を提案したのだ。

シシェルから聞いた相手の情報を纏めると、

魔法耐性が異常に高い剣士と、滅多に攻撃しないが防御力が異常に高いエルフということが分かった。

もう一人は、冒険者によくはぶられている魔法使いの少女。

としか分からなかったが………

つまり、どちらかを打ち崩せば、残りは手負いの亜人と戦力外の少女だ。

迷宮幹部との闘いを共にしたマリーネはシシェルが負けることはまず無いだろうと確信していた。


(っ……煙が)


相手を覆っていた煙が消えていく。

結果は………


霞む視界を向けるマリーネは、閃光と爆発によって意識を失った。



###

パーティーの指揮を取っていたシシェルは、魔法に晒される聖たちを見て何も反応がないのが不気味に感じていた。

対戦前に所定の位置に移動する際、


「俺達の実力見せてやるからな! 覚悟しろよ」


と意気揚々と宣言したシシェルに対して、


「ふっ、望むところだ! かかってこい」


とその場で剣を構え受けてたつと言っていたのを思い出す。

しかし、作戦上、自分が一人で飛び込むと思わせて、魔法による爆撃で有効打を与えることになっているため、うずく体を押さえ、聖達と最初に冒険したときに手にいれた宝剣を指揮棒のように振るい的確に指示を飛ばしていた。

いまでは英雄などと持て囃されるがシシェルが幹部を倒せたのは、ナエトから譲り受けたこの無色透明な刀身をもつ短剣のお陰だ。

三回切ったら折れる特性を持つが、刀身を再生させるスキルと、非常な切れ味をもつが故に最強の硬さを誇る幹部を自身のスキルによる速さを活かして二閃して、別の剣でコアを砕いただけだ。

シシェルは自分の力で勝ったのかちょっと不安になったりした。

しかし、今回の相手であるブラックパラディンの黒木聖は、シシェルが思う中で、宝剣を使っても勝てるかどうか分からないと思わせる人物だった。

鋭い切れ味をもつ剣を振るっても、聖がもつ漆黒の剣に傷を付けれる気がしないし、その服も同じだった。

一回戦の聖の暴走とも言える所業と、侍による技をくらい軽傷で済ませる人だ。

きっとすべてをぶつけても、応えてくるとシシェルは考えている。

だからか、

この不気味な沈黙がなぜか自らの首をゆっくりゆっくりと絞めていくような重苦しさを感じていた。

シシェルは後ろで皆に魔法威力上昇の支援魔法をしているナエトに話しかけた。


「ナエト、おかしいと思わないか? 」

「うん、僕もそう思う。 聖さんへの攻撃は基本的にコメットさんが結界を使って防ぐものばかりと思っていたんだけど」

「確かに、そうしたら、ナエトが【障壁突破】の魔法を掛ける予定だったな」


ある程度相手の先を読んでいたが当てが外れていた。

しかし、攻撃を止めることなど出来ない。

これはチャンスでもあるのだ。

コメットという最大の壁が機能していない今、逃す手はない。


(もし、これで勝負がついてしまったら、少し残念だな)


と思ってしまうほど相手の抵抗が無かった。

そうして最後の攻撃が終わり、シシェルもナエトも流石にやり過ぎたかと思っていると。

煙が晴れた向こう側が見えた瞬間、体の動きを止めてしまった。

予想していない結果に動かない身体。

油断していたわけではないが、それは考えてなかった そんな表情だ。


しかし、その硬直はもはや命取りである。


「シーシェ!? 【天の楯……」

「くっ、【瞬し……」


ナエトが天使の盾を召喚しようし、

シシェルはその場から【スキル】による移動を試みるが、


一歩も身体が動かせななかった。

驚愕に染まるシシェルの腰に光の障壁が産み出され、身体を空間に縫い留められていたのだ。


「これは!?」

「コメットさ……ん」


二人の視線の先には、自分達と同じように拘束され動けない聖の暴れる姿と、その隣でニコリと微笑むコメットがいた。

しかし、問題はその二人の少し前で、片手をこちらに突き出したままため息を付く魔法使いの少女。

いや、魔女の姿だった。

登録は確かに魔女となっていたが、魔女が自ら名乗るのはあり得ない、つまり盛り上げるためのブラフと誰もが思っていたのだ、一回戦の役に経っていない様子がそのイメージに拍車をかけたのだろう。


だが、気づいたときにはもう遅かった。


魔女の手に展開された魔方陣の数は、自分達が撃ち込んだ魔法の数と同じだった。

そうして魔女の口から死の宣告が言い渡された。


『蓄積反射(リフレクションC)』


先程の爆撃と同じ光景が今度は反対側で繰り返された。

しかし、掛かった時間は3分にも満たない。

一辺にすべての魔方陣が火を吹いたのだ。

もはや原型を留めない会場の反対側に、どよめきが起こる。


聖達側も荒れ果てているが、魔女を中心に半径3mは無傷の領域がある。

実況も勝利宣言をするのを忘れるくらいの光景だった。

あれだけ撃った魔法が跳ね返されたのだ。

それをした魔女に畏怖の感情が会場から向けられている。


心配なのは対戦相手の王女達だろう。

しかし、問題は無かった。

会場にある結界のすぐ外にメンバー全員が唖然としたまま、立っていたからだ。

彼らの身体に傷は無かった。

本人達は死を覚悟しただろうが、この結界は『魔精のいたずら』と同じ蘇生転移効果がある。


王女達の姿に王族はホッとして、それを確認した会場は今更ながら、大歓声に包まれた。


『勝者、チーム、ブラック・パラディン!!』


ワーワーと、盛り上がる会場で、シシェルは聖達の方に駆け出した。


シシェルに気づいた聖は、なぜか胸をはっている。


「どうだ圧倒的な強さだろう?」

「いえ、黒木さんが誇るところではないのでは?」


リフレクが突っ込みを入れていた。


「なんだ、あれは! 魔女とかズルいぞ!!」

「そう言われましても………」


そういうシシェルに、困った顔をするリフレク。

ぐぬぬぬと顔をするシシェルに、聖は鼻で笑う。


「はっ、シシェルこれはチーム戦だぞ?」

「ッ!? た、たしかに」


チームで出来ることを最大限に活かすものだろう?

と語る聖にのけ反るように衝撃を受けるシシェル。


「なんかしたり顔で言ってるんですけど、さっき即座に飛び出そうとしてた人がしたり顔で言ってるんですけど………」

『聖ちゃんの口からチームの大切さが語られるとは……』

呆れるリフレクに、なぜか涙を浮かべるコメット。


そうして次の邪魔にならないように会場をあとにした。


後にこの戦いで『魔女リフレクは危険である』『王女を平気で爆殺する』。

という噂が流れ、取りつく島もなくなるのは間違えない事実である。


「もう、迷宮に永久就職したい」

と言い出すのも時間の問題だろう。



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