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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
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第二話―聖&コメット&リフレク side 2『異変』―

太陽は天高く昇り、暖かな光を惜しみ無く地上に降り注ぐ。

昼時ということもあり、クラレントの街中は美味しそうな匂いで満ち溢れていた。

テラス付きのカフェや、冒険者ギルド、果ては自家で人々はそれぞれ思い思いに食事をしている。

彼らの視線の先には、町中の至るところに突如として現れた空中投影ディスプレイがある。

見やすい所を陣取ったり、噴水近くに簡易ベンチを作り大勢で観戦していた。

それは商店街も同じで、人手がいなく店を閉めてまで観戦している店もあるくらいだった。

しかしどこの人々も静かに観戦しているわけではない、商魂たくましくこの時に稼ごうとする者が声を挙げ、食べ物飲み物を売り、非公式にトトカルチョを執り行う者もいる。

街中が異様に盛り上がる中、

遂に、トーナメントの二回戦が始まろうとしていた。



―――――――


闘技場の大型スクリーンに写し出されるのは、トーナメント表。

もはや空白はなくどれもに名前が書き連ねてある。

16組いた出場チームも最早半分の8名。

一回戦を勝ち抜いた8名による戦いが始まろうとしている。

しかも、今度は次の対戦相手もある程度予測が出来るため、力の配分がより大事になる。

お互いの情報はそこそこ相手に伝わっている状況になっているのだ。

人数構成、戦闘タイプ、使う魔法など、一回戦で披露してしまったことで、相手に対策を立てやすくしてしまっている。しかし、互いに同じ状況であり、また、それが真実だとは限らない。


お互いに手を隠して勝ち上がってきている者が多いだろう。

同じ実力者同士の戦いなら、手を隠して勝つことはできないが、力の差が有りすぎれば必然的に隠れてしまう。

それになにより今回の大会は、武具の強さが闘いを有利に運んでいるのは、戦闘経験皆無の素人が試合を見ても勘付く程だった。

魔法使いが使う大魔法を鞭で打ち消したり、無詠唱で魔法を連発したりしているのだ。

熟練の戦士や魔法使い、はたまた他種族の中なら可能な奴もいるだろうが、それを行うのはどう見ても実力ではないのではないか疑っても無理はない者達だ。

鞭を使ったのが学院の見習い騎士だったり、剣士が無詠唱で魔法を連発していたのだ。


異様な光景である。


まるで武器さえあれば、一般市民でさえ街を襲う魔獣を撃退できる気がしないでもない。


『あれさえあれば……』『あれはどこにあるんだ?』『値段はいくらなのだろうか』


そんな声が会場の中からポツポツ聞こえてくる。

これによって更なる関心を引き付けることになった迷宮武具は、既存している武具の市場を荒らしに荒した。

武具作成者である水無月は知らないが、迷宮の知名度をさらに急上昇させることになった。

トーナメントさまさまである。

迷宮の難易度上昇のため、お金が稼げないものために開いたトーナメントも、トーナメント後に危険でもいいから潜らせろと募る冒険者や商人が爆発的に増えるのは王も予想していなかったに違いない。

結果異例の措置がとられることになるがそれは後の話である。

当然の事ながら迷宮の主であるダルフの仕事が増えたのは言うまでもない。


王であるモルドブルーはトーナメントについて深く考えている様子だった。

この一回戦で何かに気づいたのかもしれない。


「順調だが、気になる点が3つ、いや2つあるのだが…………」


呟き眼を瞑り、目頭を押さえる王に、隣に座る王妃が声をかける。


「どうしたのですか? まさか、シシェル(妾の娘)のことでしょうか、そういえば二回戦第一試合でしたね」


手にした扇で王に優しく風を送りつつ首をかしげる。


「いや、まぁ、確かに心配ではある。 正直一回戦を勝つなど思っても見なかったからな、相手はA級の冒険者と言う話ではないか」


「聖騎士になりたいとあなたに直訴するだけはありますね………師匠がよかったのでしょう」


くすくすと笑う王妃。

王妃の言葉に王は微妙な顔を返す。


「昔、シシェルが城に連れ込んだダークエルフだろう? あやつが何を考えているのか我には分からなかったが、初代様が害はないというので黙認しているだけだ」


「シシェルが女だと知って大慌てで、次に連れてきた師匠が男じゃないと知ってホッとするあなたを見るのは面白かったわ」


体を震わせ笑う王妃にそっぽを向き鼻を鳴らす王。


「ふん、だがこれはチーム対戦だ、師弟対決など成立しまい」


「まぁまぁ、それで気になることとはなんでしょう?」


優しい眼をする王妃にハッと気づいた顔をする王。

そうして戸惑いつつも口を開く


「実はな、初代様と初代王妃様にそっくりな人物がチームを組んで参加しているだが、あれは本人ではあるまい?」


そうだよね? 見間違いだよね? と言いたそうな王に、王妃はさっと顔を逸らした。


「………私もそっくりだなとは思っていました」


「…………」

「…………」


数秒の沈黙。


「あ、ぁもう試合が始まるようだな」

「はい、そのようです、ね」


二人が見つめる先では、会場に入ってきた両チームが整列していた。


スクリーンに映る対戦カードは、


『ブラック・パラディン』 VS 『シシェナエト』


と表示されている。


審判権実況をするのは猫耳の少女のようだ。

両者に説明をする少女。


説明が終わりお互いがアリーナの両端に向かい合うために移動しようとすると、シシェルがダークエルフに声を掛けているのが見えた。


二三かわしてお互いが離れていく。



王は戦闘が始まるのをそわそわしながら見守っていた。

初代様のことは頭から追い出している。

というか、今は考えられない。


「あなたが緊張してどうしますか……」


呆れている王妃の言葉が王の心に刺さった。



####

一回戦結果


第一試合


○『ブラック・パラディン』 VS 『セブンスウェル』×


第二試合


×『アルベリー』 VS 『シシェナエト』○


第三試合


○『DRF』 VS 『学院連合騎士団見習いB』×


第四試合


×『正規騎士団【第二王女親衛隊】』 VS 『エルフィナ・ユエリー』○


第五試合


○『聖騎士ガラルハルド』 VS 『学院連合騎士団見習いA』×


第六試合


○『ファーストキングA』 VS 『ジウェル』×


第七試合


○『正規騎士団【第一王子親衛隊】』 VS 『リスペクター』×


第八試合


○『聖騎士ランスロード』 VS 『聖騎士モルディナ』×


####




第二回戦が始まろうとしている会場の歓声は、闘技場の薄暗い通路にも僅かに聞こえてきている。

円形にできた闘技場のひんやりとした場所に黒い髪の白銀の騎士甲冑を纏う少女がいた。

少女は、お昼前に同じ聖騎士の『ランスロード』と対戦していた聖騎士の『モルディナ』だった。

モルディナの騎士甲冑に傷も汚れもなく、本当にあの激しい戦いがあったのか不思議だ。

きっと修復の魔法を使ったのか、それとも鎧に組み込まれている自動修復が作動したかのどちらかだろう。

腕を組んで通路の壁に寄りかかるモルディナは、その場を動こうとしない。

誰かを待っているようだった。


しばらくして、カツカツという金属をうち鳴らす足音が聞こえてきた。

モルディナは眼を開けずに言う。


「おそい、屑がッ」


呪詛が籠っていそうな毒をはくモルディナを気にした様子もなく通路に現れた男は答える。


「いやいや、物事は慎重に行わないと、チャンスを逃しちゃうんだなぁ、これがさ! わかるモルディナっち」


現れた男はモルディナと同じ白銀の騎士甲冑を纏っていた。

そう、トーナメンツに出ている聖騎士の一人『ガラルハルド』。

飄々とするガラルハルドに舌打ちをするモルディナ。


「で? 私が稼いだ時間をうまく使えたの? 使えなてなかったら殺す」


「おおっとご機嫌斜めだなぁ、モルディナっち負けたことが悔しいの? いまどんな気持ち?」


シャッとランスロードとの試合でも抜かなかった聖剣を引き抜こうとするモルディナ。


「ごめんごめん、もちろんやりましたとも!! モルディナっちのお陰で上手くいきそうだよ」


聖剣を引き抜くのを止めたモルディナは鼻を鳴らす。


「というかさぁ、ちょっと不安要素が大きいんだよね、実行は明日とはいえ、次の試合に全力で戦うと明日に差し支えるから、適当に流す予定だけど」


「ふっ、なに聖騎士まで上り詰めて何が怖いの?」


バカにするモルディナに真剣な顔を向けるガラルハルド。


「怖いよ、怖すぎる。俺の能力で危険信号がビンビンだったよ」


ガラルハルドの持つ危機察知のスキルはバカにならない。

その事を知っているモルディナは真剣に問う。


「誰が危険なの? 注意すべきは?」


「これとこれとこれかな」


そういってガラルハルドは手元のトーナメント表から3つのチームを選んでいた。


「分かった、お互い気を付けましょう」

「ああ、これも人族のために」


お互いは用は終わったとばかりにお互い反対に歩いていく。


ズゥーンと長引く振動と魔法の乱発による大爆発の衝撃が通路に響いてきた

二回戦第一試合はもう始まっているのだ。








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